こみっくパーティ 「TOMORROW」 その六




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 コクコク・・・・



 透明なコップに入っている黄金色に光る冷たいビールを俺は口に入れる。

アルコ−ル特有の大人の苦味と新鮮な冷たさが渇いた喉を潤してくれた。


「ふう、やっと一息つけた感じがするな」


 彩と少し話をした後、俺はテーブルの上の生ビールを静かに飲んでいた。

コミパ終了後からこの居酒屋さんまで瑞希や由宇と話してばかりだったし、

居酒屋さんに着いたら着いたで、同人界で知り合った友人達に飲まれて落ち着くどころか、

一緒になって振り回された挙句、残るのはもてあそばれた様な脱力感だけだったからな。


「まあ、彩とは落ち着いて二人で話せたけどな」


 現在イカのスルメ剥きに没頭している彩を見て、俺は口元を緩める。

チョコチョコと小さな手を動かす姿がどこか微笑みを誘う。

俺につまみを作ってくれるそうだが、彩の様子を見ていると少し時間がかかりそうだ。


「その間、俺は一人っきりの時間を堪能しておこう」


どたばたと騒ぐのも嫌いではないが、こうして落ち着いて飲むビールもなかなかのものだ。

市販の缶ビールとは違って、居酒屋に出される生ビールは喉越しがスカッとして美味い。

幸い、いつもは私生活などでうるさく言う瑞希も郁未ちゃんとの言い合いで俺の方に注意は向いていない。


「これこそ男の醍醐味だな・・・」


 最近の居酒屋はこじゃれた店装を持つ店が多いので、逆にこんな落ち着ける店は貴重かもしれない。

まあ、由宇達がいろいろな意味で雰囲気を壊してはいるけどな・・・・・

長テーブルの向かい側で激しいトークをしている由宇達を見て、俺はため息をついた。


「お兄さん、お兄さん、楽しんでいますかぁ?」


 にこにこと笑顔で、千紗ちゃんは俺の傍の座布団に座る。

この娘は俺が同人誌を作ろうと決心し、同人活動を始めた時からお世話になっている女の子だ。

俺が作る同人誌の印刷を頼んでいる印刷所の一人娘で、いつも笑顔で接客し頑張っている娘である。


「うん、大いに楽しんでいるよ」


 不満がある訳じゃないし、一緒にこうして集まるだけで楽しい面々ではあるが、

こうして全員が酒ありの宴会をすると何かアクシデントが待っているんじゃないかと、

あれこれと危機感を抱いてしまう自分が妙に情けない。


「にゃあ、お兄さんも楽しんでおられるようですね。
千紗もこんなに大勢の人が集まる宴会に来たのは初めてなんですよぉ!
いろいろな人がいてすっごく楽しいですぅ」


 居酒屋の店内やテーブルに並べられた料理を見て、千紗ちゃんは小さな歓声を上げる。

ふむふむ、千紗もどうやら楽しんでくれているようだ。

全身で喜びを表現する千紗ちゃんに俺は笑って返答する。


「個性的な奴等ばかりだから一緒にいると大変だろう」

「そんな事はありませんよ。お兄さん達やお姉さん達、皆優しくていい人ばかりですからぁ!
千紗、皆さんと知り合えて本当に良かったですぅ」


 うう、何て素直な良い娘なんだ・・・・・

一人っ子の俺としては、こういう娘を妹に一人欲しいと切実に思った。


「うんうん、千紗ちゃんは本当に良い娘だね」

「にゃっ!?そ、そんな事ありませんよぉ〜」


 誉められて照れまくる千紗ちゃんはより一層可愛らしく思った。

こういうほんわかとした会話も悪くはないな。


「俺はこれからつまみでも頼もうと思ってるけど、千紗ちゃんも何か注文する?」


 手元に置いてあるメニューを手に取り、俺は千紗ちゃんに尋ねると、


「にゃあ!?千紗が注文してもいいのですか!?」


 いや、そんなにびっくりした顔で尋ねられても・・・・・・

目をクリクリして身を乗り出してくる千紗ちゃんに、俺は困惑する。


「も、勿論かまわないよ。皆結構好き勝手にそれぞれ注文しているしね」


 俺はそう言って、視線を由宇達の方に向ける。

彼女達は今やすっかりと意気投合している様子で、会話も弾んでいるようだ。


「おっちゃん!!ビール、お代わり追加!」

「私、焼き鳥と串カツを二皿ずつお願いー!」

「あらあら、猪名川さんに玲子さんも落ち着いて食べないと駄目ですよ」


 テンションが最高潮に達しつつある二人に、やんわりと南さんが注意する。

南さん、注意するポイントが間違っています・・・・・・・

由宇の飲酒を笑顔で黙認している南さんに、俺は頭を抱えたくなった。


「お兄さん、調子が悪いのですかぁ!?お薬、飲みますか?」

「い、いや大丈夫。それより何か注文する?」


 由宇達の事は当人の責任問題に任せるとして、俺は千紗ちゃんとの会話に戻る。

メニュ−をテーブルの上に広げて千紗ちゃんにも見えやすいようにすると、


「にゃあ〜、美味しそうな料理がたくさん並んでいますぅ!
こんなご馳走を千紗が頼んでもいいのですかぁ!?」


 い、いや、ご馳走って程の物じゃないと思うけど・・・・・・

ちなみにメニュー並んでいるお品書きはどれもどこの居酒屋さんにもある一品料理ばかりである。

だが彼女にとっては違うらしく、目を輝かせてメニュ−を覗き込んでいる。


「海老さんに豆腐さんに鳥さんも・・・・・わあ!?お刺身さんまであるのですか!?
お兄さん、千紗こんな高級料理を食べていいんですか!?」


 こ、高級料理・・・・・・・・・・

う、いかん!?不覚にも涙が出そうになった!?


「お兄さん、どうしたんですかぁ?おめめさんが痛いのですか」

「いや、ちょっとビールの苦味が目にしみてね・・・・・・」


 千紗ちゃんの印刷所は経済事情に厳しいようで、以前俺も力になったことがあるのだが、

彼女のこうした会話から想像される食事模様を脳裏に浮かべると目頭が熱くなる。


「お酒は大人の人しか飲んじゃいけませんからねぇ〜」


 不思議半分興味半分で、千紗ちゃんは俺のビールをじっと見つめる。

その仕草にふと気がついたことがあり、俺は口を開いた。


「ひょっとして、まさかとは思うけど・・・」

「にゃ?どうしましたお兄さん」

「千紗ちゃん、お酒を飲んだりはしてないだろうね?」


 俺や瑞希は大学生だし、由布達は日頃からうちあげとかで飲んでいるから大丈夫だと思うが、

千紗ちゃんにはちょっと早い気がする。

俺が不安になりつつ尋ねると、千紗ちゃんは笑顔で答えた。


「勿論飲んでいませんよぉ!千紗はジュースをいただいていますからぁ」


 なるほど、手にもっているコップの中身は確かにオレンジジュースのようだ。

近頃はジュース類のチュウハイの種類が多くなってきたので、見た目では判らないものが多い。

それを利用して由宇辺りがジュースと偽って飲ませているかもと思ったが杞憂だったようだ。


「そうか、なら安心だ。一緒に料理を注文しよう」

「はいですぅ!えーと、えーと、どの料理にしようかなぁ〜」


 目をキラキラさせて、千紗ちゃんはメニューの料理を一つ一つ選んでいた。

思わず頭を撫でてやりたくなる位に純真な娘である。

微笑ましい気分になり、俺は千紗ちゃんの様子を見ながらビールを一口飲む。


「ふみゅ〜、よくそんなに飲めるわねあんた・・・・・・」

「何だ、詠美か」


 声のするほうに視線を向けると、テーブルに這い蹲る様に詠美がぐったりとしていた。

いつもは元気すぎるくらい元気なせいか、こうした大人しい詠美は年相応に見えた。

どうも元気がない詠美は違う印象を覚えて違和感がある。


「何だとは何よ〜、あたしは同人界の女王なのよ〜」


 ・・・・・・・・・・前言撤回。やっぱりこいつは大人しい方がいい。

ぐったりしているくせに、今だ口調はいつもと変わらなかった。


「なんか元気がないみたいだがどうした?」

「うにゅう〜、気分悪い・・・・・・・・」

「こみぱの女王と自分で呼んでいる詠美でも気分が悪くなる時があるんだな」


 内心心配しながらも、俺はからかい口調で詠美に言った。

すると詠美は目を三角にしてこちらを睨み付ける。


「自分で呼んでいるってどういう事よ!あたしは皆からそう呼ばれているのよ」

「ほう、ほかに誰が呼んでいるんだ?」

「えっ!?え、えーと・・・・・ファ、ファンの人よ!!
全国三億二千万人の詠美ちゃん様のファンがそう呼んでいるのよ!!」

「全国にそんなに人数はいないぞ」

「う・・・・よ、予想よ、予想!!」

「それは予想じゃなくて展望だと思うが」

「ふにゅう〜・・・・・・・・・・」


 言い返せなくなったのか、悔しそうにテーブルに寄りかかる詠美。

結構からかうと面白いやつだが、さすがに調子が悪そうなのでこの辺にしておこう。


「それで実際どうしたんだ?お前、ちょっと顔色が悪いぞ」

「う〜、頭ががんがんする・・・・」

「頭?あ、ひょっとしてお前お酒を飲みすぎたのか?」


 よく見ると、いくつかの料理を乗せている皿の傍に空のコップが置かれていた。

おそらくこのコップで乾杯後から飲んでいたようだ。


「ちょ、ちょっと飲んだだけよ!私程のレディになるとお酒くらいちょろいわよ」

「ぐったりしているくせに何を言ってるんだ、お前」


 呆れた様にそう言うと、案の定詠美は強がって反論する。


「ぐ、ぐったりなんてしてないわよ!ちょ、ちょっと小休止しているだけよ!
日々同人のトップに立つあたしにも一度の休憩は必要なの!」

「はいはい、そうですか」


 俺は苦笑交じりに嘆息すると、手元にある水の入ったコップを詠美に差し出す。

詠美はきょとんとした顔で、俺の手にある水を見つめる。


「これ、飲んでおけよ。水を飲んだら気分も少しはマシになるぞ」


 まったく酒も強くないのなら初めから飲むなよな・・・・・

何だかんだいってもまだまだ高校生だな、詠美も。


「ふ、ふんっ!?ポチがそこまで頼むのなら飲んでやるわ」


 コップを受け取り、詠美はごくごくと水を飲む。

その様子をじっと見つめていると、詠美はこちらに視線を向けて頬を染める。


「な、何よ!?じっと見ないでよ!」

「へいへい、わかりましたお嬢様」


 笑いをこみ上げるのが押さえ切れなくなり、俺は顔ごと逸らした。

同時に詠美の可愛い一面が見れた事に俺は嬉しかった・・・・・・・・・・

















<その七>に続く

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