AIR 「頬をつたう涙と笑顔に その二十五 −見舞い−」




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 助っ人に来てくれたのは素直にありがたかった。

炎天下で苦しむ俺に、アイスという欲望を突きつけた罪はジュースの奢りで勘弁してやった。


「うう、痛い出費・・・」

「家に帰ったら冷たい麦茶を出すから、そう落ち込むな」


 買い物を終えた時に、聖の計らいで佳乃が駆けつけてくれた。

ついでにポテトも来たのだが、別に害はないのでそのまま連れている。

特に面白みもない田舎道を延々と歩きつつ、俺はある程度事情を説明した。


「そっかー、風邪ひいたんだ・・・」

「のどは痛くないらしい。
頭痛もちょっとあるかもしれないが、本人がやせ我慢するから分からん」

「あはは、結構多いよねそんな人。
鈴ちゃんって特に遠慮しそうだし」

「そうなんだよな、だから困ってるんだが――――
って何だ、その変なあだ名」

「可愛いでしょ?鈴ちゃんって」


 気に入っているのか、命名者は柔らかく微笑む。

鈴ちゃんって・・・・

あいつ、確かこいつより年上じゃなかったか?

観鈴なら喜びそうだけど。


「まあ、お前の変なネームセンスはどうでもいいとして―――」

「むー、往人くんの方がセンスないのに」

「ちょっと様子を見てやってくれないか?
男の俺だとあいつも遠慮するだろうから」


 抗議は無視して頼み込む。

佳乃も言っていたが、あいつは基本的に他人に低姿勢だ。

自分の欠点を知っていて、尚且つ自分を過小評価しすぎている。

自分に引け目があるのは多かれ少なかれ誰にでも持っているが、観鈴には精神的なハンディもある。

同じ女の子同士の方が、あいつにはいいだろう―――と思う。


「うーん・・・そうだよね。
往人くんが傍にいると食べられる危険性があるし」

「食人族か、俺は!?」


 むう、にこにこ笑って誤魔化しやがった・・・

まあでも、佳乃は面倒見のいい娘なので心配はしていない。

気になるのは観鈴だ。

佳乃が傍にいて、もしアレを起こせば―――

放っておくのは薄情なのは分かっている。

万が一のことがあっても、佳乃だったら大丈夫―――だと思いたい。

しかし、起きてみるまでは全てが未知数なのだ。

・・・本当に、面倒ごとを頼まれたものだとつくづく思う。

そしてこの期に及んで見放そうとは考えない自分が少し不思議だった。


「任せて、往人くん!鈴ちゃんはちゃんと私が治すから。
そうだ!今日の晩御飯も私が―――」

「やめてくれ、頼むから!?」


 しっかり釘をさして、俺達は観鈴の家へと向かった。


















 郵便物は無し、誰か来た形跡も無し―――

借りた鍵を使って玄関を空けて、ポテトと佳乃を中に入れる。

台所に買ってきた荷物をひとまず置いて、コップを二つ用意する。


「・・・お前は水でいいか?」

「♪」


 麦茶も平気で飲むだろうけど、ビジュアル的に怖いので水にしておいた。

氷を入れて麦茶をコップに注ぎ、大きめのお皿に水を並々と入れる。

付いて来るポテトをそのまま招き入れ、居間にいる佳乃に座布団を差し出す。

テーブルにコップを置いて、お皿をポテトの前に置き、二人と一匹を労った。


「ふー、すっとするな・・・」

「喉がカラカラだったんだ。ありがと、ポテトの分も」

「乾燥して干からびても嫌だからな」


 別の生き物になりそうで、想像すると死ぬほど怖い。

ポテトも暑さにへばっていたのか、黙々と小さな舌を出して飲んでいる。

俺は自分の分の麦茶を一気飲みして、


「観鈴の様子、見てくる。
佳乃の事も説明しておくから、ゆっくりしててくれ」

「うん、分かった。飲み終わったコップは洗っておくから」

「いや、それは・・・」

「平気、平気。今日は往人くんのお手伝いさんで来たんだから任せて」


 ・・・こうして言ってくれているんだから、無下に断るのもなんだろう。

俺は礼を言って、お願いしておく。


「家の者は今日夜遅いと思うから、気兼ねなしでいいぞ」

「了解!」


 元気な敬礼に見送られ、俺は居間を出る。


















 あいつの部屋か・・・

思えば、あまり足を踏み入れたことがない。

まして、今は本人が寝込んでいるんだ。

少し気兼ねしていますが、観鈴の身体を最優先にする。

俺は部屋の前に立って、ノックする。


「おーい、生きてるかー?買い物から帰ったぞ」

「あ・・・国崎さん?お、お帰りなさい・・・・
わ、わ、きゃっ!?」


 ・・・とりあえず元気そうだな。

ドアを開けて中に入ると、焦ったのか観鈴が豪快に床に転んでいる。

俺は嘆息し、屈んでとりあえず言ってやる。


「おーい、大丈夫かー?」

「うう、だ、大丈夫です・・・・」


 よろよろと顔を上げて、痛そうに額を抑える。

あーあ、打った個所が真っ赤になってやがる。

俺は落ち着けるように距離を取って、顔を覗き込む。


「熱はどうだ。ちょっとはましになったか?」

「う、うん!もう全然―――」

「平気じゃなさそうなのは、その顔を見れば分かる。
まだ顔色は良くないぞ」

「が、がお・・・
わっ、ま、待って!?わたし、病人さん!病人さんだよ・・・!?」

「む・・・」


 運の良い奴め。

振り上げかけた拳を下ろして、額に手を当てる。


「熱は・・・・ちょっと下がってるかな。
とりあえず今日一日、様子見だな。
明日も治らないようなら医者に行こう」


 聖には予め話はつけてある。

歩くのも辛いようなら、向こうには悪いが聖にこっちまで診に来てもらうか。

どうせあの診療所に患者は滅多にこないだろうし。


「買い物行ってきたから、ある程度の物は揃ってるぞ。
食欲はあるか?」

「わ、わたしが・・・」

「お前がやるのは却下。今日は俺に任せておけ」

「・・・ごめんなさい、国崎さん」

「病人の世話くらい出来る。お前は気にしすぎだ」


 思えば、俺がこの家に来て気を使わせているのかもしれない。

こいつにとってみれば、生活環境を根本から変えた本人だからな。

今日はゆっくり休ませてやろう。

俺は苦笑いを浮かべて、ふと思い出して言う。


「それと佳乃もお前の見舞いに来てるから」

「あ、そうなんですか―――――
・・・・・・・。
ええええええええええええっ!?」


 予想をはるかに越えて、観鈴は元気一杯に絶叫した。



















<その二十六に続く>

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