こみっくパーティ 「真っ直ぐな気持ち」
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・・・・・・・・・はあ・・・・・
「皆、ちゃんとお酒持ったか?せっかくのお祝い事や、パーといくで!」
由宇は上機嫌で、グラスを手に取る。
「うむ、今日は記念すべき日。我らの大いなる羽ばたきの旅立ちでもあるのだ。
決め所はしっかりとせねば世界は厳しいぞ!」
とくとくとお酒(と言ってもシャンパンだが)を手に取り、気取った仕草でグラスを振る。
微妙に似合ってるかどうか判断しずらい所である。
「ふん!ふん!ふーーんだ!!ちょっとプロデビューしたからっていい気になってもらっちゃ困るわ。
本当の戦いはこれからよ、これから!」
よく分からない事を言いながら、さっそく用意した料理を食べている詠美。
そんなに食べたら太るぞ、詠美。
「ちょっと和樹・・・」
俺の隣で座っている瑞希が、くいくい袖を引っ張る。
う・・・・・・・・・・
「言いたい事は何となく分かるがなんだ、瑞希?」
「いつまで続けるのよ、このパーティ。もうかれこれ・・・」
・・・・・まあ確かに気持ちはすごく、ものすごくよく分かる。
もうかれこれ・・・・
「では全員そろた所で、うちが今宵の挨拶を務めさせていただくで。
こほん・・では、和樹の漫画の成功と、瑞希っちゃんとのこれからに、
かんぱーーーい!」
「「「「カンパーイ」」」」
日本人の性か、乾杯音頭に合わせて思わずのってしまう俺達。
一頻りグラスを交えて、グーと皆、喉を潤す。
「ぷはー、今日の一杯は最高や!めでたいめでたい」
「中年のおっさんじゃないんだから、もうちょっと品よく飲めよ由宇」
「何言うてんねん、和樹。うちらの仲に遠慮なんていらん。
今日は無礼講や、無礼講」
からからと明るく笑って、テーブルの上のお菓子に手をつけ始める由宇。
まあ気兼ねない付き合いは俺も好きだけど・・・・
「うむ、世界を取る上で親睦を深める事もまた大切。
いずれ高みに登るがゆえ、踏み台はしっかりとせねばならんぞブラザー」
踏み台って・・・・相変わらず表現法に偏りのある男である
「その親睦とやらはまあいいんだが、今日でもう五日目だぞ、五日目。
そろそろ終わりにしてもいいじゃねーのか?」
「引越しの後片付け、いつまで経っても終わらないし・・・はあ・・・」
周りに散らかっているダンボールを見ながら、瑞希はため息を吐いた。
俺と瑞希が正式に付き合うようになって、年月が経った。
その時間は長い様で短い時であったが、いろいろとやったもんだ。
喧嘩もしたし、逆にデートも重ねたりもした。
いろいろとあったが、互いが互いを知る期間であったのかもしれない・・・・
そんな大切な時間を俺達は乗り越えて、同棲生活をする事となった。
学生と漫画のプロの仕事、それを支えてくれた瑞希との時間の共有は失い難いものとなったからだ。
そして、そんな俺達を皆心から祝福してくれた。
腐れ縁の大志、春コミで出会って以来仲良くなった由宇。
こっちを変に意識していろいろとやりあったものの、縁のあった詠美。
コミパデビュー以来良き相談役となってくれた南さん。
漫画界の厳しさと世界の広さを教えてくれた編集長。
この人達がいたからこそ、今の俺がいる。
そうはっきりと断言できる。
それで今もそのありがたい仲間達は、こうして祝いの宴会をやってくれているのだ。
・・・・・・五日間も毎日・・・・・・
まったく南さんや編集長は一日で帰ったっていうのに・・・・
「・・・・なんとなく思うんだが、瑞希」
「・・・・私もなんとなく思っている事があるんだけど何、和樹?」
俺達はお互いに顔を見合わせて、俺はそっと言葉を出した。
「こいつらって、もう当初の目的をダシに騒いでるだけなんじゃないかと思うんだが」
「奇遇ね、私もそう思っていたわ」
部屋にかかっている『第五会 瑞希・和樹おめでたパーティー』などという
第三者が見たら絶対に誤解しそうな(実際南さん、詠美が騒いで、瑞希が照れた)幕を見て、
俺はため息を吐いた。
「どうした、同志?ため息などついて。プロになったからといって気を抜く事は厳禁であるぞ。
我らの目指す頂はまだまだ高いのだ、ふはははははははは!!」
・・・ちなみに酒が入っているのではなく、こいつは素面でこのテンションである。
相手にすると疲れるから適当に流しておこう。
俺は延々と話し続ける大志に適当に聞き流しつつ、シャンパンを口につける。
「和樹、のんどるか?」
「おう、由宇。さすがにお前は全然酔ってないみたいだな」
「うちは酒の付き合いとか慣れとるからな。
でないと、旅館の手伝いなんてできひんわ」
・・・確かに、由宇って幼いころから旅館で手伝っているんだったよな。
ひょっとするともう耐性とかがついているのかもしれない。
「それにシャンパンで酔えんて。和樹はちょいと顔が赤いようやけどな」
「う・・・気、気のせいだ・・・・」
俺は、実は酒はあんまり強くなかったりする。
アルコールの匂いをかいだだけで酔いそうになるくらいだ。
由宇に知られるとかなりの確率でのまされそうなので、虚勢を張っておく。
「まあ詠美に比べたらましやけどな、ほら」
あ、いつのまにか静かだと思ったらぐっすり寝てやがる。
こうしてみると可愛いのにな・・・・
「今何か考えたでしょう、和樹?」
ギク!?
横からの冷たい視線と声に、全身を硬直させながら俺は努めて冷静に対処する。
「ベ、別に何も考えてないぞ、はっはっは」
「笑いが乾いているわよ!もう、すぐに鼻の下を伸ばすんだから・・・・」
むくれて、テーブルの料理をもぐもぐ食べ始める瑞希。
ちょっと悪い事をしたかな・・・・
「いやー、もうすっかりラブらぶな雰囲気やな。うち、あてられてしまうわ〜」
由宇の言葉に、まともに顔を赤くする瑞希。
う、こういう所が可愛いよな、瑞希って・・・・
「か、からかうなよ、由宇・・・」
「まあまあ。それにしてもようやくって感じやな。
うち、影で見ててもやもやしてたんやで」
「そ、そうだったの?」
「もう瑞希っちゃんも和樹も、今時に珍しい奥手やからな〜。
もう強引に行く所まで行かしたろうかと、ちょっと考えてもうたわ♪」
由宇の強引さは身にしみて分かっているので、俺は冷や汗をかきつつ苦笑する。
でも、意外と早く俺達の事を察していたみたいだな、由宇は・・・
「ご、強引って・・・・」
「でも瑞希っちゃんも和樹もこうして仲ようなったし、和樹もプロとしてデビュー。
なんかあんたと出会ってからの月日は早かったで、ほんま・・・・」
コウコクシャンパンを飲みながら、小さく笑みを浮かべる由宇。
「由宇・・・・俺もそうだったよ。
コミパの事を知ってからの今までの月日、俺も精一杯頑張ってきた。
漫画の事、皆の事、それに・・・瑞希とも・・・・」
そっと見ると、瑞希はすごく奇麗な笑顔をして頷いた。
「私も・・・・初めはすごく反対した。
今まで自分が偏った価値観で見てた世界に和樹が入って・・・・・
私はどうすればいいのか分からなくて、必死で和樹を止めたんだよね。
でも和樹は・・・その中で夢を見つけ、かなえた・・・
私も・・・・あそこで見つけられた気がする。
幸せっていう大切な『夢』が・・・・・」
「瑞希・・・・・」
そっと、俺は瑞希の肩を抱いて引き寄せる。
「和樹・・・・・」
瑞希はうっとりと瞳を閉じて、俺に体重を預ける。
俺の夢の一つ・・・・か・・・・・
「・・・・ほんまラブラブやな〜、うち入っていかれへんわ」
由宇の言葉にはっとした俺と瑞希は、慌ててはなれる。
つ、ついやってしまった・・・・・
「あ、あはは・・・・猪名川さん、もっと食べて下さい。どうぞどうぞ。
この料理、自信作なんですよ!」
かなり照れが入っているのか、瑞希は顔を真っ赤にして由宇と接する。
「まあまあそんな照れんでも。まあお互いしっかり頑張りーや。
まだまだこれからやで・・・・しっかり夢、つかみや」
「・・・ありがとうな、由宇」
「何言うてんねん、うちらの仲やないか。よっしゃ、じゃあもう一回乾杯といこうやないか!」
由宇は自分のグラスに、シャンパンを入れなおした。
・・・・そうだな、こういうのも大切だ!
「ほら、瑞希も一緒に乾杯しようぜ」
「うん!じゃあ今度は何に乾杯する?」
瞳に期待の光を湛えて、瑞希はこちらに視線を向ける。
そうだな・・・・
「じゃあ俺と瑞希、そして由宇の『夢』に・・・・カンパイ!!」
「「カンパイ!」」
チーン♪
刻まれる時間と思い出の中で、一つの声音が部屋に響いた。
<終>
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