こみっくパーティ 「TOMORROW」その三
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「ここや、ここや!うちが最近見つけた店やねんけど、安くて美味いで。
今日来れた皆はほんまラッキーや」
由宇は得意げに、本日の宴会の場所である目の前の店を紹介する。
その店はこみぱ会場から電車、バスの乗り継ぎで約一時間の場所にあり、
駅前などのいわゆる中心街からは離れた位置に佇む居酒屋さんだった。
「へえ、こんな所に居酒屋さんがあったのか。
でも由宇はどうしてこの店の事を知ったんだ?」
「一度うちの仲間から紹介された事があってな、その縁で。
見た目は確かに小さいし、小汚い感じがちょっとあるけどええ店やで。
うちのお気に入りの店や」
「そうか、でも俺もこういう雰囲気の店は好きだぜ」
確かに由宇の言う通り、今の時間帯で景色と共に周りが薄暗くなっており、
どこか忘れられたような感じの雰囲気が漂う店だが、
俺は基本的に居酒屋系の店は、元来こういう雰囲気の方がいい店だというこだわりを持っている。
街の音があまりしない静けさと雰囲気が似合う店だと思えた。
「ちょっと、ちょっと!!盛り上がるのはいいけど何か忘れてない!?」
「何だよ、瑞希。何か不満でもあるのか?」
「そうやそうや。うちが選んだ店やで。半端はないから安心しとき」
「そうじゃないわよ!!」
どしーん、と地面が響きそうな勢いで、瑞希は地団太を踏む。
「まさかお酒を飲むつもり!私達まだ未成年なのよ!」
薄暗い中でも、瑞希の顔が怒りに歪んでいるのが分かる。
まったく普通にしていれば可愛いのに、どうしてこうもいつも口うるさいのだろうか?
大半が俺のせいという説もあるが・・・・
「いきなり何を言うかと思えば。俺達はもうじき二十歳じゃないか。
今更一歳も二歳も変わらないだろう?」
「そうやで。お酒の一升や二升、がぶ飲みしても大丈夫やて。
瑞希っちゃんもそういう所は固いな、ほんまに」
由宇は気さくに笑って、瑞希の肩をぽんぽんと叩く。
「二升も飲んだら危ないじゃない!それに今日は他の人もいるんでしょう?
高校生の人もいるって聞いたわよ」
「そういえば詠美や千紗ちゃんも高校生だったな」
「詠美はうるさいだけやけど、まあのけ者にするのは可哀相やしな」
口では由宇はそういうものの、俺は彼女達の付き合いがどういうものかはよく知っている。
二人は仲がいいものの、なかなか関係は複雑なようだ。
「詠美って酒がのめるのか?千紗ちゃんも弱そうな感じがするのだけど?」
「ちっちっち、分からんから面白いんやないか。
うちの読みでは二人とも弱いんやないかと思ってるけどな。今晩が楽しみや」
詠美も何だかんだ強がったりするけど、子供な所がたくさんあるからな。
彼女の時折見せる照れ顔を思い出して、俺は苦笑する。
「さすがは由宇。そういう所は尊敬できるぜ」
「さすがやな、和樹。あんたはやっぱり見所があるわ。
あんたは酒に強い方か?ここで飲まれたらただの笑い話やで」
「ふっふっふ、俺をなめてもらっては困る。
こう見えても高校の時から大志と酒宴をよく開いたものだ」
ちなみに大志がアニメのビデオとかを強制的に俺に見せようとして夜中に騒ぎになったり、
徹夜で飲んで、次の日の授業でねぼけて笑われた事は秘密である。
「ちょっと和樹!昔から飲んでたのね、あんたは!!」
う!?しまった!?
トップシークレットだったのに、ついぺらぺら瑞希の前で話してしまった!?
「い、いや、実はジョークだって、ジョーク」
「今更弁解をしようとしても遅いわよ!!
そういえば高校の時、時々ふらふらして登校してた時があったわね。
あの時もだったんじゃないのかしら?」
「いや、あの、その・・・」
最後の方の言葉が妙に優しい声色で言われて、サーと血の気がひいた。
やばい、これは・・・・・
「こ・た・え・な・さ・い・よ!!」
「え、えーとだな・・・・」
俺は横で聞いている由宇に『助けてくれ!』と、視線で訴える。
ところが由宇は『自分で何とかしいや』と言わんばかりに、にっと笑顔で要求を退ける。
な、なんて薄情な友達を持ったんだ、俺は・・・
「だ、だから・・・・」
「何こんな所で言い合いなんてしてるのよ」
泡を食っている俺と睨む瑞希に、横から誰かが声をかける。
その声が誰か一瞬で分かった俺は、喜びいさんで『彼女』に駆け寄る。
「おお!!来たか、詠美!!待ってたぞ」
「え、え・・?」
俺に手を握られたまま、詠美は目を白黒させる。
今日の集まりは宴会と聞いてか、詠美はいつも来ている普段着に小さなポーチを持って来ていた。
「ちょっと和樹、話を誤魔化そうとしてもそうは・・・」
「ひ、久しぶりだな、詠美。今日も一日元気だったか?」
必死で俺は瑞希の話を聞き流し、詠美で話を逸らせようとする。
「久しぶりも何も今日のこみぱで会った所じゃない。頭大丈夫?」
確かに今日、うちのサークルに冷やかしで来たな、こいつ。
「う・・・ ま、まあ詠美に会えたから嬉しかったんだよ。
何しろ同人界の女王とお酒が飲めるからな、もう光栄というか・・・はっはっは」
自分で言っていて舌を噛みそうだったが、とりあえずこの場を収めるべく俺は口にした。
「そ、そう・・?ふふん、あんたもなかなか分かってきたじゃない!
最近売れているからって調子にのっているのかと思ってたけど、いい心がけね。
今日の経験はあんたにとって一生の思い出になるわよ」
これ以上にないご機嫌さで、詠美は満面の笑顔になる。
まさかそこまで効き目があるとは・・・・
いつも反抗的な態度ばかりとっているせいだろうか?
「いつもながら騒がしいな、詠美は。まあ遅刻せんかっただけでよしとしたるか」
「何よ、この温泉パンダ!パンダが人間と会話なんて生意気、超生意気〜!!」
「大馬鹿詠美に動物扱いされたら人間、お終いやな。何やもう、人類の終わりって感じするわ」
「なによ、なによ、なによーー!パンダ、パンダ、パンダーー!!
パンダは田舎の山奥へ帰れー!!」
と、二人はさっそくいつもの恒例の口喧嘩をはじめてしまった。
まったく毎度、毎度・・・・
聞き慣れている俺でさえ声のでかさに閉口しているので、周囲には丸聞こえだろう。
幸いここ近辺はそれほど住宅も並んではいないので、近所迷惑にはなっていないようだが。
「あの二人っていつも思うんだけど、仲がいいの?悪いの?」
いつもコミパに様子を見に来ている瑞希は、当然あの二人の事も知っている。
俺の目に瞳をあわせるように、瑞希は疑問顔でそっとのぞきこむ。
その仕草に内心少しどきっとしながら、
「昔からの友達だから仲はいいと思うぞ。ただ、二人ともちょっと意地っ張りな所があるからな。
なかなかややこしい関係なんだよ、あの二人・・・・」
くいくいっ
そうやって瑞希と話していると、唐突に来る俺の袖を引っ張る感触。
「・・・こんばんわ、和樹さん」
「お、彩ちゃんか。彩ちゃんも今日はよばれたんだな」
詠美と違って彩ちゃんは一度家に帰って着替えたのか、外出着の姿をしている。
控えめな感じだが、それでも細かい所に気を配っている服装は彼女によく似合っていた。
「・・・こみっくパーティの会場で、猪名川さんに招待されまして・・・
今日は・・・よろしくおねがします、和樹さん」
小さくぺこりと頭を下げる彩に、俺は慌てて、
「いや、別にそんな!?今日は楽しもうな。近頃話してなかったし」
「そう・・・ですね・・。私も・・お話したいです」
彩はそう言って、小さく微笑んだ。
こういう時の彩は可愛いよな・・・・
「か・ず・き・く〜ん!この人はお友達ですか?私にも紹介してほしいのですけど〜」
「あだだだだだだ!?耳を引っ張るな、耳を!!」
まったくのびたらどうしてくれるんだ・・・・
俺は痛む耳をさすりながら、彩と瑞希にお互いの事を紹介する。
「彼女は『長谷部 彩』ちゃん。同人誌を書くようになってから会場で知り合ったんだ。
彩ちゃん、こいつは「高瀬 瑞希」。俺の高校からの友達だ」
「・・・長谷部 彩です・・・・」
「高瀬 瑞希です。和樹がいつもお世話になっているみたいでどうも」
互いに少し緊張した雰囲気で、挨拶を交わす。
妙なその雰囲気にちょっと飲まれそうになり、俺は冷や汗が出る。
「・・・いえ、こちらこそ和樹さんにはいつも・・・」
ちらっとこちらを見て、彩は遠慮がちに目を伏せる。
瑞希は逆に不振げに、俺をじっと見る。
うう、俺が何をしたんだ・・・・
「お、彩も来たんか。お目かしまでしてやるやないか、この!」
口喧嘩も終えたのか、由宇は機嫌良く彩の腕を突っついている。
彩は少し困った顔で、されるがままになっている。
「おいおい、やめろよ。困ってるだろ、彩も」
「・・・・和樹さん・・」
「・・・む」
彩と瑞希、二人の視線が俺に絡み合って、少し痛く感じるのは気のせいだろうか?
俺は冷や汗混じりにそう思った。
「こないな事、スキンシップや、スキンシップ。さてそろそろ時間やし、他のメンツも・・・・」
「あ、和樹さーーーん!!」
「すいません、お待たせしました」
「ふう、遅れちゃった・・・・」
「今日はいい夜だ・・・」
夜の居酒屋の前に、続々とメンバーは集まりつつあったものの、
今宵の宴がどのようになるか、それはまだ誰にも知りえなかった・・・
<その四>に続く
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