こみっくパーティ 「TOMORROW」その四
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由宇の案内で来た居酒屋は、こじんまりとした外見と比較して、中は意外に広かった。
分かりやすいメニューの表示が壁に下がっており、内装も飲み屋らしい渋い雰囲気があった。
俺達はそんな居酒屋の大広間に、全員揃って集まっていた。
座敷の十人以上座れるいい席なのでびっくりしたので、俺はこっそり由宇に耳打ちして聞いてみると、
『今日の為に備えて、前々から予約と準備、お願いしとったんや。
ああ、お金の事なら安心してええで。うちの顔で格安にしておくさかいに♪』
どうして地元ではなく、東京の居酒屋でここまで顔が利くのか不思議で仕方が無かったが、
恐らく、それほどまでに由宇個人の顔が広いといった所だろう。
「はいはい、じゃあ皆その辺に座ってや。
座る場所は特に決めてないから、各自自由という事で」
由宇はさっそく幹事の役割を発揮し、それぞれにてきぱき指示を出す。
それじゃあ、俺も適当に座らせてもらうかな。
何気なく、俺はテーブルの中央部分の席の座布団の上に座った。
「あ、和樹さん!ここ、隣いいですか?」
今日ラストに到着した郁美ちゃんが、にこにこしながら俺の返事を待っていた。
中学生らしいニューファッションの私服姿に頭のリボンが似合っていて、すごく可愛らしい。
「ああ、かまわないよ。郁美ちゃん、今日大丈夫だったの?」
いくら知り合いの集まりとはいえ、居酒屋さんは中学生が来れる場所じゃない。
「和樹さん、心配してくれているんですか!?」
「え、あ、まあね・・・・・」
きらきら目を輝かせて尋ねる郁美ちゃんにどう答えていいかわからず、俺は曖昧に答える。
「あたし、嬉しいです!今日はお兄ちゃんもいるから、ゆっくりできますよ」
「今日はよろしく頼む」
郁美ちゃんに合わせて、郁美ちゃんのお兄さん−雄蔵さん−が頷く。
それにしてもこの人、ただ座っているだけでも貫禄があるな・・・・
テーブルの対面の席に座られて、俺は少し居心地の悪さを感じた。
「ゆ、雄蔵さんも由宇に誘われたんですか?」
「うむ、妹と一緒に会場に来た縁でな。
郁美もぜひ行きたいとの事なので、同行となった」
キリリ、とした顔を崩さずに、淡々と雄蔵さんは話す。
う、うーむ、由宇の奴、本当に俺の知りあいは全員誘ったんだな。
「ち、ちなみにお聞きしたい事があるんですけど・・・」
年上という理由以外でも、何故か俺は敬語で話してしまう。
やはり、それ相応の男の貫禄に押されているからなのだろうか?
「どうした?言ってみるがいい」
「多分、この場にいる全員が疑問に思っていると思うんですけど・・・」
周りを見渡すと、話を聞いていた面々が聞け、聞け、とばかりに促す。
ああ、やはり聞かないといけないんだな、俺が・・・
俺は心の中でため息を吐いて、思い切って聞いてみる事にした。
「ゆ、雄蔵さんは、お時間が無かったかなんかでしょうか?」
「?質問の意図がわからんのだが」
く、やはりはっきりと言わないと駄目か・・・・
ごくっと唾を飲んで、俺はどきどきする鼓動を抑えつつ言った。
「えーと、早い話が今日も学ラン姿なんですね、と・・・」
おお〜、と周りがどよめく。
郁美ちゃんは今日はいつもと違う私服姿なのに、雄蔵さんはいつも通りの学ラン姿である。
そこが気になって仕方が無かったので思い切って尋ねた所、周りの反応がこれである。
どうやら内心、やはり皆気になっていたようだ。
由宇はちょっと離れた所から、『よく聞いたで、和樹!』とばかりに親指を立てている。
「なるほど、この姿が気になるという訳か」
「い、いや、雄蔵さんが気に入っているのでしたらそれでいいんですけどね、はは」
よ、弱い、弱いぞ、自分!?おされてどうする!?
情けない態度をとっている自分に、不甲斐なさを感じる。
「ちょうどいい機会だ。貴様に男の在り方について語ってやろう」
「お、男の在りかたっすか!?」
また何か説教が始まるんじゃないだろうか・・・・
迂闊な質問をしてしまったような気がして、俺は冷や汗を流す。
「そもそも、今の男というのは、だ・・・・」
それからじっくり腰を据えて、雄蔵さんの話(説教?)が始まった。
いや、もういいですから、と言えるほど根性が無い俺は、ただ黙って聞いている他はなかった。
「さーてと、和樹達が盛りあがっとる内になんか頼もうか」
「にゃあ!千砂はオレンジジュースがいいです!」
由宇の奴、俺をあっさりと見捨てやがった!?
「何や何や、居酒屋さんに来ておるんやで。
ジュースなんて子供みたいなもん飲まんと、ビール大ジョッキでものまなあかんで!」
「あらあら、駄目ですよ。千砂ちゃんは未成年なんですから。
ジュースにしておきましょう、ね」
「うーん、牧やんにそう言われると仕方が無いわ」
おーい、こっちをほったらかしにしないでくれーーー!!
雄蔵さんの話が続く中、俺は涙目で盛り上がっている面々に訴えかけるが、
「パンダは笹でも食べてればいいのよ!」
「大馬鹿詠美は、うちのおごりで温か〜い日本酒をプレゼンとしたるわ」
「ふみゅ〜、お酒なんていやよ」
「あ、そう。同人界の女王たる詠美様がまさかお酒が飲まれヘんとか?」
「ば、馬鹿にしないでよね!!お酒なんてぐびぐびよ」
由宇の挑発にあっさりとのって、詠美は傍目から見ても強情を言える態度をとる。
ああ、由宇の思う壷だ・・・
「じゃあ日本酒と言う事で。瑞希っちゃんはビールでええか?」
「わ、私もジュースでいいですから」
「何言うてんねん。瑞希っちゃんはもう大人やで。
ビールの一杯や二杯、平気でのまんと将来が危ないで」
どういう将来が危ないんだろうか・・・?
こまり顔の瑞希に、したり顔で由宇は持ち前のエネルギーを発揮する。
あれは押し切られるのは時間の問題だな・・・・
「ふんふん、メニューは結構いろいろと豊富にあるんだ♪
じゃあ私はチューハイのライムで!」
「それじゃあ、私も同じ物をいただこうかしら」
「チューハイのライム二つやな。食べるものも何かとるか?」
玲子ちゃんって、お酒強そうだな・・・・
満面の笑顔でメニューを見ている姿に、俺は痛烈にそう感じた。
南さんはいつも通りだけど、雰囲気を楽しんでそうだし。
まあ、それはいいとしてだ・・・・・
「・・・・と言う事だ。いいか、今の世の中を生きていくには、男は・・・」
こっちを早く何とかしてくれよーーー!
俺は心の中で強い孤独を感じながら、正座での足の痺れと懸命に戦っていた。
ああ、無情・・・・・
「じゃあ、今日の同人活動成功と明日に・・・・カンパーイ!!」
『カンパーーーーイ!』
由宇の乾杯音頭に合わせて、俺を含め全員がそれぞれの飲み物を口に入れる。
ビールの苦みと濃厚なアルコールの香りが、俺に浸透してくる。
「ぷっはあーー、この一杯の為に生きてるようなもんやな」
「由宇、それじゃあ中年の親父だぞ」
「まあ、お決まりいう事で。さあさ、和樹も飲みや」
「和樹さん、あたし、つぎますよ!」
郁美ちゃんはそういって、俺のコップにトクトクとついでくれた。
「ありがとう、郁美ちゃん」
ちなみに、郁美ちゃんは千砂ちゃんと同じジュースを飲んでいる。
本当はお酒が飲みたかったようだが、瑞希と南さんが止めたのだ。
さすが、この二人の判断は賢明である。
「いいんですよ♪あたし、こうして和樹さんとお酒が飲めるなんて夢みたいです」
「そ、そうかな・・・・」
郁美ちゃんのうるうるした瞳に、俺は若干汗混じりになる。
「和樹、はい、私もついであげるね」
俺の左隣に座っている瑞希が、ビール瓶をこっちに向ける。
「い、いや、もうついでもらったから」
「ふーん、私のは飲めないんだ・・・・?」
う、その意味深な言い方はなんだ、瑞希?
何となく断るのが恐いような気がして、俺は慌ててコップの中を空にする。
う、一気飲みはかなりきくな・・・・
「なかなかいいのみっぷりじゃない。はい、どうぞ」
「あ、ありがとう、瑞希・・・・」
にこにこ笑顔で、瑞希は俺のコップにとくとくと注いでくれた。
俺はあんまり酒は強い方じゃないんだけどな・・・・
「むむ!和樹さん、美味しいおつまみがありますよ♪」
え、えーと・・・・・・
「か、和樹!!この料理、すごく美味しいわよ♪」
な、何がどうなっいるんだろうか・・・・・・
居酒屋の座敷で、奇妙な雰囲気につぶされそうな俺がそこにいた。
<その五>に続く
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