天国からのささやき
能力名:無機物潜行――ディープダイバー
無機物に潜行して、自由自在に通り抜ける事を可能とする能力。
無機物の内部を泳ぐように移動する事で、地下や建造物の内部さえも移動可能とする。
応用性として他人や物体に接触していれば共に潜らせる事が出来て、二人程度であれば一緒に戻る事が出来る。
「えー、今年もやるの!?」
「当たり前だろう。神を馬鹿馬鹿しくも信じている良い子ちゃん達が、俺達を待っているのだぞ」
「・・・・・・敬っているようで、実は馬鹿にしているよね。仮にも、シスターの前で」
クリスマスの日。ミッドチルダの夜は静謐に満たされていて、騒ぎ立てる俺達が野暮に思えてしまう。
日本のような季節感はなく、生憎と白い雪は望めないが、寒空の下で白い息を吐いている男女。
赤いサンタクロースの格好をした俺と、セインのカップルである。
「ねえ、ローゼン。クリスマスは恋人達の夜なんだよ? 今年はさ、二人だけの夜を過ごそう」
「シャンパンでゲロ酔いするお前と過ごす夜は、最悪だった」
「うう、いざベットインと思うと、緊張しちゃって――」
子供でも酔わない高級シャンパンを一気飲みし、アルコールと雰囲気に酔いまくって、この女は吐きやがりました。
禁欲な修道女の分際でクリスマスにどういう欲望を高鳴らせているのか、愛に火照って毎年失敗しているのである。
俺も比較的寛容な方だが、いい加減怒ってもいいと思う。
「それにこの仕事は、カリムより正式に承った任務なのだぞ。色恋沙汰に走るなんて以てのほかだ」
「・・・・・・騎士カリム、ローゼンの事になると妙に寛容になるよね。怪しいなー」
「ウェンディみたいな事を言うな!」
「だって、金髪の巨乳美人なのだよ!? それに比べて、アタシの胸は――」
「そう悲観するな。貧乳が好みの奴だっている」
「ローゼンはどうなの?」
「この十年で思い知ったのは、人間というのは中身が大事なのだということだ」
「当たり前のセリフなのに、すごく重く聞こえるよ!?」
聖王教会系の学校のあるこの街は若者が多いが、日本とは違って夜遊びする子供は少ない。良い教育を受けている証拠だ。
その分夜中に騒いでいると苦情が出るものだが、俺達の顔を見た瞬間苦笑いを浮かべるのみ。
顔が知れ渡っているというよりも、今日この日この姿で居る意味が街に浸透しているという事だ。
「いいじゃないか。恋人同士一緒にいるだけでも、デートだろう」
「それ、女が男に言うセリフ」
「嬉しくないのか?」
「・・・・・・そりゃ、嬉しいけどさ・・・・・・」
セインは、普通の人間ではない。戦闘機人と呼ばれる、女性の身体に機械を融合させた存在である。
基礎フレームと呼ばれる駆動骨格や、機能が強化された知覚器官を持っており、機械を生体部品に組み込む事で強化されている。
彼女達が人間であるかどうか、論議こそあれど認識は各個人で異なる。機動六課の連中と俺とでさえも、認識は異なる。
少なくとも、俺は普通の人間だとは思っていない。機械が組み込まれた女を、人間だと主張するのは無理だ。
とはいえ、別に偏見も持っていない。人間だって、同じ存在なんていない。大勢の他人と知り合ったが、誰一人同じ奴はいなかった。
多種多様であるからこそ、世界は面白い。セインという存在が特別となったのは、彼女自身の在り方だった。
こうして些細なやり取りで照れを見せる、素直な感情もまた好ましい。
「一番不満なのはローゼンがサンタクロースで――アタシが、トナカイだということ!」
「可愛いぞ」
「動物的な可愛さだよね、その評価!?」
赤いサンタクロース姿の俺と、真っ赤なお鼻のトナカイさん姿のセイン。似合っているのは、ある種の才能だと思う。
「手筈は分かっているだろう。このリストに記載された家を一軒一軒、俺達で廻っていく」
「アタシの能力で家に忍び込んで、寝静まった子供達の枕元にプレゼントを置くんだよね。
だからって、女の子にトナカイはあんまりだよ!」
「・・・・・・サンタクロースは爺だけどいいのか?」
「世の中には、ビキニサンタという衣装があってだね――」
「子供達を悩殺してどうする!?」
えへへ、とセインは気恥ずかしげに笑う。実行する気満々らしい。頭の中身はトナカイレベルの分際で。
何故日本のセクシーコスチュームをこいつが知っているのか、いちいち問わない。こいつの好奇心の豊かさは、人間顔負けなのだ。
俺を悩殺する手段なら四十八手あるのだと、公言してはばからない。こんな奴を修道女に育てるシャッハの苦労を思うと、頭が下がる。
そのくせ何故か信者からの人望は厚く、教会の子供達からも人気がある。流石俺の女と自慢するよりも、その不思議さに首を傾げてしまう。
「馬鹿言ってないで、行くぞ。夜が明ける」
「アタシね、胸は自信ないけど、生足ならちょっとしたもので――寒っ!?」
「毛もないくせに足を出そうとするな、トナカイ」
固有武装:ペリスコープ・アイ
セインの両手人差し指の先についているカメラで、人間の目と変わらない機能を持っている。
この武装から信号発生を行う事で、電子錠や魔力錠の開錠を可能とする。
「子供達の寝顔ってさ、天使だよね・・・・・・何かもう、可愛いなんて言葉じゃ言い尽くせないよ」
「嫌がってたくせに、いつの間にかノリノリだし」
クリスマスにサンタクロース、そしてプレゼント。教会の施しとまではいかないが、慣習を上手く生かして文化を浸透させた。
此処は、ベルカ自治領。法の統治がされているとはいえ、貧富の差までは無くならない。だからこそ、子供達にはいい夢を見て欲しい。
サンタクロースは異世界にも居ないが、その存在は子を持つ大人達に望まれた。
だからこそ俺達は、教会の援助を受けて毎年活動を行なっている。非公式ではあるが。
「それにしてもさ、やっぱり子供の事を一番よく分かっているのは親なんだね。
子供が今一番欲しいものなんて神様にだって分からないよ、多分」
「シスターがそんな事を言っていいのか」
「今日はサンタさんだからいいの」
ジェイル・スカリエッティに生み出された存在である、セイン。彼女は今、信仰を通じて世界を学んでいる。
聖王を崇める宗教でありながら、聖王教会は絶対的な救いをもたらさない。人の心を持って、敬虔なる祈りを捧げているのだ。
セインは親離れしたばかりの子供で神様を絶対視せず、それでいて奇跡を諦めていない。
修行の身であるからこそ、シャッハも彼女を洗脳したりはしない。彼女の意思を尊びて、信仰を共にしている。
「じゃあ、お前は何を信じているんだよ」
「決まってるじゃない――ローゼンだよ」
頬を染めて、満面の笑みを浮かべる。神様よりも信頼に足る存在、彼女の想いはどこまでも無垢であった。
初心な恋は雪のように純白であるものらしい。大人になってしまった俺にはきっと、持てない気持ちなのだろう。
彼女を選んだのは、純真なるこの想いに憧れたからかもしれない。
「生憎だが、俺は他人を救うつもりはないぞ」
「サンタクロースが、そんな事を言っちゃダーメ。子供達のヒーローなんだぞ」
「お前はサンタを勘違いしているぞ」
優れた機能を持つ瞳は、人の心まで見透かしてしまうのか。
俺の照れを見透かしてか、セインは茶化して抱きついた。
「ほーら、ローゼン。次の家、行くよ! 子供達が、アタシらを待っている!」
「・・・・・・このクソ寒い夜に元気だな、お前は」
「寒くなったらローゼンに抱きつくもんねー、うしし」
「お前は恋人をカイロ扱いする気か」
「アタシの胸の中で、温めてあげる」
「トナカイに言われても困るんですけど」
「ふーんだ、来年はビキニサンタで攻めるもん」
「結局、来年もやるんじゃねえか!」
子供達に夢を、恋人達に愛を、人に想いを。
理不尽な世界に祝福を与えられるのは、幸福を知る存在。誰よりも幸せな少女は、幸福を独り占めせずに振りまく。
セインは喜びを噛み締めて、聖なる夜に元気な声を上げた。
戦闘機人:彼女達も、恋をする。
<終>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.