Ground over 第一章 -始まりの大地へ- その3 案内所
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『ヨルキメデス』の苦痛の咆哮が、高原に大きく轟く。
あまりにでかいその声に顔をしかめつつ、俺は後ろに乗っている葵に現状を聞く。
「どうだ!あいつにダメージは与えられたか!?」
これでダメージが全然なかったら、さすがの俺もちょっと泣くかもしれない。
砂煙と『ヨルキメデス』が暴れる事への地面の振動で、バイクの運転が不動作になるのを必死で抑える。
「倒してはいない。だが、キキョウちゃんがモンスターの顔面に直接当てたからな。
さすがに苦しそうにしているぞ」
「えへへ、頑張りましたぁ〜♪それにしても京介様、すごいですぅ!
『コンティネル・エナジー』を操れるのですねぇ!あれはそのための道具なのですかぁ!!」
こちらへ降りてくるなり、矢継ぎ早にいろいろな質問をしてくるキキョウ。
はっきり言って、俺はその言葉の半分も意味が分からなかった。
「言っている事が分からん、日本語を喋れ」
「ニホンゴって何ですかぁ?」
「だから日本語って・・・ って、お前喋ってるじゃないか」
今気がついたけど、こいつ日本語を喋ってるんだよな。
・・・・どうしてだ?
「友よ、とりあえず考えるのは後にしないか?やっこさん、回復されたら手後れになるぞ」
その言葉にはっと後ろを向くと、顔から黒い煙をゆらゆら揺らしながらも
鋭い瞳でこちらを睨む『ヨルキメデス』がそこにいた。
「うお!?絶対あれは俺らに怒り満々のご様子だ!!
ここは逃げるが勝ちだな。しっかりつかまってろよ、とばすぞ!!」
こうして敵がダメージを負っている間に、俺達は高原を駆け抜けていった・・・・
「この建物か?お前が言ってた『アール案内所』っていうのは」
「はい、そうですぅ!」
高原を走り抜ける事三十分あまり、モンスターを引き離した俺達は
その後特に何もなく、無事に高原にぽつんと立っている一つの建物の前に辿り着いた。
建物より向こう側は高原が終わり、なだらかな平斜が続いている。
どうやらここは、高原の入り口の役割をしている建物でもあるようだ。
「おお、なかなかいい感じの建物ではないか!
これはぜひ、我がメモリー集に収めておかねば!!」
逞しいと言うか何と言うか、先ほどあれだけの目にあっておきながら
葵は元気に、建物を見渡したり写真を撮ったりしていた。
「だから写真とってどうするんだ、お前」
「無論、後で現像するに決まっている。現像キットもここに用意してあるぞ」
不敵な笑みをうかべて、葵はぱんぱんと肩から下げているバックを叩く。
だから重かったのか、こいつ・・・・
「気楽でいいな、お前は。俺はいろいろあり過ぎてごちゃごちゃしてるのに」
突然の世界の変化、化け物の襲撃、逃走。
本当に夢じゃないんだよな、ここは・・・・・
「京介様、お疲れのようですね。ここで一度御休憩しましょう。
ここには飲食する所もありますし、この高原や近隣の街の情報も詳しく知る事ができますから」
「そうだな、腹も減ったしとりあえず休憩しよう。その後で説明と、俺達を元の世界に帰せよ」
「おいおい、もう帰る気か、友よ!!もう少しこの世界を楽しんでいこうではないか!」
「ふざけんな。どうしても残りたいなら、お前一人残れ。俺は帰る」
冗談じゃない。
勝手な都合で訳の分からない所へ連れてこられ、命すら危なかったのだ。
こんな所にもう一秒でもいたくない。
「・・・・・・・ごめんなさいですぅ・・・」
「もういい。いちいち謝るな。とりあえずちゃんと説明してくれ。
ここによばれた事を咎めようとは思ってない。ただ、正直訳が分からん」
「分かりました、きちんと説明しますぅ」
キキョウは羽を頼りなくぱたぱたさせて、小さな肩を落としている。
ちょっときつかったかな・・・
「京介、とりあえず中に入って落ち着こう。人間疲労している時はマイナスに考えがちだ」
葵はたまにこういういい事を言う。
普段は誰もが認める変人ではあるが、こういう所があるから縁が続いているのかもしれない。
俺は深呼吸をして、気分を落ち着けさせた。
雄大な高原の新鮮な空気は、肺に浸透してとても気持ちがいいものだった。
「じゃあ中に入るか。それもしても変わった建物だよな」
これから入ろうとしている建物を見て、俺は素直にそう思った。
大きさは二階建ての建物で、全体的に白い丸みを帯びた作りになっており、
建築材料は何か分からないが、かなり丈夫な素材を使っているようだ。
特に印象的なのは、入り口に吊るされている一枚の旗だった。
「なあ、この旗はひょっとして国旗か?」
「はい、そうですぅ。この国旗は『フレーバーティ』国の証ですよぉ」
フレーバーティ?
聞き慣れない単語はもう慣れたが、どうやら国の名前のようだ。
「ほう、鷹の姿を形作った模様か。なかなか勇ましい感じが出ているな」
国旗の模様は葵が言うように、鷹が羽を広げた姿を模したデザインをしていた。
葵は少し感心したように、その旗をなでなでとさわっている。
下手に汚して怒られても知らんぞ。
「ここはその『フレーバーティ』とかいう国の中って訳か。不法侵入罪で逮捕されない様にしないとな」
「『フレーバーティ』は国交が盛んな国ですから大丈夫ですよぉ。身分証明があれば誰でも入れますぅ」
冗談に気がつかない様子で、キキョウは見当違いの事を説明する。
「はいはい。まあとりあえず入ろうぜ」
中に入ると外のシンプルな作りとは裏腹に、内装のインテリアはなかなか凝ったものだった。
建物内の中央に大きなカウンターがあり、その周りに座る椅子やテーブルが並んである。
そしてカウンター上には大きな地図が吊るされていた。
どうやらあの地図が、この辺り一帯をあらわしたもののようだ。
「内装はあまり目新しい物はないな」
葵は少しがっかりした様に、カメラをポケットに入れた。
まったくこいつは旅行気分でいるな・・・・うん、何だ?
「キコ、エルナ!アイヤタラ、アッミナヤカ!!」
「ウイトレ、ソンヨウト・・・・・ ミレテノヤ、カナイテル」
カウンター中央、受付らしいそこに二人の人間が何やら話し込んでいた。
カウンター内にいるのは大柄な髭の生やした男、もう一人は後ろ姿で判断しにくい。
「おおお!!見ろ見ろ、京介!!あいつ、鎧を着けてるぞ!!うおおお、感動だ!!!」
「着眼点はそっちしかないのか、お前は!」
後ろ姿をしている人間、そいつは胸に鎧を着けている。
どうやら俺達は・・・・・ 本当に日本ではない所に来てしまったようだ。
ようやく会えた他人の姿に、俺は軽い落胆を感じた。
「京介様、大丈夫ですかぁ?」
「そうだよな、お前の存在自体が変だもんな。何か改めて過酷な現実を見てしまった気分だ」
「が〜〜〜ん、ひどいですよぉ〜〜」
「大体言葉をべらべら喋る虫なんて・・・・言葉!?」
「・・・・そういえばあの二人の喋っている言葉、私にはさっぱり分からんな」
キキョウが普通に喋っている日本語と、目の前の二人が話している言葉が全然違う。
「チマリ、フェイルインタリン」
「ガリハイン、カイオケンベオオカイカナリ」
どうやら少しもめているという事は様子で分かるが、いかんせん言葉がまったく分からない。
となると、おかしな事になる。
「おいおい、どういう事だ?何であの二人の言葉は分からんのに、お前はぺらぺら日本語を話してるんだ?」
「ニホンゴって何ですかぁ?」
「だ・か・ら、俺達の話す言葉!おちょくってんのか、お前」
「あ、そうかぁ。お二人には分からないのですねぇ。
では私が通訳しますから、あそこで『トランスレーター』を買いましょう」
「トランスレーター?」
「はい、これの事ですぅ」
キキョウは得意げに、小さな腕をすっとこちらに差し出す。
そこには紅い螺旋模様をした腕輪があった。
「なるほど、つまりこの腕輪を着ければ相手の言葉が分かるという訳か」
葵は珍しげに、じろじろとその腕輪を見ている。
「その通りですぅ。これを着ければ、えーとぉ何でも頭の中で言葉が変換されてぇ〜、えーとぉ・・・」
どうやら自分でもどういう作りになっているのかちゃんと理解できていない様だ。
まあ普通は確かに、あまり興味がない分野は便利であればあまり深くは知ろうとしないものだ。
科学に携わっている自分にはその事がよく分かった。
「でもそんな小さな腕輪、俺達の小指にも入らないぞ」
キキョウは妖精で全てがミニサイズである。
こんな腕輪を指にでも入れたらかなり痛そうだ。
「大丈夫ですぅ、大きさはある程度変える事が出来ますからぁ」
「へえ、なかなか特殊じゃないか」
科学者としての知的探求心を多いに刺激してくれるアイテムだ。
「・・・・ばらして調べようとするなよ、京介」
「は!?ま、まさか、はっはっは・・・・」
内心の動揺を隠して、俺は少し高らかに笑った。
ところが、どうやらその笑い声が少し大きかったらしい。
「フェイト・・・?」
それまで親父と話していた鎧姿の人間がこちらを向く。
「女?!」
鎧姿だったので男かと思っていたが女性だった。
その女性は意志の強さを宿したその瞳を、俺達に、いや・・・・俺に鋭い眼光をむけていた。
<第一章 始まりの大地 その4に続く>
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