AIR 「頬をつたう涙と笑顔に その二 −駅前−」
--------------------------------------------------------------------------------
「くあ〜、今日も暑くなってきやがったな〜」
霧島診療所を出て、俺は約束の場所へと歩きながらそう呟いた。
絶え間なく押し寄せる木々からのセミの鳴き声、
肌を突き刺すような空からの強い日差し、
その一つ一つが俺の体力を奪っていくようだった。
「くそう、結局今日も一円の稼ぎにもならなかったな・・・」
早朝に目が覚めたのでボスの許可してくれた場所で人形芸を披露したものの、
まったく見向きもされなかった・・・・・・・
ひょっとすると町から出る事はおろか、この町で永住する羽目になるかも・・・
今の所その可能性が濃厚になりつつあるが、それだけは勘弁願いたかった。
それに、いつまでも観鈴の家で居候する訳にもいかないからな・・・・
「まあでも、別にこの町が嫌って言う訳じゃないんだよな」
今まで俺はいろんな町を旅してきた。
大勢の「他人」と出会い、その度にすれ違う毎日だったと言える。
別にそれが寂しいと思った事はないし、俺には旅の目的があった。
だが・・・・・今はどうなのだろうか?
「ま、いろいろ考えても答えは出ないけどな」
俺は考えを振り払って、夏の暑い日差しの中黙々と歩きつづけた。
そして数分後、「あいつら」と約束した場所へと辿り着く。
あれ・・・?
「何だ、まだあいつらは来てないのか?」
あいつらと約束した場所・・・・それがこの古ぼけた駅だった。
この駅は何でももう既に閉じられた駅だそうで、今も人影はなかった。
まるで誰からも忘れ去られたかのように、孤独な雰囲気が出ている・・
「何じっと見てるのよ、国崎往人」
・・・・・そういえばこの駅の中、いろいろなものが散乱してたっけな。
「こら!聞いてるのか!!」
ちゃんと掃除とかもせずほったらかしておいてもいいものだろうか・・・
「むうう・・・・・」
俺は駅をじっと見つめて一人・・・・・・
がす!
「ぐはあ!?」
哀愁に浸っていた時に、突然鳩尾に強烈な衝撃が走り、
俺は思わず膝をついてうずくまった。
「みちるを無視するなー!!」
「こ、こいつは・・・・・・」
長い髪を揺らして、今日の約束の相手の一人−みちる−がこちらを睨んでいた。
俺はというと、いきなりの不意打ちに息も絶え絶えになっていた。
「まったく人が話しかけてやってるのに、生意気!」
「それはお前だろうが!」
しばらくじっとしていたら、かなり呼吸もましになってきたので、
俺は立ち上がってみちるを睨み付ける。
「いきなりよくもやってくれたな・・・・」
「あんたがみちるを無視するからでしょう!」
「ちょっと浸ってただけだろうが!」
「浸ってた?ふん、あんたには似合わな〜い」
「・・・・・・・・・・・・・」
俺は無言でみちるに近づき、
ぽか!
「うみょん!」
俺はそれなりの力を込めて、みちるの頭を殴りつけた。
おお、我ながらいい音が出たな。
「うう、目の前がちかちかする〜」
「お前はいちいち蹴りを入れないと気がすまないのか」
「うう〜、痛い〜」
みちるは頭を押さえて涙目になっている。
う〜ん、ちょっとやり過ぎたかもしれない・・・・・
まあ、こいつのことはいいとして・・・・・
「美凪の奴は遅いな・・・・」
「・・・・来ちゃった」
「うわあ!!??」
背後からの突然の声に、俺は飛び上がる。
はあはあ・・・・・し、心臓がバクバクいってるぞ・・・・
「い、いつのまに来てた?」
突然来たもう一人の約束の相手-遠野 美凪−に尋ねると、
美凪はきょとんとして、ひとしきり考え込む。
・・・・・そ、そんなに考えなければいけない事か・・・・・
やがて週分後、美凪は突然ぽんと手をうって言った。
「・・・・先程です」
「考えるのが長い!!」
ああ、もうなんか無性にいらいらする。
まあ、もう何となくは感覚で慣れてはいるのだが・・・・
「あーー、美凪!!」
みちるは美凪の登場に痛みを忘れたのか、満面笑顔で抱き付いた。
「ごめんね、遅くなって」
美凪もよほどみちるが可愛いのか、笑顔で頭をなでている。
本当に仲がいいな、こいつらは。
「美凪、お弁当持ってきてくれた?」
「はい、今日もみちるの好きな物がいっぱいですよ」
「おおおおお〜〜〜〜!!いっぱいいっぱいなんだ!!」
「はい、いっぱいいっぱいです」
「おおおおおおお〜〜〜〜!!いっぱいいっぱいいっぱいなんだ!!」
「はい、いっぱいいっぱいいっぱい・・・・・・」
「きりがないから、その辺でやめろ」
このままじゃエンドレスに続きそうな気配なので、俺は横から口を挟んだ。
「あれ、まだいたの?国崎往人」
つかつか・・・・・・
俺は再び無言でみちるに近づいて、
ぼか!!
「うにゃあ!!」
俺の必殺の一撃を、みちるの頭に食らわした。
「当たり前のように、人の存在をいなかったことにするな!」
「うにゅう〜、さっきあんただって・・・・・」
「俺はいいんだ」
「むううう・・・・・自分勝手」
「お前に言われたくないぞ」
頭を押さえながらぼやくみちるに、つっこむ俺。
「・・・・仲良しですね」
「はあ、どこが?」
おだやかな声色を含んだ美凪の指摘に、俺は思わず問い返した。
「呼吸がピッタリ・・・・うらやましい・・・・」
本当にうらやましそうに、俺に見つめる美凪。
おいおい・・・・・・・・・・・
「いや、ただもう慣れただけだぞ、こいつへの対処に」
「・・・・以前より十二秒も速くなってます」
・・・・ひょっとして、いつも時間を計っているのだろうか?・・・
聞きたいが、聞いたら恐い答えが返ってきそうな気配なので、
俺は聞き流す事にした。
「さて、それじゃあそろそろ昼飯でも食べるか・・」
俺は駅前においてあるベンチに座った。
すると、
「・・・・・がっくり」
美凪は肩を落として、残念そうな顔をした。
「無視されてしまいましたとさ」
・・・・だからなんで昔話口調なんだ?
「美凪〜、お弁当食べようよ!二人で」
「こら、ちょっと待て!」
「ベ〜〜〜〜、あんたの分はありませんよ〜だ!」
相変わらず可愛げのかけらもない奴である。
だがここで飯抜きにされては、何のために聖の誘いを断ったか分からない。
「作ったのは美凪だから、お前が決める事はできんな」
「むうう・・・・・」
みちるは悔しそうな顔をしてこちらを睨み付けたと思うと、
「えい!」
サ!スカ!!
案の定こっちに襲いかかった蹴りを俺は予測して、
すばやく体勢を変えて、その蹴りをかわした。
「わはは、同じ手は二度と聞かぬわ、こわっぱ!」
「にゅう〜〜〜、くやしい〜〜〜!!」
みちるは歯を食いしばって、地団太を踏んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ふと第二の視線に気づいて横を見ると、美凪がじっとこちらを見つめている。
「・・・・・?どうした?」
「・・・・大変申し上げにくいのですが・・・・」
「な、何だ?」
いきなり神妙な声で言われて、俺はどもってしまった。
「・・・今日はあなたの分はありません」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
「・・・・・今日はあなたの分はありません」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まじで?」
「嘘です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は無意味に、拳を握り締める。
「・・・・・・嘘ついちゃった♪」
「いや、可愛く言いなおしても同じだ」
やっぱり、この町の奴等に慣れるのはまだまだ時間がいるようだ・・・・・
俺はため息を吐いた・・・・・・・
<その三 −のどかな日−に続く>
--------------------------------------------------------------------------------
戻る