ONE 「茜色の空の向こうに その19 −帰り道−」




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「へえ、折原君が奢ってくれるんだ。どうしたの、すごい太っ腹じゃない」

「・・・・俺の意思ではないとだけはいっておこう」


 柚木に対して陰鬱に呟いて、俺は校門より外に出る。

放課後の補習もようやく終わり校舎から外へ出てみると、既に辺りは夕暮れ時だった。

白く明るかった空もほのかな温かみを添えた穏やかな光に今では包まれ、落ち着いた印象を与える。

しみじみと時間の流れを感じながら、俺は帰りのメンバーを振り返る。


「じゃあ商店街に寄るか。強制的とはいえ、約束は約束だからな」

「うんうん、浩平も人間ができてきたわね」

「恐喝まがいの提案した奴が言うな」


 どこか満足そうに頷く巴に、俺は険のこもった声で反論する。

だが巴は俺の言葉には意に返さずにしれっと言い返した。


「まあまあ茜さんも柚木さんも喜んでいるじゃない。
美少女三人の好感度を高めるいいチャンスよ!羨ましい〜」

「なぜか嬉しくないと思うのは、俺がどこか間違えているからだろうか?」

「男は細かい事を気にしちゃだめだよ、折原君。大らかに、そして寛大でないと」


 会話の趣旨がずれている様な気がするのだが、どうせ言っても通じないだろう。

改めて厄介というか対応に困る友人を持った事に、俺自身の縁を悔やんだ。


「まあ、懐は幸い追いつめられるほど寒くはないからな。まあ何とかなるだろう」


 今後の付き合いにもよるが、まあしばらくは大丈夫だろう。

卒業のための勉強やこれまでのさまざまな出来事であまり遊んでなかったのだから、散財はしていない。 

辛い時期だった時の事を考えると、これでも十分平和で幸せだといえる。


「・・・どうしたんですか、浩平?」

「い、いや何でもない」


 無意識にじっと茜を見つめてしまった事に気がついて、俺は顔が熱くなった。

いかんいかん、柚木や巴もいるってのに。


「折原君の茜を見つめる熱い視線・・・・・・まさに青春ね」

「初々しいかぎりね〜、二人はいつもああなの?」

「良い事を聞いてくださった、巴さん」


 柚木と巴、妙に気が合う二人は変な口調で会話をしていた。


「あの二人の出会いは約五年前。私が蕎麦屋の店員をしていた事より始まります」

「いつ蕎麦屋の店員になったんだ、お前」

「私はカウンター内で親方に包丁の扱いを学んでいた時、彼らはやってきたのです・・・・」

「蕎麦屋さんでどうして包丁の扱いを学んでいるのですか、詩子」


 それぞれに突っ込みを入れるが、あっさりと聞き流して柚木は語りを続ける。

巴も巴で柚木の語りに瞳を輝かせて聞き入っている。


「私がはじめて彼-折原浩平-を知ったのは、彼が15歳の時でした」

「俺は今年十八歳だぞ、おい」

「事業に失敗し破産寸前に追いこまれていた彼。蕎麦屋の前で倒れたときは飢え死に寸前でした」

「俺の設定はどうしてそこまでやばいんだ!?」


 非難とブーイングをあげるが、柚木はすっかり自分の世界に入っているようで足の歩みを止めず、

ただひたすらに語りを続けていた。

すでに口調が普段とは違って芝居がかっているのだが、一応彼女なりの演技なのだろう。

不気味というか、怖いの一言なのだが。


「雪に埋もれて倒れた折原君に私は慌てて声をかけました」

「・・・・舞台は冬のようですね」

「『折原君、どうしてあなたはいつもからかいがいがあるの』っと」

「初対面のはずなのにどうして俺の個性とか知っているんだ、お前は!?」

「そして折原君は答えたのです。『それは愛ゆえ』と」

「待て!答えになっていないだろう、それは!?」

「あははは、浩平って死ぬ寸前でもそんな馬鹿な事を言ってるのね。結構ありえそうだけど」

「納得するな、そこ!」


 息をゼイゼイ荒たげて、俺はひたすら横やりを入れまくった。

作り話にしても、登場する俺への馬鹿さ加減が嫌過ぎたからだ。


「哀れに思った私はお腹をすかす折原君に・・・・・」

「蕎麦を作ってあげたのですか?」

「うーん・・・惜しいけど違うわ、茜。売れ残った一枚の油揚げよ」

「微妙にむかつくな、お前の善意って」


 俺は大きく深呼吸をして、呼吸を整え気分を落ち着かせる。

初春の柔らかな風の匂いが心身に澄み渡り、心身共に疲れる俺を少し癒した。


「私の好意に折原君は涙を流してこう言いました。
『今日からあなたの奴隷になります。どうぞ家来と呼んで可愛がって下さい』と」

「油揚げ一枚でプライドも何もなくなる俺っていったい・・・・」

「完」

「終わりかよ!?茜がどこにも出てきてないじゃないか!?」

「うーん、いい話だったわ・・・・・」

「あー、この野郎!さりげなく無視して悦に入るんじゃない!」


 どうやら一度本気で決着をつけなければいけないようだ、この女には。

今までの数々の悪行(?)を思い出して、俺は内心で唸り声を上げる。

そんな俺を尻目に茜は珍しく苦笑しており、巴は横で堪え切れない様に目に涙まで溜めて笑っている。


「あははははっ!!!あ〜、おかしい・・・・こんなに笑ったのも久しぶりだわ」


 整った容姿に明るい笑顔を形作り、巴は苦しそうに腹を抑えている。

そこまで馬鹿うけするほどの内容だっただろうか、今のは・・・・・・・・・・

明らかな被害者意識が湧き出るのは、話に登場する主軸の俺が明らかに惨いせいだろうか?


「以上、折原君と茜のラブロマンスでした。ご静聴、ありがとうございました」

「どこも愛の要素なんぞなかったし、ひたすら不平不満を言っていたのだが」

「まあ、受け取り方は人それぞれだからね。聞きようによるわよ」

「そういう問題じゃない気がするが」


 空しいとは分かっていながらも、俺は言わずにはいられなかった。

ため息を吐きながら横目で茜を見ると、柚木と二人でなにやら話し込んでいた。


「どうだった、茜。詩子ちゃんの名語りは」


 そんな単語が存在するのかと聞きたかったが、茜はそっと口を開いた。


「そうですね・・・・・よかったです」

「うんうん、気に入ってもらえて嬉しいわ。これで奢りもグレードアップね」

「ちょっと待てい」


 さらっととんでもない発言を吐く柚木に、俺は物言いを言い渡す。


「グレードアップ?それってつまり奢りの額をアップしろということか」

「そこまで私もずうずうしくはないわよ、折原君」


 少し口を尖らせて、柚木は俺の問いに不満げに言い返した。

どうやら少しは自分が図々しいという事は自覚できてはいたようである。

新しい発見に俺は少し驚きつつも、柚木に問い重ねる。


「ほう、それじゃあどの辺りをグレードアップしないといけないんだ?」

「せっかくだしずっと待っていて喉も渇いたから、何か飲み物を私達に♪」

「あ、それいいアイデア!私も喉がからからだったのよ」


 柚木の提案に、巴は喜びを含んだ同意をする。

茜も反対しない所を見ると、ひょっとして望んでいるのだろうか?

肯定も否定もしない静かな表情で歩いている茜を見て、俺はどうすればいいのか分からなかった。


「あのなあ、どうして俺があんな戯けた話に金を出さないといけないんだ?」

「えー、皆に評判はよかったじゃない」

「この二人にはな。肝心の俺がつまらないと言っている限り駄目だ」


 理論の整った俺の説明に、柚木は痛い所を突かれたのか沈黙する。

ふ、勝った・・・・・・・・・・・・・

思わず小躍りしたくなるぐらいの完全勝利に酔っていると,隣にいた巴が何気にボソッと呟いた。


「その理屈だと、コンサートとかで曲が悪いとか言ってお金を払わないのと同じね」

「・・・・子悪人ですね」


 ああ!?茜まで何気なくひどい事を言っているし!?

味方が一人もいないこの状況に、俺は涙する他はなかった。

うーん、こいつらに目に物を見せてやりたいが、何か方法はないかな・・・・・・ 

腕を組んで考えながら商店街への道を歩いていると、やがて景色は変わり住宅街になる。

待てよ?そういえばこの先に・・・・・

俺はある事を思い出して、にやりと口元をゆがめる。


「確かにそうだな。今日も待ってもらったんだし、俺も男だ。
気持ちよくお前らに美味しいジュースでもおごってやろうじゃないか」

「ど、どうしたの浩平?急に物分りがよくなったじゃない」

「ふ、まあ俺ももう大人だからな」

「・・・・・・かなり疑わしいですね」


 疑わしいのか、茜!?

いつもに比べてちょっと冷たい感じがするのは気のせいだろうか?

疑問に思ったが気を取り直して、俺は爽やかな笑顔を形作る。


「よし、じゃあ早速あそこの自販機で休憩タイムと行こう」


 俺が指差すその先には一つの少々古い自販機が設置されていた。

ふっふっふ、俺の切り札を見せてやる。

以前茜にも紹介した例のブツをこの愚か者どもに飲ませてやることにしよう・・・・・

俺は懐から財布を散りだして、腹黒い笑いを浮かべた。














<その20>に続く

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