いつかどこかに置いてきた
だけど今は ここにある
To a you side If story
世界で一番優しい場所
= 0 =
空を見上げれば、美しい華が舞っていた。
それは大地に降り立つと、まるで柔らかい絨毯のようにあたりを白に染め上げていく。
なびく風が普段よりも少し肌寒く感じるのは気のせいではないだろう。
だが今の季節、この方が風情があっていいというものだろう。
雪舞う夜、今日は十二月二十五日。
見慣れた静かな町を黙々と歩く青年――宮本良介にとって、海鳴で迎える数度目のクリスマスだ。
= 1 =
全く疲れたものだと、良介はため息をつきながらもゆったりと歩を進めていた。
久しぶりの依頼だというから、彼にしては多少なりとも気合いを入れていったというのに。
わざわざ時空を超えてミッドチルダの辺境まで足を運んだにしては、仕事自体は大したものではなかった。
それ以前に、わざわざ管理外世界のフリーの魔導師に頼むようなことはないだろうとさえ思えるようなことだった。
それでも彼に話が回ってきたのは、彼女の人脈のおかげだろうか。
「大体、アリサがあんなつまんねぇ依頼を受けるからだ」
と、仕事の話を済ませた後に海外へと旅立っていった、己のメイド兼秘書に文句をつけてみる。
報酬もたいしたことなかったし、ほとんど慈善活動でもしてきたような気分だ。
いや、何となくこの仕事の話をしていた時のアリサの笑顔を思い出すと、こうなるとわかっていたふしもあるが。
ったく、俺はサンタクロースかっ、と胸中で呟く。
しかし、彼女のおかげで仕事が成り立っていることもまた事実――というよりも彼女がいなければ仕事にならないだろう――なので、面と向かって文句を言うわけにもいかない。
というか、文句など言おうものなら十倍ぐらいになって言葉が返ってくるだろう。
彼自身にとっては認めたくないことだろうが、その光景がたやすく想像できてしまうのはすでに馴染みのことだからだろうか。
普段は傲岸不遜な男ではあるが、以外と弱点があるものだ。
閑話休題。
周りを見渡せば、木々を美しいイルミネーションで飾った家がぽつぽつと見える。
月は出ていないが、光の装飾が辺りをうっすらと照らし、そのおかげか薄暗い夜道もいつもよりも明るく感じられた。
白くなる息を吐きながらも雪の敷き詰められた道を歩く良介の耳は、小さな音を拾いとった。
どこかの家から鳴り響くクリスマスソングと、それに紛れるように聞こえる子供の笑い声。
ふん、と少し不機嫌そうに鼻を鳴らすと、いつもはうるさすぎるくらいなのに今は空いている自分の隣を見て、良介はふとここ数年のクリスマスを思い返した。
いや、クリスマスだけではない。
何かしら年の行事になると、皆笑顔で自分に纏わりついてきた。
思い出されるのは数年前の正月、誰にも感知されないようにわざわざ己の脚を使って山までに行ったのに追い掛けてきた女性達。
今思い出せばかなり恐ろしかった気もするが、あのにぎやかさがないと少し寂しいような気も……。
そこまで考えて、何をばかなと頭を振った。
孤独の剣士である自分が隣に人がいないくらいで寂しいなどとは、すっかりこの町の連中に毒されたか、と。
本当にそう思っているのか、強がりなのかは彼にしかわからない。
それでも、彼は少しだけ寂寥の表情を浮かべて、それは誤魔化すかのように肩の上に積もった雪を払った。
「っにしても、寒いな」
少し赤くなっている鼻を手で擦りながら、忌々しそうに真白い華を咲かせる空を見上げた。
彼が出かけた朝はまだ雪が降っていなかったから、今彼の手に傘はない。
防寒具としてアリサから持たされたマフラーとコートを身に着けてはいるが、ここまでくると申し訳程度にしかなっていない気がする。
それ故に、現在彼は雪の猛攻にさらされて、肩や髪の上にも少しずつ白く染まっていっている。
もう一度それを払い落すと、どこかで酒でも買って帰ろうかと財布を取り出し、
「…………ちっ」
舌打ちして、再びコートのポケットへとねじ込んだ。
良介の財布の中身は、現在の気温と並ぶくらいに寒かったようだ。
彼自身は、これまでの生活からかそれほどお金を無駄使いしたりはしない。
ただ、彼の家の金庫番からお金をもらうのをうっかりと忘れてしまっだけだった
こういうことに関しては、彼にしては珍しいミスだ。
だが、ないものがないのだ。
仕方がないか、と首をすくめて良介は再び帰路へとついた。
= 2 =
カチリ、と鍵を開けて扉を開く。
いつもだと「おかえり」と出迎えてくれるメイドは今はおらず、ただ薄暗い空間だけがそこにあった。
良介は素早く部屋の中に入ると扉を閉じ、鍵を閉めて靴を脱いだ。
一歩家の中に踏み込み、そこで気付いた。
(誰か、いるのか……?)
何となく、人の気配を感じた。
一瞬アリサが帰ってきてるのかとも思ったが、それならわざわざ真っ暗のままにしている理由がわからない。
それになりより、感じる気配は一人だけではない。
(どうする?)
一体誰なのかはわからないが、複数人いるのなら一人で突撃するのはまずいか?
だが、自分の家に無断で入り込んでいる輩を成敗してやらないと、という気持ちもわいてくる。
というか、勝手に俺の家に上がりこむとはいい度胸じゃねぇか、と。
背負っていた自分の剣を納めている布袋に手をかけ、すっと玄関を部屋を分けるドアの前に移動する。
剣の柄を握りしめると、ドアノブへとそっと手を添えた。
そのまま、いざ!とノブに手をかけようとしたその瞬間、目の前のドアが突然開いた。
そして次に聞こえてきたのは火薬が破裂したような音。
(まさか銃か!?というか、室内でそんなもの使うのか!?)
少し飛びすぎた思考ではあったが、一足とびでそこまでたどり着いたのは彼故か。
一瞬身を固くし、次に後ろに大きく下がろうとした良介だが、その時部屋に光が灯った。
そして、目に飛び込んできたのは、
「………あん?」
舞うように降り注ぐ、色とりどりの紙吹雪だった。
さらにそれを追うように飛び込んできているのは、黒く小さな鼻先。
それは、あまりに予想外な出来事に硬直していた良介の顔面に、不意打ち気味に見事にぶつかった。
「おわっ!?」
そのまま衝撃に良介は後ろに倒れこみ、尻もちをついたような体制で地面に座り込んだ。
そして、顔に張り付いている物体をつかみとった。
「だから、飛び込んで来るなっていつも言ってるだろうが!」
「くぅーん」
「ご、ごめんなさい、良介さん。久遠、ダメでしょう?」
「いや、別に那美が謝ることではないんだが……」
彼にとっては見慣れた、この町にたどり着いて初めに得た家来、子狐の久遠。
そのまま、自然な動きで自分の頭の上へと久遠をのせると、ジト目で目の前に広がる光景を睨みつけた。
「で、これは一体どうなってんだ?」
いつも彼とアリサの二人で生活をしている部屋は、なぜか見慣れたメンバーで埋まっていた。
この町で彼が出会った人たち、その半数以上がこの部屋に集結している。
そして、部屋の奥に見えるのは本当ならいないはずのアリサではないだろうか。
彼女は良介と眼が合うと、いっそ見事な微笑みを浮かべながら彼に近づいていった。
「おかえりなさい、良介」
「おう……って、そうじゃねぇ!いったいなんなんだ、これは?」
目の前に広がる光景を指さしながら尋ねる良介。
いつも使っている物よりも少し大きめのテーブルを取り囲んでいるのは、この海鳴の町で彼が出会ってきた人たち。
彼らは皆、手にクラッカーをもちこちらに向けたまま、笑顔を浮かべている。
「そんなの決まってるじゃない。クリスマスパーティーよ」
見たらわかるでしょ、とばかりに言い切るアリサ。
彼女のその言葉に良介は改めて部屋の中を見回した。
なるほど、確かに簡単にではあるが部屋はきれいに装飾され、机の上にはおいしそうな料理が並んでいる。
そうなのか、と良介はあらゆる疑問を一度彼方に追いやってもう一つの疑問を問う。
「で、なんでお前がここにいるんだ?」
「なによ、あたしがいちゃいけないの?」
「そうじゃなくて、お前は年の終わりまでは帰らねぇって言ってただろうが」
そう、二日前にアリサがこの家を出ていく時、そういいって出ていったはずだった。
その時はしばらく一人でのんびりできると思ったものだが。
「ああ、あれは嘘よ」
あっさりそう言い切った少女に、良介は自分の顔が引きつるのを感じた。
「良介って、皆で集まるって言ったら絶対逃げるでしょ?
だから良介には秘密で、みんなで色々と計画を進めてたというわけよ」
なぜかと問うよりも先にそう答えてくれた彼女の言葉に、後ろにいる連中も皆頷いている。
そこまで信用ないのか、と思う反面、確かに知っていたら帰ってこなかったかもなと考える良介。
そこまで理解して、わざわざ彼に秘密でここまで進めてきたのは見事というかなんというか、ある意味彼への信頼の表れだろう。
その信頼の方向はあれではあるが。
「ほら良介。家主として皆に挨拶しなさい」
「てめぇらが勝手に集まったんだろうが……。まあいいか、それじゃあメリークリスマスってことでカンパーイ!」
とりあえず、このメンバーならうまいものが食えるだろうと納得することにした良介だった。
「良介」
手に鳥肉をもったまま、掛けられた声に振り向いた。
そこにいたのは八神はやて、そして彼女の家族であるヴォルケンリッターの面々だった。
「なんだ、はやてか」
「なんだって、それはちょおひどいんとちゃう?
久しぶりに会うてんからもっと嬉しそうにしてや」
「そうですよ良介さん!私も一月も会えなくて寂しかったんですよ?
良介さんも寂しかったでしょう?寂しかったですよね?うふふ、やっぱりそうなんですね。私、嬉しいです」
「だから、なんでお前が俺の言葉まで受け持つんだ!?それに、別に寂しくなんかねぇよ」
一人の方が気軽だしなと続ける良介に、はやては優しい笑みを浮かべた。
「わたしは良介に会えんで寂しかったんよ?なあ、ヴィータ?」
ヴィータもそやろ?と問いかけるはやてに、しかしヴィータはそっぽを向いたまま答えた。
「別にアタシはリョウスケなんかに会えなくても寂しくなんかねーです」
「ふーん、そうなのか。ならこの機会に親分子分の関係を解消……」
「ふざけんな!」
先程までとは一転、グラーフアイゼンまで持ち出しそうな勢いで怒鳴るヴィータ。
はやては、そんな末妹の姿に微笑みを浮かべながらも彼女をなだめる。
「こらヴィータ、そんなに怒鳴ったらあかんで?良介も本気で言ってるわけやないねんから」
「いや、俺は割と本気………」
「な?良介」
「……おう」
一瞬で己の主張を切り替えたのは、別に彼女が怖かったからではない。
ああ、決して違うとも。
自分に言い聞かせる良介だが、先ほど彼が見たはやての眼は間違いなく“死なす目”だった。
何となく、彼女に尻に敷かれている自分が恨めしい。
「ふん。ところで、人の家に来たからには何か手土産くらいないのか?」
「んー、わたしの愛情?」
「いるか!?」
本気か冗談なのかわからに表情を浮かべながら言う少女に、良介は思わず声を荒げた。
そんな横、シャマルは数枚の紙を取り出して美しい微笑みとともに良介に差し出した。
「それなら、これをどうぞ」
渡された紙を、何だと訝しげにのぞきこむ。
そこに書かれていた言葉は、
婚姻届
背中に寒いものを感じながらもさらに一枚めくってみる。
次に出てきたのは薄いながらも冊子のようになっている物で、カラフルなそれの見出しにはこうある。
式場 パンフレット
「ふざけんな!?」
心からの絶叫とともに盛大に破り捨てた。
シャマルはそれを残念そうに見つめながら呟いた。
「あぁ、もったいない」
「そやねぇ。でも、わたしはまだ結婚できへんしなー」
「お前も何言ってやがる!?」
「すまんな、ミヤモト。主たちも、久しぶりにお前に会えて少しはしゃいでいるようだ」
「いや、別にいいけどよ」
良介はシグナムと二人、少し離れた場所ではしゃいているはやてたちを見ながらそんな会話をしていた。
なんだかんで長い付き合いだ、あれくらいどうってことはない……はずだ。
「そうですよー。それにはやてちゃんはあなたのために一生懸命料理してたんですから、それだけで立派なプレゼントじゃないですか」
「あ、いたのか」
「いましたよ!リョウスケ、失礼ですよ!」
「いたたたたた!?わかったから蹴るな!」
自分に蹴りを入れてくる空色の髪の少女を抑えながら、シグナムから渡されたグラスを手に持ち、軽く差し出した。
二人の様子に、僅かながらも微笑みを浮かべていた彼女も、良介の意図を察してか同じようにグラスを差し出した。
二人の間で、軽くカチリと音が鳴った。
「むぅ〜〜〜」
空の色少女――ミヤだけは、どこか不満そうにその光景を見ていた。
当たり前のことだが、普段二人で生活を送っているこの部屋は大人数が入るには狭く、故に立食の形式を取っている。
そして、何を食べようかと皿を見回している良介に近づく少女が一人。
「おにーちゃん、おにーちゃん。これ、なのはが作ったんですよ。食べてみてください」
彼を兄と呼び慕う少女、高町なのは。
彼女は一つの皿を手に取り、良介へと差し出していた。
特に断る理由もなく、それならばと手をのばしかけて彼は一つのことに気づいた。
以前、似たようなことがった時、どこからともなく鋭い視線を感じたような……。
それを警戒するように、辺りを見渡し、件の人物を探す。
なのはがそんな良介を不思議そうに見つめているが、今はそれは無視する。
そして、いつものように黒一色の人物を見つけた。のだが……、
「ほら、恭ちゃん。これ食べてみて」
「ん?ああ、それじゃあ―――」
「私が作ったんだよ」
「………………………」
自分の恋人に渡された皿に、箸を伸ばした状態で固まっているようだった。
今の良介と似たような光景ではあるが、その実態は雲泥の差ともいえるだろう。
(確かにあれは強烈だからな)
旅をしていたころは泥水や雑草を食べて生き延びていた良介の強靭な胃にさえも、致命傷とは言わなくてもかなりのダメージを与えたものを思い出しながらその様子を眺めていた。
その先、彼の周りにいた他の人物たちも「う、ウチは料理の追加でも作ってこよかな!」「あ、俺も手伝う」とサッサと退避していっている。
まあ、適切な判断だろう。
そのまま眺めてもいたかったが、もし目が合いでもしたらこちらに被害が及ぶかもしれないので中断する。
食べられないこともないが、せっかくの聖夜にわざわざ望んであれを食べようとは思わない。
「おにーちゃん、どうかしたんですか?」
「いや、なんでもねぇ」
頭の中から今の光景を押し出し、目の前に差し出された料理に箸をつける。
以前は失敗も多かったなのはの料理だが、
「どーですか?」
不安そうに尋ねる少女に、良介は「うまいぞ」と一言答えた。
味気もない言葉ではあったが、それでもなのははその言葉に満面の笑みを浮かべた。
「お前らもいたのか」
呆れたように呟いた先にいるのは、ハラオウン一家とエイミィだった。
正直、彼らは管理局の中でも忙しいだろうに、それを思えばここにいるのは驚きであった。
「まあ、以前からスケジュールは組んであったからな」
というのは、クロノである。
しかし、良介はその言葉に一つ疑問を感じた。
「以前からって、そんな前から決まってたのか?」
「ええ、一月ほど前から」
「リョウスケには内緒でねー」
なんて奴らだ!?と憤っている良介を、リンディとエイミィは微笑んで見守っていた。
フェイトなどは申し訳そうにしているが、ここにいるメンバーからすれば珍しい反応だろう。
「あ、そうだ。リョウスケに渡すものがあるんだ」
と、エイミィから手渡されたのは封筒だ。
何となく嫌な予感がしがらも尋ねる。
「何だ、これは?」
「書類だ。それに反省文を書いておいてくれ」
「な、なんだそりゃ!?俺はお前らにそんなこと言われる様なことした覚えは……」
「これでもか?」
渡されたのは一枚の写真。
蒼銀の髪をなびかせながら、空を舞う一人の男性。
「ミヤモト、お前だな?」
「おいおい、俺は髪は黒いぞ?」
「彼女と融合しているんだろう。大体、このバリアジャケットは君のものだろうが」
「確かによく似てるな。俺のを真似したんだろう」
見事なまでにしらをきる良介に、クロノは疲れたようにため息をついた。
それを見守るリンディとエイミィは本当に楽しそうに、フェイトは困ったように笑みを浮かべている。
「なら、これでどうだ」
「あん………げっ」
次に取り出された写真に、思わずまずい声が漏れた。
それは、どこからどう見ても彼であり、今まさにユニゾンしようとしているところだった。
「……一体、どこからこんなものを?」
「君専門の捜査官がわざわざ探してきてくれた。全く、子育てで忙しいだろうに」
その言葉に、あいつかあああああぁぁぁ、と悶えている良介に無理やり封筒をもたせると、
「なるべく年明けまでには提出してくれ」
無慈悲に言い渡すのであった。
がくり、と打ちのめされた良介にフェイトは優しく語りかけた。
「リョウスケ、もう少ししたら私も車の免許が取れるから。そうしたら、私が乗せてあげるから……」
もう少しというのは何年後になるのだろうか。
そんなことを考えながらも、とりあえずありがとうと返すのであった。
「忍、そこの酒とってくれ」
「はい、侍君」
先程渡された封筒は自室の机に叩きこんできて、今はそれを忘れることにした。
手渡されたものを口に含み、一つ頷く。
「塩加減といい焼き加減といい完璧だな。特にこの……って違うは!」
見事な焼き鮭の乗った皿を机に叩きつけた。
「くだらねぇボケをするな!?」
「もー、内縁の妻の可愛いお茶目じゃない。そんなに怒ったらだめだよ、侍君」
「やかましい、そしてさり気無く愛人の座に座るな」
言いながら、今度こそちゃんと渡されたグラスに口をつける。
というか、なぜクリスマスに焼き鮭があるんだ?などと考えながら。
「久しぶりに会ったって言うのに、侍君は冷たいねー」
「むしろそれがデフォだろ」
「そこは改めようよ」
呆れたように言う忍に、一つ気づいたことに尋ねた。
「そう言えば、ノエルはどうしたんだ?」
いつも彼女と一緒にいる、清廉なメイドの姿を探しながら問う。
忍は笑いながら「あっちだよ」とキッチンの方を指差した。
覗き込んで見ると、なるほど、先ほど退避したメンバーとともに料理にいそしむノエルの姿が見えた。
よく働くなと、良介は少しだけその姿に感心した。
「ところで侍君、私に何かクリスマスプレゼントはないの?」
「あるわけねぇだろ。むしろ俺がほしいわ」
「んー、じゃあそれでいい?」
うちから持ってきたお酒だし、という彼女の言葉に思わず手に持ったグラスを見た。
まさか初めからそのつもりで渡したんだろうか、と。
「それで、私も侍君から飲ませてもらうとか」
「ってこら、ふざけんな!?」
「いいじゃない、私達の仲だし」
「関係あるか!?」
彼女の言っている意味を理解しながらも、大体どういう仲だ、と怒鳴る。
すり寄るように近づいてくる忍から、取りあえず逃げることにした。
= 3 =
少し火照った体を冷やすために、良介は一人ベランダで涼んでいた。
それほど高い位置ではないが、そこから見える海鳴を少し感慨深げに見渡しながら思う。
ほんの数年前までは、予想もしていなかった人生だな、と。
旅をしていたころはクリスマスなんて関係なく、ただ生き延びるためだけに独りで歩いていた。
それがこの町で多くの人物と出会い、いつか巣立っていくと思いながらも自分の帰る場所まで出来てしまい。
最近ではもう出ていくのは無理だろうか、とさえ考え始めている。
出ていくにはあまりにも長くの時をここで過ごしてしまい、どこか未練がましくなっているのかもしれない。
(いや、違うな)
この町を出ていけない理由、それは―――。
その時、彼の後方からガチャと音が聞こえてきた。
振り返ってみると、一人の女性がベランダに出てきた。
「どうしたんだ?」
笑みを浮かべながら良介に近づいてくる彼女に声をかける。
彼女は、少しだけ照れたような表情を浮かべながら、
「メリークリスマス」
そう言った。
不思議そうな顔をしている良介に、二人きりで言いたかったからと、彼女ははにかんだ。
良介も照れたように顔を少しそらしながら、そうか、とだけ答えた。
彼女は、良介の隣に来るとそこに寄り添うように立ち、良介の見詰める海鳴の町を見た。
彼と彼女が出会い、そして彼女の暮らす町。
つまり、良介がこの町を離れられないのはそう言う理由だ。
白く染まり、どこか幻想的な町から視線を彼女へと移して良介は口を開いた。
「メリークリスマス」
少し驚いたような顔をしたが、彼女はすぐに笑みを浮かべて彼の腕にしがみついた。
良介はくっつくな!?と怒鳴っているが、彼女はさらにその腕へと力を込める。
その指には、きらりと輝くお揃いの指輪で飾られていた。
あとがき
間に合った?
なんとかクリスマスに書きあげられたかな、とホッとしているレインです。
リョウさんから許可をいただき、今回はTo a you side の外伝的なクリスマス小話を書かせていただきました。
そして、良介の個性の強さに負けました。
それに人数も少なくなっちゃって、本当はもっとたくさんいたんですけどなんか多くなるとぐだぐだになりそうで……。
フィリスだけでも入れた方がよかったかな?
後、最後の人物がだれだったかはそれぞれで補完下さい。
そしてTo a you side に見えなかったら、ごめんなさい(キャラもまだまだだね)。
そのまま本編へと向かいお口直しを。
それにしてもこれ書いてたらリリカル小説を書きたくなってしまいました(アセリアの一章が終わったらちょっとだけ書いてみようかな)
何はともあれ、ここまで読んでくださった皆さんと、掲載の場とそして何より題材を貸してくださったリョウさんに最大の感謝を。