こみっくパーティ 「TOMORROW」エピローグ −明日へ−
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「おーい、大丈夫か瑞希?」
「う〜〜、きもぢわるい〜〜〜」
居酒屋で皆と別れたその帰り、俺と瑞希は一緒に帰っていた。
・・・のだが酒を飲みすぎたこいつは当然へべれけとなり、結果俺がおんぶする羽目になっている。
俺も俺で頭はずきずき痛む上に足腰もしっかりとはしていないが、瑞希よりはマシである。
「郁美ちゃんとずいぶん張り合っていたからな」
居酒屋での宴会当初から何かと揉め合っていた二人が激突して、結果この有様となった。
相手側の郁美ちゃんも当然中学生でアルコールに慣れておらず、雄蔵さんにおぶられて帰っていった。
考えてみると二人とも似たような状況で帰っているんだな・・・・・
俺は自分の想像に思わず笑ってしまった。
「今日も一日終わってしまったな・・・・」
空を見つめると、真っ黒なカーテンが引かれている天井に眩い一点の光が輝いていた。
深遠に照らす光は神々しく、見つめる者を吸い寄せる力があるように存在感を示している。
今日は満月だった。
「皆もこの月を見て帰っているのかな・・・・」
こみっくパーティでの朝からのどたばたから始まり、今の静かな夜の終わり。
参加していた人達、お客さんとして来てくれた人達、そして仲間。
住む場所も環境もまったく違う人達が、たった一日に夢を求めて集まってくる。
自分と同じ思いを持って、好きな事をただ一生懸命にやっている。
夢を描く人達の一員としてささやかに頑張っている自分。
ちっぽけではあるがそんな自分を応援し、励ましてくれる人達がいる。
夢の祭典が終わっても、まだまだこれからだと賑やかに気持ち良く盛り上がる事だってできた。
短くも大切な一日がもうすぐ終わるのだと思うと、俺は本当に寂しく感じられる・・・・・・・
「か、和樹?」
「目が覚めたか。意識はしっかりとしているか?」
ゆっくりと背負い直して,俺は小さく身じろぎする瑞希を支え直した。
「うう、頭がぐらぐらする・・・・・・・」
「飲めないくせに、あんなに酒を飲むからだ。もうちょっと加減したほうがいいぞ」
人の事はまったく言えないけどな。
我ながら心の中で反省しつつ、瑞希にも注意する。
「うっはいわね!あんたらって飲んでたじゃない・・・・」
「呂律が回ってないぞ、お前。今日はもう帰ってしっかり休めよ」
ほって置く訳にもいかないので、俺は瑞希の住むマンションへと向かった。
日頃運動不足がたたってか少しずつ疲れては来ているが、何とかはなるだろう。
それにしても・・・・・・
「・・・?はによ?」
「いーや、何でもありませーん」
「う〜、むかふくいいかたね〜〜」
お前も女らしくなったな、なんて素面ではとても言えないっての。
背中から伝わる想像以上の豊かな柔らかい感触に、首筋に伝わる魅惑の吐息。
心臓の鼓動が悟られないか心配するだけで精一杯だった。
お、俺が紳士じゃなかったら、お前の貞操も危ないんだぞ!
聞こえない事をいい事に、俺は内心身勝手に呟いた。
冷たい感触が伝わるアスファルトの道路を踏みしめて、街灯に照らされながら無言で歩いていく。
周囲は人気もなく、明かりが既に消えている家が多かった。
時間的にもう深夜に突入しているため、もう寝静まっている家庭がほとんどなのだろう。
日頃同人活動と大学生活を両立させている俺には、まだまだ時間的にこれからなのだが・・・・・
・・・・それもそれでライフスタイルとしては問題がありそうだ。
「・・・ねえ、和樹」
「ん?吐くんなら降りて隅っこで吐いてくれよ。
この服買ったばかりだから、汚れたら泣くぞ」
「レディに向かってなんて事言うのよ、馬鹿」
レ、レディは拳で人の後頭部を無闇にどつかないと思うのですが・・・・・?
痛みが増した頭をさすりながらも、俺は瑞希がきちんと話せている事に気がついた。
「和樹・・・」
「はいはい?何ですか、お嬢様」
「もう・・・
あのさ・・・続けるの?」
「何が?」
「その・・・・同人誌」
暗がりの中で小さく声を潜ませて、瑞希は俺をじっと見ている感じがした。
俺は少し無言で歩みを進め、やがて口を開いた。
「・・・ああ。多分、これからも続けていくと思う」
最早止めるには、俺はいろいろな事を知りすぎてしまった。
喜び、楽しさ、苦しさ、辛さ。
さまざまな思いがあれど、その先にあるのは常に充実感だった。
もうやめるには、あまりにも捨てなければならない事が多い。
「まだ反対なのか?同人誌の事」
俺が同人活動を始めた時、一番反対していたのはこの瑞希だった。
無論それは自分本位な意見ではなく、むしろ俺を気遣っての事である。
一般的にあまりいい印象をもたれていない事は俺もこの世界に入ってよく分かった事であるし、
特に今までまったく興味もなかった分野へ、俺が行く事に拒否反応を示すのは無理もない事だ。
体を張って止められた事もあるし、涙交じりに懇願された事もあった。
でも、俺は今もこうして続けている・・・・・
心労的に俺が一番負担をかけているのは、間違いなく瑞希だろう。
「ううん・・・そんな事ないよ」
だが、瑞希は俺の言葉に否定する。
何か考え込むように間を取ったか思うと、少しずつ話し始めた。
「初めはね、ずっと嫌だった。
大志にそそのかされて、和樹が危ないおたくの世界に行っちゃうんじゃないって。
和樹は才能もあって意志も強いから、将来もまだまだ頑張れるのに棒にふっちゃうなんておかしい。
そんな事考えてた・・・・知りもしないで」
自嘲気味にくすっと笑って、瑞希は話を続ける。
俺はじっと黙って歩きながら、話に耳を傾けていた。
「でも・・・・和樹を見ている内に、追いかけている内に私の考えも変わったの。
言葉ではうまく言えないけど・・・・こう、皆が一生懸命に頑張ってるって肌で伝わったっていうのかな?
猪名川さんや大庭さん、それに長谷部さんだってそう。
私自身売り子をして・・・それは嫌な事だってあったわよ。
おたく連中に馬鹿にされたり、和樹の本けなされて頭に来た事だってあったし!」
「はは、そう言えばあの時ももめたよな」
振り返ってみると、思い出される事はたくさんあった。
昔は腹が立った事件も、今こうして思い出すと笑い話になってしまうのが不思議だ。
「・・・・不思議だよね。今じゃ私も積極的に手伝ってるんだから・・・」
万感の思いをこめた様に、瑞希はそう締めくくった。
「いい傾向じゃないか。コスプレだってした事もあるんだ。
これからもどんどん積極的に活動を・・・」
「調子に乗るんじゃないの!」
後ろからぎゅ〜っと頬をつねられて、俺は力なく沈黙した。
昔からこいつには勝てたためしがない・・・・
その後穏やかな雰囲気に包まれてしばらく歩いていたが、やがて・・・・・・・・
「俺さ・・・」
「な、何?」
「お前に認められたのが一番嬉しいよ」
酒が入っていたからかもしれない。
寂しさの気持ちが手伝っているのか、月夜の夜が心をさらけ出してくれたのか。
俺は素直に、瑞希に気持ちを伝えれた。
瑞希は驚きのためか体を揺すり、そしておずおずと俺の首に手を回した。
「ずっと応援してあげるから・・・・頑張れ、和樹」
「・・・・ありがとう、瑞希」
満月に照らされた夜の下で、俺と瑞希の影は一つに重なった。
本当の意味で重なり合った二人に、夜はまるで祝福してくれるかのように静かであった・・・・・
「・・・で、結局こうか」
俺はがっくりと肩を落として、目の前の光景を見やった。
「ん〜、美味しい♪あんたのこうてきたつまみ、いけるやないか」
「ふ、我輩の味覚は凡人の数百倍の性能を誇る。シスター、酒もあるぞ」
「おお!大関とはやるやないか!」
「ちょっとマテェェェェェ!!!
人の部屋で何してるんだ、お前らは!」
瑞希をマンションまで送ってようやく家に帰り着いたかと思いきや、
待っていたのはさらなる始まりだった。
「いや〜、実はうち今日泊まる所がなかったてん。
それで和樹の部屋に泊めてもらおうとおもてな」
「鍵はどうやって開けたんだ!?ちゃんと閉めたはずだぞ」
「同志よ。我等の仲は鍵などで塞がれるほどやわではないぞ、ふははははは!!」
・・・・・こいつが開けたのか・・・・・・
平和に終わりそうだった一日が、一人の男の存在を忘れていたせいでぶち壊された。
というか、本当にこいつの事忘れてたな・・・・
「さあ!和樹、二次会と行くで!!」
「同志よ!!我等の明日に乾杯しようではないか!」
俺は深々とため息を吐いたが、心内は穏やかだった。
今日という一日が終わり、いずれ必ず明日は来る。
何が起こるか分かりはしないが、こいつ等といるだけで不安等消し飛んでしまう程の気力が生まれる。
良くも悪くも、俺はこの縁を断ち切れそうにはなかった。
「ほら、和樹!はよ、入っておいでな。
うちがおるからって遠慮する事ないんやから」
「俺の家でなんで遠慮しなければいけないんだ」
俺は苦笑して、仲間のいる世界へと躊躇わずに飛び込んでいった・・・・・・
<FIN>
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