ONE 「茜色の空の向こうに その29 −幻影−」
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夕焼けに染まった公園はどこか寂しさを感じさせる。
並んで買ったワッフルと飲み物を手に、俺達はここへやって来た。
「・・・・ここは初めてです」
「茜を連れてきた事は無かったっけ?
昔、ここで遊んだんだ。ガキの頃の話だけどな」
茜の希望でワッフルを買ったのはいいのだが、問題は食べる場所。
俺一人なら食べながら帰るのだが、二人一緒ではそうもいかない。
ファーストフード店じゃない分、食べる場所に困った俺達はこの公園にやって来た。
俺のリクエストは茜との思い出の場所であるあの公園がよかったのだが、本人に拒否された。
理由を聞くと、
『・・・・浩平には一生分からない理由です』
との事だった。
その時茜の視線が巴に向いていたのが気になったが、追求しても教えてくれないだろう。
―――で、この児童公園だった。
ブランコ・滑り台・ベンチと、最低限の遊具しか置いていない公園。
どの遊具も寂れていて、小さな砂場は枯れきってしまっていた。
幼い頃は大きく見えた公園だが、今になってみるととても小さく感じられる。
・・・・何故か,それが少し残念だった。
「ふーん・・・・浩平の思い出の場所なの?」
「そうだな・・・・・昔の思い出だ、ここは。
離れて行く内に忘れてた」
「・・・・結構そういうもんだよね、公園って。
ちょっと寂しいけどさ」
巴は小さく微笑んで、ふっと息を吐いた。
こいつ、転校生なんだよな・・・・・
以前住んでいた場所に、こいつにもこういう場所があったのだろうか?
思い出に触れる気は無いので、何も言わずただその横顔を見ていた。
「・・・食べませんか?」
気を利かせたのか、茜はそっと袋を差し出す。
しんみりした雰囲気はそれで薄れた。
「ベンチに座るか。三人一緒だと壊れるかも知れな―――」
「それは私達が――」
「―――重いと仰りたいのでしょうか?」
神をも殺せる殺気に、俺は無言で何度も首を振る。
何でさりげない会話でこんなに敏感なんだ、こいつらは!?
「違う,違う。ベンチがぼろいって意味で!
俺がガキの頃からあったからな、あれ」
錆が目に見えるほど、全身を覆い尽くしている。
座る個所だけでも拭いた方がいいかもしれない。
俺の弁論に、二人はあっさり納得した。
「なーんだ、初めからそういえばいいのに」
「・・・・浩平は言葉が足りなさ過ぎます」
お前が勝手に勘違いしたんだろうが。
思いっきり突っ込みたいが、容赦ない返しが来そうでやめておく。
若い身空で死にたくは無かった。
・・・・体重が気になるなら、ワッフルなんてたべなければいいのに。
俺はそのまま歩いて、真ん中に座る。
ベンチは大きく、三人くらい余裕で座れる。
「うー、スカート汚れないかな・・・?」
「・・・ハンカチあります」
茜は真っ白なハンカチを取り出して、二人の座る場所を拭いた。
汚れが白を容赦なく蹂躙していくが、茜は気にも止めない。
逆に慌てたのが巴だった。
「いいよ、いいよ。ハンカチ,汚れちゃうから」
「・・・・使い古しですので」
そのまま拭き終えて、茜はゆっくりと俺の右隣に座る。
巴はしばし茜を見つめ続け、柔らかく微笑んだ。
「いいね、茜のそういうところ。男心をくすぐるよ」
「・・・・あまり嬉しくありません」
本気で困った顔をする茜。
対する巴は楽しげに笑って、何も言わずに俺の左隣に座った。
フンフンと鼻歌を歌って、彼女は袋からワッフルを取り出す。
「茜のお勧めなんだよね、これって」
「・・・・美味しいです」
ぜひ、と茜が勧めたのが例のワッフルだった。
一年以上立っているのに発売中止になっていない、極悪な甘さのワッフル。
食材を見ただけで虫歯になりそうなワッフルを、茜は当然の如く買った。
俺は頑なに拒否したのだが、巴は勧められるままに買ったのだ。
ちゃんと商品内容は表示されているのに買うとは珍しい。
―――まあ、あのジュースを嫌がらずに飲みきっただけでも味覚には疑いはあるが。
そうなると、俺も買わないのも気が引けた。
断り抜いてもよかったのだが、二人が買って俺が買わないとなると雰囲気を壊す。
折角、今日は楽しく放課後を過ごしているんだ。
俺一人の気持ちで壊すのはよくない。
―――と考える俺は立派な人格者だと最近思う。
殺人ワッフルを手にして、俺はしみじみと自分を賛美したかった。
袋から出して温かいワッフルを取り出した途端、嗅覚を襲うこの感覚。
直接嗅いだら、甘さで曲がりそうな強烈さだった。
甘いものは好きな方だが、限度がある。
口に入れるのを躊躇っていると、
「茜、これあまーい」
「・・美味しいですよ?」
「でも、甘いよこれ・・・・・」
だから―――
何で嫌がりながらも、お前は食べられるんだ!?
もぐもぐと茜と同じペースで口に入れていく巴に、内心悪態をついた。
やっぱり、どこか変だこいつは。
俺は二人を見つめる。
寡黙な茜と、明るく喋る巴―――
どちらも雰囲気はよさそうで、楽しそうだった。
茜は友人関係を作るのは苦手そうだが、巴を嫌がっているようには見えない。
巴の話にしっかりと相槌を打っているのがその証拠だった。
嫌いな相手には、とことん冷たくする。
いつの間にこんなに仲良くなったのだろうか?
放課後、ギスギスしていたのが嘘の様だった。
俺は少し驚きを持って見つめていたが、ふと自分の心地良さを感じた。
悪くは無い、な・・・・・
「・・・・甘っ」
二人の小さな友情を風景に、俺はワッフルの処理に取り掛かった。
<その30>に続く
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