AIR 「頬をつたう涙と笑顔に その九 −好感−」
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商店街、診療所前の一画。
ここが俺がいつも商売をしている、言わば縄張りである。
炎天下の下、俺はいつも頑張ってきた。
お客さんを増やそうと、そして評判をより高くしようと頑張ってきた。
だが、しかし!!
・・・・・・・まったく一人も、そして一円もお金を稼げていない・・・
俺はそれが何故だか分からなかった。
だが、今日!!ついにその原因が何であるかを悟ったのだ。
ふふ、さすがだ、俺。
こんなえらい俺に、自分でラーメンセットを奢りたいくらいだ。
「という事で、原因はきっとここの主が凶悪な手術をしているせいに違いない」
「全部聞こえているぞ、国崎君」
「あいだだだだだだだ!?ごめんなさい、分かりました、もう言いません!」
こめかみにぐりぐりされて、さすがの俺も悲鳴を上げる。
これ以上ごねたら、聖に破壊されかねない。
「分かればいい、今後は人の診療所の前で悪口など言わない事だ」
「ぴこぴこ〜♪」
満足そうに頷く聖に、得意げなポーズをとるポテト。
いやなコンビである・・・・・・
「それにしても、相変わらずのようだな。閑古鳥が頭の上で鳴いているぞ」
確かにもう時間はかなり経っているにもかかわらず、客は独りもいない。
寂しすぎる現実である。
「それはお前の所も同じだろ。さっきから一人も通りかからないぞ」
俺は今、診療所の前で聖の許可をもらって人形芸にいそしんでいる。
つまり、ここは入り口近く。当然病人はここを通るのだ。
「・・・・・・・・町は皆健康な人ばかり。結構な事だ」
「といいつつ、手が震えているのは気のせいか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・すいません、思いっきり気のせいでした。
だから俺を手術しようとするのはやめて下さい」
俺の言葉に、聖はすっと出したメスを引っ込める。
まったくうっかり口にもできないな・・・・・
「それにしても、本当にここって人が通らないな。
いい加減場所を移した方がいいかもしれん」
「何だ?もうダウンか、情けない。ねばりが足らんな」
「あのなあ・・・・俺はこう見えても旅をしてまわってるの。
そろそろ路銀を稼がないと、この町に永住の羽目になるだろうが」
俺がぶつくさそういうと、聖は少し奇妙な顔をした。
「そうか、君もいつかは町を出て行くのだな・・・・・
旅をしているそうだが、目的はあるのか?」
「・・・・・・ああ、まあな・・・・・」
俺は眩しさに目を細めつつ、青空を見やる。
眩しい・・・・そして青い空・・・・・・
俺は・・・・・この空の向こうを・・・・・・
「・・・どうやら大切な旅路のようだな」
「何でそう思う?」
「男がそういう顔をする時は、いつも大切な事を胸に秘めているものだ。
こう見えても人を見る目はある」
普段にない優しい聖の表情に、俺は戸惑いを感じた。
「ま、まあ大変だとは思うけどな。
でも、いつかはきちんと辿り着くつもりだ・・・・・」
「そうか・・・・・」
そうして、俺達はしばしの時じっと空を見ていた。
端からすると少し奇妙な二人だが、俺は気にはしなかった。
そしてしばらくして、聖の方から口を開いた。
「すると、路銀が溜まれば国崎君はこの町を出て行くという事か?」
「うーん・・・・いろいろとこの町であったからな。すぐには出て行かないと思う」
観鈴も今はやっぱりほっとけないし、美凪やみちるの事も気にかかる。
「でもどうしてそんな事を聞くんだ?」
いやに熱心に聞いてくる聖に、俺は疑問を持つ。
あ、まさか!?
「そうか、なるほど・・・・・そういう事か、ハッハッハ」
「?ついに夏の暑さで頭がまいってしまったか。可哀相に・・・・
せめて一万円で治療をしてやろう」
「誰がだ!?しかも、その法外な値段は何だ!」
お金もゼロに近い俺に、一万円とは犯罪に近いぞ。
「だったらそういう事とはどういう事だ?」
「つまりだな、お前がそこまでして俺の予定を聞く理由は、だ。
それはずばり!俺に惚れているからだろう!」
「・・・・・・・・・・・・」
「ふ、どうやら図星のようだな」
俺が得意げに言うと、聖は心底同情たっぷりの目で、
「やはり疲れているのだな・・・・しっかり休め」
「こらこら、聖にそう言われると、何か恐いだろうが」
「馬鹿な事を真顔で言うからだ、私の理想はもっと高い。
もっともこの豊満な肉体と美貌を持つ私につりあう男はめったにいないがな」
「・・・・・・・・」
「なんだ、その沈黙は?」
「・・・・疲れているんだな、可哀相に・・・・・」
「ほう、それはどういう意味かな?」
「い、いえ!?男に大勢寄られてさぞ疲れているのですねっと」
「まあな、美人は辛い」
満足げに頷いて、手に掲げたメス五本をしまう聖。
これじゃあ脅迫と変わらないぞ、まったく。
「それで話はそれたが、あれこれ聞いたのは佳乃の事だ。
あの子は奇特にも君の事を気に入っているようでな」
佳乃か・・・・・・・
あの子の明るい笑顔が脳裏に浮かび、俺は口元を緩める。
「でもあいつの場合、誰にでもああいう感じじゃないのか?
友達も多いみたいだし・・・・」
以前学校へ行った事があるのだが、その時も彼女は友達と歩いていた。
学校生活だとグループで仲良くなる場合が多いが、あの子は誰隔てなく仲良くできる。
学校での人気も高い。
それが通りすがりに過ぎない旅人であったとしても、あいつは・・・・
「いや・・・・・確かにあの子は誰ともなく仲良くできる。
いつも元気で明るく、それに可愛いという最高の美点ばかりの妹だからな」
・・・・いや、まあそうだけど・・・・・
ちょっと、いやかなり姉の偏見も混じっているような気がするのは俺の気のせいか?
「だが、平等に仲良くできる分、こう独り立ちしていてな。
あの子はあまり他人に依存しないんだ」
「確かにそうかもな・・・・」
佳乃のようなタイプは、ひょっとすると甘え知らずなのかもしれない。
目の前の聖は別として・・・・・・
「だが、君と接する時は違う。佳乃は君には本当に心を許しているようだ。
あれほど他人に懐いているのは、私も久しぶりに見た」
「あんまり実感はないけどな・・・・・」
せいぜいいつも「〜〜一号さんだよ!」って言って連れ回されるくらいである。
「・・・国崎君、これからもできればあの子と接してあげてくれ。
君なら信頼できる」
その時の聖の表情は、妹を思いやる姉そのものの優しい表情だった。
それを見て俺も頷き、
「俺もあの子の事は気に入ってるからな。まあ遊びくらいには付き合おう」
「ああ、よろしく頼む。だからといって、深入りは駄目だぞ。
妹に手を出したその時はどうなるか・・・分かるな?」
「はい、もちろんです、ボス。分かりましたら、手の中の医療器具はしまって下さい。
患者さんだけにしてあげて下さい」
・・・・まあさすがに手を出すほどの勇気は俺にはないな。
不敵な笑みをうかべる聖を見て、俺は冷や汗を流す。
さて、今日はもうこれ以上は商売は意味がなさそうだな・・・・
「あれ〜?住人さん、来てたんだ!こんにちわ、だよぉ!!」
強い日差しの中、元気にこちらへかけてくる佳乃。
聖の話の後のせいか、その時佳乃の浮かべた笑顔が頭に焼き付いた・・・・・
「帰ってきたか。どうだった、学校は?」
「うん、皆元気だったよぉ。お姉ちゃん、ひえひえ麦茶あるかな?」
「ああ、今用意する。国崎君にも特別に御馳走しよう」
「そうか、じゃあいっぱいいただこうかな。さすがに喉がからからだ」
何しろ人形芸をしつつ、めいいっぱい夏の温度を味わっていたからな・・・
「ぴこ〜♪」
「ポテトも飲む?美味しいよぉ〜」
「ぴこ!」
どうやら頷いたようだ。あの生物、いつか正体を明らかにしてみたい。
「では、こんな所にいるのもなんだ。診療所で飲もう」
そして俺達は診療所へと入っていった・・・・・・
<その十に続く>
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