ONE 「茜色の空の向こうに その一 −図書室ー」




--------------------------------------------------------------------------------
「あれ?おかしいな・・・・・」

俺は本棚に丁寧にならべられている本を一つ一つ手にとって、

その内容を確認していく。

この本棚にありますよって言ってんだがな・・・・・

「まさか借り出されている・・・・って訳じゃないよな・・・?

そうだったらやばいな・・・」

何せ今日放課後に茜を誘って「あそこ」へと連れて行く計画があるのだ。

そのためにはどうしても「あれ」がいるんだがな・・・・・

「しかたない。図書委員にでも聞くか」

「何を聞くの、折原君?」

「いやこの町の詳しい地域案内をちょっと探していてな・・・・」

「地域案内?そんなもの、どうするの?」

「実は前に茜にたいやきをおごるって約束したんだが、そのたいやき屋の場所が

思い出せなくてな。以前の創刊号に紹介されていたのがないかな〜と
藁をもすがる思いで,今見てるところだ」

「そっか。茜って甘いものに目がないもんね」

「だろ?だからこうして俺も・・・・・・って、何やってるんだ、柚木!!」

こいつ・・・・いつのまに来たんだ?

「何ってこうして折原君に用があって会いに来たのよ。

茜の事でちょっとね♪」

「ちょっとね♪、じゃない!とっとと出て行け!」

そう言って、俺は図書室の出入り口を指差した。

「ええ!?いいじゃない、もう慣れてるし・・・」

「慣れればいいっていうもんじゃないだろう!」

「折原君っていつも元気一杯だね」

「はあはあ・・・もういい・・・・・」

どうせ何をしても何を言っても、平然としているような奴である。

今更何をしてももう無駄だろう・・・・・

・・・・・何か最近、悟りを開いてないか、俺?

だが悟ってもなんのプラスにもならないのが悲しい・・・・

「いてもいいのね?ありがとう、折原君!」

「いや、もうあきらめただけだって」

時たま思うのだが、こいつの辞書には遠慮とか恐縮とかいう文字が

存在しないのではないだろうか・・・・

俺はぼんやりとそんなことを考えて、そんな自分が空しくなった。

これで茜の昔からの親友というのだから、

人の縁とは本当に不思議なもんだとつくづく思う。

「む!?折原君、今何か失礼な事考えてなかった?」

う!・・・妙にするどいやつである。

「べ、別に全然まったくかけらもそんな事は考えていないでもない訳でもないぞ」

「・・・つまりどっちなの?」

「そ、それより茜のことを聞きに来たんだろう?あいつならここにもいないぞ」

「そうみたいね・・・・。教室にはいなかったから、

絶対に折原君と一緒にいると思ってきたんだけど・・・」

少し残念そうに、柚木はため息を吐いた。

「何か茜に用でもあったのか?」

「ううん、ただ遊びに来ただけ」

「本っっっっっっっ当に暇なやつだな、お前」

「別に暇じゃないわよ。こうして忙しい時間を割いてここに・・・・」

「それは不思議だな・・・・ここ最近、毎日のように

柚木の顔を見ているような気がしたんだがな」

「まさか折原君、私の後をつけてるとか!?」

そう言って、わざわざ大げさに俺から飛びのいた。

・・・・いっぺん決着つける必要があるかもしれない、この女とは・・・・

「いつも学校に出没すると皮肉ってるんだよ!」

ちなみに高校三年生になっても、こいつはほぼ毎日のように

茜に会いに学校に来ている。

よく留年しないな、本当に・・・・・・

まあ留年するしないに関しては人の事はまったく言えないが・・・

「ははは、そういう事ね。でもいいじゃない。

ほかの生徒も先生も全然気にしてないみたいだしね」

そうなんだよな・・・・なんで気にしないのだろうか?

髭もそうだが、ここの先生は全員目は節穴なのだろうか・・・・・

何ぞと恐い考えに至って苦悩していると、

「まあそれはともかくとして、さっきから折原君が探している地域案内って、

ひょっとしてあそこにある雑誌の事じゃない?」

柚木はそう言って、上から二段目の棚の一点を指差した。

「どれだ?どこにもないぞ・・・・」

「ほらほら、あの英和辞典の列の左から三番目にある雑誌。ちょっと大きいやつ」

ほうほう、どれどれ・・・・・

柚木は指定した雑誌を手に取り、ぺらぺらとめくってみると、

目的のたいやき屋が目次に書かれていた。

「おお、あったあった!でかしたぞ、柚木!」

「まあ私にかかればすぐよ」

妙に自慢げに、柚木は胸を張った。

「偶然とはいえ助かったぜ!よしよし、さっそく・・・・」

俺は場所が書かれている特集ページに目を落とした。

「偶然っていう単語が気になるけど、まあよかったじゃない。

それで折原君、茜がどこにいるか知らない?」

そう言えば茜に会いにきたんだっけな、こいつ・・・・

「茜なら今日は放課後に委員会があるからって、さっき会議室に行ったぞ」

まあそのおかげで調べる事ができたんだけどな、俺も。

「な〜んだ、茜は忙しいのか・・・・来て損したな〜」

「ならとっとと帰れ」

とりあえず書かれている場所を記憶しながら、俺は柚木に言った。

だが全然意に介する事もなく、柚木は平然と聞いてきた。

「茜ってそういえば委員なんてやってたっけ?」

「あいつ自身はいやだったらしいけど、推薦で決まったんだ」

「ふ〜ん・・・茜もいろいろと大変なのね・・・・」

「暇なのはお前だけだ」

きっぱりといって、俺は雑誌を元の場所に戻しておいた。

「ところでたいやきやさんを探しているとか言ってたけど・・・」

「ああ、そうだけど?」

「わざわざ昔の雑誌なんか見なくても、ほかの人に聞いた方が早かったんじゃない?

ほら、あの長森さんとか・・・・?」

名案とばかりに、柚木はうんうんうなづいた。

「とっくに聞いたよ・・・・あいつも詳しい場所は覚えてないとよ」

まあ前に行った時は、もうずいぶん前になるからな・・・

確か、もう一年以上前の事・・・・・



・・・・・・俺がいない時間も含めて・・・・・



「うん、どうしたの?今日に暗くなって・・・・」

「何でもない。で、お前はいつまでここにいるんだ?」

茜は忙しいから帰るかと思いきや、全然帰る気配すらない。

「だって茜も忙しそうだし・・・・折原君と遊ぶのもいいかなって」

「ちっともよくないわ!暇なら帰って宿題でもやってろ!」

「え〜〜〜!遊ぼうよ〜〜〜!!」

子供のように足をばたばたさせて、柚木は駄々をこねる。

「ええい、お前は子供か!」

「・・・浩平、どうかしたんですか?」

「ちょっと待ってろ!今、忙しい!!」

「・・・図書館で大声あげたら怒られますよ」

「あ〜、もう茜はちょっと黙って・・・・・て、茜!」

いつのまにいたのか、茜は図書室の入り口からこちらを小睨みしていた・・・・









<その二 −帰り道ー>に続く

--------------------------------------------------------------------------------






戻る