kanon 「桜咲く季節に 第十九話」




--------------------------------------------------------------------------------

『・・・・その場所で間違いないんだな・・・・?』

俺は今の電話の相手−栞−にもう一度確認をいれる。

『はい、間違いないと思います。
お姉ちゃんと二人で通りかかった人に尋ねたのですが、
見かけた人の話と倉田先輩の特徴が一致しています・・・・』

・・・・・そうか・・・・・・・これで分かった・・・・・

俺は栞から場所がどこかを聞いて、佐祐理さんの心の傷の深さが

どれほどなのか、そしてその想いが少し分かったような気がした。

『助かった。栞、ありがとうな』

『いえ、お役に立てたのならそれで嬉しいです。
それに実はほとんどお姉ちゃんが熱心に行動してたんですよ。
私は情けないですが、ついて行っただけですから」

そうか・・・・・香里がな・・・・・

友人の暖かい気持ちが、俺にはすごく嬉しかった。

『じゃあちゃんと香里にもお礼をしないとな。
栞、後は俺は佐祐理さんに会いに行ってくる。
それで栞と香里には悪いけど、一旦名雪の家に戻ってきてくれないか?
いろいろと話したい事もあるからな』

『分かりました、ではそちらに伺いますね。
あ、それとお姉ちゃんから伝言があるそうです』

『伝言?』

俺は受話器を握りなおして、栞の次の言葉を待った。

『はい、え・・・・・・・
私達がここまで頑張ったんだから、しっかり倉田先輩の力になりなさいよ!
・・・・・だ、そうです』

栞はわざわざ香里の声色を真似してまで、伝言を伝えてきた。

それにしても、直接俺に言わないところが香里らしい。

『あー!今、祐一さん、笑いましたね?』

『いや、栞の声が香里にあんまり似ていたのがおかしくてな・・・・』

『うう・・・・そんなことを言う人は嫌いです!』

これ以上栞をからかうと、傍にいる香里が後で報復されそうなので、

俺はこの辺で止める事にした。

『じゃあ栞、そろそろ俺、行くわ・・・・・』

『まって下さい!私も祐一さんに一つ言いたい事があります』

『・・・・・何だ?』

俺は静かに栞に聞き返した。

『・・・・・倉田先輩に何があったのかは事情も分かりませんし、
私も無理に知りたいとは思いません・・・・・』

『・・・・・・・栞・・・・・・・』

『でも、私はこう思うんですよ。
人はみな、生きて行く上で大なり小なり心に傷は負います。
環境、人間関係、その他で・・・・・
でもその傷は本人でないと治せないものです。
他人がどうこう言っても、結局はその人が治そうとしない限り、
そして変えようとしない限り、いつまでもそのままだと思います』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

かつては一度生死の境すらさまよった少女・・・・・

その栞の言葉には、とても重い、そして厳かな気持ちがこもっていた。

『だから・・・・だから・・・・うまく言えませんが、
他人ができる事は、その人の背中をそっと押してあげる事だと思います。
何でもいいんです・・・・・・その人を本当に助けたいと思うのであれば、
優しさの押しつけではなく、「真心」を伝える事が大切なんです。
祐一さんは、私に生きようとする気持ちをくださいました。
何気ない言葉でも、きっとその人を勇気づけられる事もあります。
だから、祐一さんは祐一さんなりに力になってあげて下さい!
それができるのは・・・・・祐一さんだけですから・・・』

『そうか・・・・・そうだよな・・・・』

そうだ・・・・・他人の人生をどうこうしようなんて傲慢な考えだ。

俺は俺なりに・・・・できることをする。

後悔しないために・・・・・ここまでしてくれた仲間のためにも・・・

『・・・・なんて、なかなかかっこいい台詞ですね、今の?』

『まあ、二流ドラマの脇役の台詞だな』

『ひどいです!精一杯頑張ったの言ったのに・・・・ぐす』

『嘘泣きはやめろ』

『・・・・やっぱり分かりましたか?』

こうした栞との会話が、俺の弱った心に暖かい力がこもるような気がした。

『当たり前だろ。
栞・・・・俺はできる限りの事をする・・・・・』

それは俺だけではない。

名雪や北川、そして天野達、香里や栞。

そして今でも、帰りを待っている舞。

みんなは今、自分ができる事を背一杯やってくれている。

だから、俺も今こそやるべき事をするまでだ。

『祐一さん・・・・・頑張って下さい』

『おう!それじゃあまた後でな!』





コト!





俺は受話器を置いて、そっと聞き耳を立てている名雪のほうへ向く。

「祐一、今の電話、栞ちゃんから?」

「ああ、佐祐理さんの居場所が分かった。今から行ってくる!」

俺はそのままの足で玄関に向かった。

「あ、祐一さん、ちょっと・・・・・」

「秋子さん?」

二階から俺のコートを持って、秋子さんが降りてくる。

「外はまだ寒いですから、これを着て行ったほうがいいですよ」

「・・・・すいません・・・・・」

俺は秋子さんから受け取ったコートを羽織る。

「しっかり頑張ってね」

秋子さんは何となく事情が分かっているのだろうか?

その笑顔からは読み取れなかったが、励ましてくれている事は分かった。

「俺は自分でできることをやるつもりです」

「・・・・それでいいんですよ」

秋子さんは大人の笑みでそっと頷いた。

ありがとう、秋子さん・・・・・・・・

「祐一、もう場所は分かったの?」

名雪はひょっこり秋子さんの横から顔を出す。

「ああ、『あそこ』だろ・・・?」

俺は場所の名前を言うと、名雪はこっくり頷いた。

「あそこがこの町じゃ一番桜が奇麗だよ。
それとね、私そこで思い出した事があるんだけど・・・・」

「思い出した事?」

そして名雪の口から出た言葉は、俺を驚愕させるに値する内容だった・・・・















たったったった・・・・・・





・・・・・ただ一直線に・・・・・

俺は「その場所」に向かって走りつづける。

いくら春のはじめでも、夜はさすがに寒い。

秋子さんの判断は正しかった。
















佐祐理さん・・・・・・・・・・・・















・・・・・・はぇ〜、舞のお友達ですか?・・・・・・・・















・・・・・・それははじめての出会い・・・・・・・・・・・















・・・・・・『佐祐理を助けてあげて』・・・・・・・・・・















・・・・・・舞の言葉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















・・・・・・はい、佐祐理が作ったんですけど・・・・・・・















・・・・・・屋上前の踊り場での始めての弁当・・・・・・・















・・・・・・『お前は倉田先輩を助ける事を考えろ』・・・・















・・・・・・北川の言葉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















・・・・・それなら大丈夫です。佐祐理は祐一さんの事大好きですから・・・















・・・・・ダンスパーティー前の佐祐理さんの言葉・・・・・・・・















・・・・・『それに倉田先輩の事も・・・・・力になりたいしね』・・・・















・・・・・名雪の言葉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















・・・・・三人でいい思い出を作りましょうね!・・・・・・・・















・・・・・イベント前にすごく楽しそうな笑顔の佐祐理さん・・・・・















・・・・・『う、うん!真琴に任せてよ!』・・・・・・・・・・・・















・・・・・真琴の言葉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















・・・・・ふぇ、佐祐理邪魔かな?・・・・・・・・・・・・・・・















・・・・・秘密の特訓を見つかった時の言葉・・・・・・・・・・















・・・・・『先輩は「花見」という言葉を聞いた途端に、どこか変だったそうですね』・・・















・・・・・天野の言葉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















・・・・・はい、きっと舞も喜んでくれますよ!・・・・・・・・・















・・・・・誕生日を前に嬉しそうな佐祐理さん・・・・・・・・・・















・・・・・『私達がここまで頑張ったんだから、しっかり倉田先輩の力になりなさいよ!』・・・















・・・・・香里の言葉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















・・・・・もうそろそろ卒業ですね・・・・・・・・・・・・・・・















・・・・・舞と佐祐理さん、三人で歩いた通学路の会話・・・・・・・・・・・















・・・・・『だから、祐一さんは祐一さんなりに力になってあげて下さい!』・・・















・・・・・栞の言葉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















・・・・・ごめんなさい、佐祐理は遠慮させて下さい・・・・・・・・・















佐祐理さん・・・・・・忘れたら駄目だぜ・・・・・・・















あなたの事を心から心配する人がいるって事を・・・・・















そして・・・・・今、全てが収束する・・・・・・・















<第二十話に続く>

--------------------------------------------------------------------------------






戻る