ONE 「茜色の空の向こうに その9 -進路-」




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「ここで食べるのも久しぶりだな」

買ったばかりのワッフルを持って、俺はふと思った事を口にする。

「そうですね・・・澪ちゃんと浩平とで来るのは二度目です」

茜もどこか懐かしそうにそう呟いた。

ワッフルを買って商店街を出た俺達は、今いろいろな思い出の場所でもある

この公園へと来ていた。

あれから幾度となく季節は過ぎたが、それでもあの時と変わらない

この公園の情景に、俺はこうして見ていてどこか嬉しかった。

そんな情感に浸る俺の袖を、そばにいた澪が引っ張る。



『懐かしいの』



「そうだな。そういえば澪はあの日に茜と初めて知り合ったんだっけ?」

「はい、そうです。あの日からお友達になったんですよね」

茜がそういうと、澪も嬉しそうに何度も頷いた。

「さて、じゃあそろそろ帰るか」

そう言葉を残して俺がすたすた帰ろうとすると、澪が何度もくいくい引っ張る。



『まだ食べてないの』



スケッチブックを広げて、う〜と澪が不満そうに俺を見る。

く・・・・ごまかせなかったか・・・・

「・・・・浩平、ちゃんと一緒に食べて下さい」

茜も冷たい目で俺をきつく睨んだ。

「やっぱり食べないと駄目か?」

「せっかくセットで買ったのにもったいないです」

「そうだ、俺は腹いっぱいだから茜が食べていいぞ」

「浩平も食べて下さい」

「澪、今日はたらふく食べていいぞ。俺のおごりだ」



『そんなに食べられないの』



俺の心のこもった誠意に、澪はおろおろしながらも断りを入れた。

「どうしてそんなに嫌がるのですか?美味しいのに・・・・・・
甘い物は好きなほうなんでしょう?」

「いや、確かに好きだけど限度ってものがあるだろ」

「それにまだ甘いとは限りませんよ。新メニューなんですから」

それがが一番不安要素なんだがな・・・・・・・

俺は自分の手で持つセットで買ったワッフルの箱をじっと見る。

今日新発売とされるこの新しいワッフル、当然今だ食べた事がない。

ただ、店頭に表示されていた新ワッフルの中身に、

俺は思わず食べていないのにもかかわらず、胸焼けを起こしそうになった。

それが一体どんな中身だったか・・・・・・口にしたくない・・・・

だが、こうして嫌がっていても茜のこういう押しに勝ったためしがない事に、

俺は今更ながら気がついた。

「・・・・浩平、一緒に食べましょう」



『きっと美味しいの』



茜と澪の笑顔の勧めに、俺は白旗をあげた。

「わかった、それじゃああそこのベンチで食べるか」

公園にある憩いの場のベンチを指差して俺は言った。

「はい、食べましょう」

茜はよほど新ワッスルの味が楽しみなのか、少し声が弾んでいた。

そういう茜とは裏腹に、俺はため息を吐いた。

うう、食べれる味だといいのだが・・・・・・・











「あ、結構美味い・・・・・」

「・・・美味しいですね」

三人揃ってベンチに腰掛けつつ、買ったワッフルを口に入れた(俺は恐る恐る)

俺と茜の第一の感想がそれだった。

買いたての温かさと香ばしさ、そして中身の見事なまでの甘さのハーモニーが
舌に優しく浸透し、なによりしつこさがない。

「これは大あたりだった様だな」

「・・・・だからそう言いました」

俺の正直な感想に、茜はどこか得意げにそういった。

この味では、さすがの俺も認めざるをえまい。

一つあっという間に平らげた俺は、二つ目に手を伸ばした。

「澪ちゃん、美味しい?」

少しずつワッフルを楽しむように口に含んでいる茜が、隣の澪にたずねると、



『美味しいの』



澪は手もとのスケッチブックを広げて、笑顔で茜に答える。

「ゆっくり食べていいぞ、澪」

俺が横からそういうと、澪はうんうんと頷いた。

もう季節は春とはいえ、今日の夕暮れ時は少し風が出て寒かったが、

こうしてワッフルを三人で食べていると、胸の奥が暖かくなるようだった。

「・・・・・浩平」

「うん?どうした、茜?」

二つ目を奇麗に食べ終え、一息ついている俺に茜は言葉を続ける。

「浩平は・・・・卒業後はどうするのですか?」

二つ目のワッフルを手にしつつ、茜は俺に聞いてきた。



卒業後、か・・・・・・・・・・・・・・・・・



俺も茜ももう卒業なんだな・・・・・

あの世界からの帰還、そしてその後の学校への手続き。

それらに追われて、俺はあまり卒業後の事は明確に考えてはいなかった。

実を言うと、それを意識したのはこの茜の言葉が最初である。

何しろ、今でも卒業は危うい状況であるからだ。



『寂しくなるの』



澪はそう書いて、少ししょぼんとする。

そんな澪に、茜は優しく頭をなでた。

「永遠の別れじゃありません・・・・・・またいつでも会えます。
澪ちゃんは私の大切な・・・・お友達です」

一言一言、気持ちをしっかり込めて茜は言葉を、そして思いを伝えた。

澪も茜の言葉が嬉しかったのか涙目になって、



『大切なお友達なの』



澪は言葉に出せない分、顔の表情とスケッチブックの字で伝える。

それは、傍目に見ていた俺にも十分気持ちが伝わるものだった。

「そうだな。また皆でこうしてたまに集まるのもいいかもな」

「・・・そうですね・・・・時間はたくさんありますから」

俺の言葉に、茜も頷いた。

「茜は私立の大学に行くんだよな。ここからどれくらいだっけ?」

「二時間ちょっとです」

茜はすでに指定校で大学受験に合格して、学校卒業後、今年の四月から大学生になる。

そして俺は・・・・・・

「俺は・・・・・とりあえず卒業できるように頑張るのが第一だな。
その後は・・・・・う〜ん・・・・・・・」

こうして改めて考えてみると、なかなか将来像は見えてこない。

大学生・・・・・・というのも正直ピンとこない。

まあ選択肢の一つとして、茜のいる大学に受験するという道もある。

俺はふと思いついた事を言ってみた。

「一年浪人して、茜のいる大学を目指そうかな・・・・」

何気ない思い付きだったが、茜は表情を輝かせた。

「浩平と一緒ですか・・・・・楽しそうですね、それも」

小さく微笑んで、茜はそう言葉にする。

それもいいかもな・・・・・先のビジョンも別にないし・・・・・

「でもそうすると、私が卒業しても浩平はもう一年ですね」

は!?それもそうだ!!

何しろ俺は一年後れで大学に入ることになる。

つまり学年的には、茜は一年先輩という事になるわけだ。

まあ高校とは違うから学年差はそれほど気にならないにしても・・・・・

なんかそれはいやだな・・・・・

「浩平はやりたいことはないのですか?」

俺のやりたい事、か・・・・・・・・・

茜の言葉に、俺は返事ができなかった。

俺は・・・・・この先何がしたいのだろうか・・・・・・?












<その10 −見えざるもの−>に続く

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