こみっくパーティ 「TOMORROW」その五




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「和樹さん、この唐揚げすごく美味しいですよ♪どうぞ、どうぞ」

「ビ、ビールが冷えてるわよ、和樹。はい、もう一杯♪」


唐揚げがのっている皿とビールの一升瓶が、俺の前につき出される。

いや、あの・・・そんなに急に食べられないんですけど・・・・

「和樹さんは今はお腹がすいているのですよね!今日は一日大変だったでしょうし」

「ま、まあね。いつも応援してくれてありがとう」


少し汗をかきながらそう言うと、郁美ちゃんはぱあっと表情を輝かせる。

逆に、隣にいる瑞希は露骨に不機嫌そうな顔になった。

うう、どうしろというんだ・・・・・


「和樹は今は喉が渇いているんだよね!今日は漫画もいっぱい売れたから。
売り子をして応援した甲斐があったわ」

「そ、そうだな。み、瑞希にはいつも本当に感謝しているよ。
食生活に困った時はいつも差し入れで作ってくれているし、売り子までしてくれているし」


迫力のある笑顔で迫られて、俺はたじろぎながらそう答えた。

瑞希は少し驚いたような顔をした後、満面の笑みをする。

う、ちょっと可愛いかも・・・・・


「むう、和樹さんは私の唐揚げを食べるの!」

「違うわよ、和樹は私のビールを飲むのよ。唐揚げは後で食べられるでしょう」

「ビールだって後で飲めます!」

「ビールは冷えたら美味しくないじゃない!!冷たく飲むから喉に心地良いのよ!」


ビール通の中年じゃないんだから。

それにしても瑞希の奴、未成年がお酒を飲むのは反対とか言ってたのに、

俺にここまでアルコールを勧めるいきなりの変り身は一体何だ。


「唐揚げだって冷めたら美味しくありません!揚げたてが一番ぱりぱりして美味しいんですよ!
お兄ちゃんだって、いつもそこがいいって言っています!!」


郁美ちゃんも負けじと、声を張り上げて主張する。

これほど熱くなる郁美ちゃんを見るのは、今日が初めてかもしれない。


「・・・どうでもいいですけど、雄蔵さん」

「何だ?先程の話の続きが聞きたくなかったか?」


ちびちびと日本酒を飲んでいる雄蔵さんが、こちらに視線を向ける。


「いや、それは全力で遠慮するとして。唐揚げは揚げたてがいいって、本当にそんな事を?」

「うむ、郁美も近頃料理に凝っていてな。いつも手料理を御馳走してくれる。
世界にただ一つしかない至高の料理だ」


感銘深く、雄蔵さんは遠い目をして料理の偉大さを語る。

ここで「それはただの贔屓目では?」等と言おうものなら、俺は命を落としかねない。


「和樹さんは唐揚げを食べるんです!!」

「ビールを飲むのよ!!」


二人は当事者の俺を差し置いて、激しく口論をしている。

せっかくの宴会なのにどうして喧嘩になるんだ、この二人は。

ほっておくとまずまずヒートアップしそうなので、俺は横から口を入れる。


「ま、まあまあ、せっかくの宴会の場なんだから皆で楽しく・・・」

『和樹(さん)は黙ってて(ください)!!!』

「す、すいません・・・・・」


二人にギロッと睨まれて、俺は萎縮して黙り込む。

駄目だ、下手に口を出そうものなら俺の人生もお終いになってしまいそうだ。


「和樹を挟んでの美少女二人の争い!
まずまずヒートアップする二人に、和樹はいかにして立ち向かうのか!」

「妹のように大切に思う少女か!!はたまた、いつも世話を焼いてくれる近場の女か!!
三角関係の終焉にあるものは!!
二人のどちらを選ぶか、あるいはカッコイイ男の子か!!」

「微笑ましい限りの展開ですが、本日はここまでとなります♪」

「・・・・来週を・・・・楽しみにして下さい・・・・」

「うーん、気になる展開だな・・・・ってそうじゃないでしょうが!!
勝手に人を玩具にして、嘘のナレーションをいれないでください!!」


長テーブルを挟んでの向かい側で傍観している四人に、俺は声を上げる。

ちなみに順番としては由宇、玲子ちゃん、南さん、彩だ。


「大体、途中のカッコイイ男かっていうのが気になるぞ、玲子ちゃん!」

「にはは、だって千堂君にはボーイズラブの道を選んでほしいんだもん。
せっかくの高素材なのにさ」


ぶーぶーと口を尖らせて、今日の宴会のメンバーの一人である玲子ちゃんが言う。

初めてコスプレを見にいった時にお世話になった娘で、同人界に入ってから友達になった。

感情表現が豊かな気持ちのいい娘なのだが、いかんせん同性愛関連に興味がある所を何とかしてほしい。


「高素材って!?とりあえず俺は普通に女の子が好きだから」

「つまんないの〜、千堂君ならすぐに人気者になれるのに」

「あはは、ええかもしれんな。和樹の恋愛観をそっちにむけるのも面白そうや」


同性愛関連で有名になっても、俺は全然嬉しくないです。

というか、人の人生観をネタにしないでくれよ、由宇。


「いくら人気者になっても、俺に対する見方が180度以上変わるのは嫌だぞ。
大体彩もそうだけど、南さんまで一緒になってどうするんですか」


俺の抗議に彩は平然としており、南さんは楽しそうにこう言った。


「余りに仲良しさんな所を見せてもらいまして、ついつい口を出してしまったんですよ。
和樹さんは女の子に人気がありますもんね」


そ、そうですかね・・・・

自分で言うのも恥ずかしいけど、高校生の頃までは全然女の事は縁がなかったのに。

せいぜい瑞希やクラスの女の子と遊びに行ったとかそれぐらいである。


「うーん、該当するような事が思いつかないんですけど・・・・」

「和樹はほんまに鈍感やからな。現在の世の中やと恐竜並みに珍しい生物やで」

「人を天然記念物みたいに言うな!」

「あらあら、言い当て妙ですね、由宇ちゃん」

「そうやろ、そうやろ。まあそういう和樹でないと面白くないんやけどな」

「ぶ〜、女の子と如何こうあるなんてつまんないよ。
やっぱり千堂君には立川のお兄さんのような野獣さんとの2ショットが理想だよ♪」


悪酔いしそうな冗談はやめてほしいぞ、玲子ちゃん。

まあ多分、彼女本気なんだと思うけど・・・・・

うぷ、想像したら気分が悪くなってきた。


「愛にはそれぞれに形がありますから。和樹さんにはぜひ成就してほしいですね♪
私も精一杯応援しますね」


いや、南さん、応援って一体・・・・・

照れくさそうに若干頬を染めて微笑む南さんに、俺はどういったらいいのかわからなかった。


「じゃあ和樹の前途とこれからを祝してカンパイといこか♪」

「そうですね、ちょうど先ほど頼んだお酒も来ましたから」


いや、俺を肴に盛り上がらないでください・・・・

とんとん拍子に進む話の展開についていけず、俺は小さくため息を吐いた。

周りを見ると瑞希と立川さんはまだ口論中、南さんと由宇、そして玲子ちゃんは何やら盛り上がっている。

あれ、彩は・・・・?


「・・・・和樹さん・・・・」

「おわ!?」


耳元で囁かれた声に、俺はびくんっと身体が痙攣する。

び、びっくりした・・・・


「・・・・どうしました・・・?」

「い、いや、何でもない。楽しんでいるか、彩。
ちょっと、いやかなり個性的なメンバーが勢揃いしているけど」


あ、千紗ちゃん、テーブルの上に運ばれてくる料理を目を輝かせて見ているな。

詠美の奴もビールを恐る恐る飲んで・・・・あ、苦そうにしてる。


「・・・・和樹さん、楽しそうですね・・・・」

思わずこぼれた笑みに気がついたのか、彩はそんな事を言った。

ちょっと照れくさかったので、俺は頭を掻いた。


「うーん、まあな。一緒にいて楽しい連中だと思うよ。
まだ一年足らずの付き合いだけどな」

「・・・・私も・・・・・」

「え・・?」

「・・・私も・・・・・ここにいて楽しいです」

「そうか・・・」


小さく微笑する彩を見て、俺は少し心が安らぐような感覚を覚える。

始めて見た時の寂しそうな様子は色あせて、俺の中の彼女は今の微笑みに重なった。

「・・・でも・・・」


彩は少し声のトーンを落とし、恐る恐るという感じで口を開く。


「和樹さんは・・・・私といて楽しいですか・・・?」

「彩・・・・?」

「・・・・・私は・・・和樹さんと、その・・・・」


徐々に声を小さくして、彩はやがて俯いた。

その様子に胸をつかれた俺は若干間をあけた後に、にかっと歯を見せていった。


「俺は一緒にいたくない人間と酒を飲むつもりはないぞ」

「・・・和樹・・・さん・・?」

「ほら、彩も飲んで飲んで。今日は無礼講って事で」


俺は飲みやすいチュウハイをテーブルから持ってきて、彩のコップに入れる。

彩は驚いたようにまじまじと見つめていたが、やがて薄く微笑んだ。


「・・・今日は・・・・お疲れ様でした、和樹さん」

「彩も・・・お疲れ様」


二人のコップがかちんと重なり、そして離れた。

















<その六>に続く

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