To a you side 外伝H みにくいアヒル(中編)
※この物語はリクエストによる架空未来の一つです。
To a you side本編の可能性の一つとしてお楽しみ下さい。
――気ままな一人旅時代は時間に左右されず、自由だった。
自分の面倒さえ見られれば、社会に縛られず奔放に過ごせていた。
悩み一つ無く、誰にも構わずに生きてきた少年時代――
広々とした青い空の向こう側に、将来の強い自分を夢見て歩み続けてきた。
愚かしいほど無邪気だったあの頃――自分が不自由な未来を選ぶ事など、知る由もなかった。
少年時代の崇高な思想は露となって消えて、多くの大人はただ生きる為に社会に奉仕する。
時間に縛られた毎日、長期拘束当たり前の激務の数々。
疲労困憊でヘトヘトになっても、見返りは少ない狂った社会生活――
俺もまた、広大な世界に飲まれて生きている。
夢見ていた気高い強さは何一つ宿らず、未来の剣豪は腐った果実となって爛れ落ちた。
自由な空に描いていた理想像は、世間の風に押し流されて消えていった。
自分は何の為に生きているのだろう――夢に疲れた社会人の多くが持つ悩み。
大人への憧れなんて、大人になった瞬間消えてしまう。
自分には才能が無いと知って、自分より優れた人間が数多くいると知って。
世界は――自分を置いて広がり続けているのだと、知って。
――今日もまた、当たり前の一日が始まる。
ミッドチルダの首都クラナガンに建てられた新居。
次元世界の中心とも言える巨大都市に、新居を構えるのはなかなか大変だ。
日本の世知辛い住宅事情と変わらず、何処の世界でも一家の主は悲惨に頭を抱えている。
マイホームはお父さん世代の夢の城――
十代で一国一城の主となったのは、残念ながら俺ではない。
「ごめんな、待たせて。今日はわたしの我侭やのに」
御立派な我が家の玄関から出てきた女性は、申し訳なさそうに手を合わせる。
文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、十年過ぎても可愛らしい仕草に溜息一つで許してやった。
――制服を着こなすキャリアウーマン、八神はやて。
切り揃えられた髪を清楚に揺らして、凛々しい顔を見せている。
見慣れた制服姿は皺一つなく仕上がっていて、部隊長としての貫禄があった。
二人だけの自宅を購入したのも彼女だ。
郊外の一等地――束の間の休日や長期休暇に帰る、俺達の家。
上級キャリア試験を簡単にクリアーして、エリートコースを歩み続ける彼女に当然の収入。
普通の会社員では一生働いても購入出来ない家に、俺は多少の引け目を感じてしまう。
引っ越したばかりで住み慣れていない事もあるとは思うけど。
二人の家をぼんやりと眺める俺に、はやては何かに気付いたように声を上げる。
「あ、良介。ネクタイ曲がってるよ」
「おっ……悪いな」
「好きな人にはカッコよくいてほしいからね」
俺の首元に手を伸ばして、はやては口元を緩めながら整えてくれた。
……こういう当たり前の光景も、はやてには憧れだったらしい。
手がかかると口では言いつつも、彼女はこうした小さなやり取りに幸せを噛み締めているようだ。
俺も俺で非常に照れ臭いが、気分は悪くない。
「はい、出来た。――うん、男前やよ」
「毎日見てる顔じゃねえか」
「良介は、わたしの顔に飽きてきた……?」
俺を真下から覗き込む顔に、ドキッとする。
小悪魔な微笑みを浮かべて、俺の答えを楽しげに待っているはやては嫌になるほど可愛い。
……くっそー、マジで勝てねえ。
素直に返事をするのも癪なので、視線を逸らして言ってやった。
「……飽きたら別れるさ」
「そやったら、飽きられんようにもっと女を磨かなあかんね……
良介が将来ビックリするほど、ええ女になるから」
そっと寄り添うはやての柔らかな身体を、俺は軽く抱き締める。
今でも信じられないが、これほど佳い女が俺の恋人なのだ。
外見も内面も磨き続けて、彼女は一層美しく気高く成長している。
世界の為に――俺の為に。
無我夢中になりそうなはやての甘い匂いを感じ取りながら、彼女を静かに離した。
はやても満足したのか、若干顔を赤くしながらも静かに微笑んでいる。
直視すると吸い込まれてしまうので、俺はガレージから愛車を出す。
――敢えてもう一度言おう、愛車だ。
どこぞの美人執務官殿も近頃黒のスポーツカーを乗り回しているが、俺の愛車も負けてはいない。
ふっ、当然俺の収入で買った相棒だぜ。
自分の命を預ける車を、恋人の金銭で賄う訳にはいかないぜ。
汗水流して稼いだ金で手に入れるからこそ価値があるのさ。
俺の可愛い恋人も、コイツをいたくお気に入りで――
「久しぶりやね、良介の自転車に乗せてもらうのも」
――な、何だよ……何か言いたい事でもあるのか!?
自転車だって立派な乗り物だぞ!
このシルバーフレームに男の美学があるんだよ。
……主張すればするほど虚しくなってくるので、俺は黙って二人乗り用のステップを愛車に装着する。
我が祖国では平気でパクられる難儀な代物だが、機動六課隊舎からパクる馬鹿はいない。
出勤の為颯爽と跨ると、はやても慣れた動作で後ろに飛び乗って俺の肩に手を置く。
――毎度の事だが、一応聞いてみる。
「誰かに迎えに来て貰った方がいいじゃねえか?
部隊長が自転車出勤ってカッコつかないだろ」
機動六課の隊舎まで結構な距離がある。
俺の脚力や体力なら二人乗りでも余裕だが、一部隊を預かる長が下っ端の後ろってのは宜しくない気がする。
フェイトに頼めば、快く承諾して迎えに来てくれるだろう。
俺の進言を聞いたはやては、肩に捕まったまま珍しく不安そうな声を上げる。
「りょ、良介。わたし、もしかして――重い?」
「……は?」
藪から棒に何を言い出すんだ、この御嬢さんは。
思わず質問に質問で返してしまうと、はやては慌て始める。
「さ、最近現場にも出てへんかったし……運動不足やったかな。
食事とかには気をつけてたんやけど、どうしよう――
最近下着のサイズも変えて喜んでたんやけど、ウェストも変わってたんかな。
な、なあ、良介……昨日の夜、わたしの身体見て――はきゃっ!?」
「一度転がりだしたら止まらないのか、お前は!」
ダイヤモンドより硬い俺様の後頭部クラッシュを食らって、夜天の王様は悲鳴を上げる。
それでも自転車から落ちないバランス感覚は流石である。
額でも押さえているのか、はやては涙声を上げる。
「ひどいー、乙女の深刻な悩みをこないに扱うなんて……」
「どういう心配をしてるんだよ、この馬鹿。
ガリガリ車椅子の頃とは違って、今のお前のプロポーションを羨む女共は腐るほどいるんだぞ」
「世間の人は別にいいけど……良介はどう思ってるのかなって、心配で」
うわ、もうこいつ――世間のカッコイイ男なんぞ眼中にないんだな。
どう思われようが、見向きもしないのだろう。
俺も俺ではやて以外の奴にどう思われようとかまわんが――
恥ずかしくて、ポリポリ頭を掻く。
「俺が気にしているのは、その世間様だよ。さっきも言っただろ?
俺自身はお前一人乗せたくらい何とも無いぞ。
自転車への負担はタンポポの綿毛程度だ」
「うふふ、それはちょっと言い過ぎやよ。
――わたしもさっき言うたけど、全然気にしてないよ。
ええやんか、わたしらのペースで行けば。
遅刻もしてへんし、良介との二人乗りは気持ちいいから好き」
「――そっか」
余計な世話だったな。
――俺も、この後ろの心地良い重みがないと物足りないからな。
肩に乗せられた手は、制服越しで温かさが伝わってくる気がした。
俺は機嫌良くペダルを踏む。
「そんならとっとと行くぜ、部隊長。しっかり掴まってろよ」
「落ちんように、ぎゅっと抱き締めた方がええ?」
「振り落とす」
「うー、その辺の意地悪は昔から変わらへんな」
お互い軽口を叩きながら、二人っきりの自転車通勤を楽しむ。
爽快な風が頬を撫でて気持ち良かった。
『Lost Property Riot Force 6』――古代遺物管理部機動六課。
ミッドチルダ中央区画湾岸地区に本部隊舎を構えた、総部隊長八神はやての新鋭部隊である。
十九歳の小娘が部隊を設立する事は極めて異例だが、彼女の強力な人脈と尋常ならざる努力の結果の賜物である。
過保護な守護騎士達は言うに及ばず、小生意気な妹と美人執務官殿が隊長・服隊長として協力。
その上一体どういう人材登用をしたのか、後方支援隊に至るまで未来のエリート陣が軒並み抜擢されている。
当然最前線を務めるフォワード部隊も強力、新人採用された者達も才能豊かな若者達ばかりだ。
一般的な部隊と比較しても充実した戦力を保有しており、時空管理局の本局や地上部隊本部からも注目されている。
戦力の偏りは組織全体のバランスに影響を及ぼす危険性はあるが、その不安材料は隊長及び副隊長陣の能力限定で解消されている。
この能力限定に関しては、俺個人に何の関係もないので省略。
限定するほどの戦力も無いしね、あっはっは。
――ひたすら寒いので、続き。
はやてが部隊を設立した目的の一つに、巨大組織特有の足の鈍さがある。
いざ緊急自他が発生しても許可だの出動だのと行動が遅れ、結果的に後手後手に回っている状況を懸念。
――正直俺から言わせれば、次元世界全体を一つの組織が管理しようと考える事自体に無理があると思うが。
ともあれ組織改革を行うべく、はやてが前向きに一歩進んだ結果であった。
四年の歳月をかけているとは言え、若い身空で夢を叶えたアイツは本当に凄い。
確かに立身出世したはやてを良からぬ感情を持つ人間もいるが、嫉妬や妬みの類――努力もしない凡人共の、瑣末な感情である。
事実身内を除いても、彼女を支援する有力者達は沢山いる。
才能だけの人間に部隊運営を任せるほど、時空管理局は甘い組織ではない。
結局、はやてを遠く見上げて囀る事しか出来ない哀れな俗物である。
――俺を、含めて。
時空管理局機動六課所属、宮本良介。
魔導師ランクはF――ランク外より酷いと揶揄される、最低クラス。
組織の階級は四等陸士。
法の守護者、平等なる絶対正義を掲げる組織が生み出した――孤独の称号。
訓練校の生徒や候補生・研修生より低い階級である。
俺より下は誰一人存在せず、本年訓練校に入校した生徒でも俺より偉いという訳だ。
度重なる命令違反や規律の無視、上官への反抗等など――大よそ罰則事項に抵触する行為全てが、俺の行動に当て嵌まった。
そんな俺は魔導師ランク及び階級は最低、才能の欠片も無い男。
俺が上司でも当然のようにクビの無能問題児だが――喜ぶべきか、悲しむべきか、俺にそなわる凶運が救ってくれた。
強運ではない、凶運である。
分かり易く具体例を挙げると、御覧の通りだ――
病院の中庭を歩けばジュエルシードを発見、家出をすればロストロギアの主と縁結び。
夜中歩けば黒衣の魔導師が襲撃、家探しをすれば幽霊少女と対面。
新世界で行けば新しい自分を見つけられるかと思えば、運命は更に加速する――悪い方向へ。
トイレを借りに銀行へ寄れば強盗襲撃、迷子の少女を保護すれば変態襲撃。
本部へ出向すればテロ発生、デバイス工場へ行けば暴走発生。
船に乗ればシージャック、飛行機に乗ればハイジャック。
町を歩けば悲鳴&事件発生、空港で待ち合わせすれば美人姉妹と大爆発――
地上本部は泣きながら、平和な地上を出歩かないでくれと懇願する始末。
海は沈没を恐れて全艦立ち入り禁止、空も当然単独飛行禁止。
他者の願いを叶える法術は希少中の希少能力、使用者は世界で唯一人だが魔力不足で使用不能。
生まれながらに封印されているのと同じ――と、時空管理局は無碍にあしらった。
時空管理局歴史上最弱にして、最悪の魔導師。
実力が無いので一般仕官からは嘲笑、連続事件発生者に上層部は拒絶の対象。
テロを始めとする凶悪事件解決の実績――たまたま現場にいただけ――はあるのでクビにも出来ない。
異動を繰り返して、最終的に落ち着いた先は……御分かりであろう?
はやては喜んで引き取ってくれたが、複雑である。
当然階級も無ければ実力も無い、才能も資格も何も無い俺に重要な任務なんぞ与えるはずは無い。
六課が現在携わっている『レリック事件』――俺は蚊帳の外だ。
はやては部隊長、贔屓は出来ない。
隊長や副隊長だって同じ、公私混同する上司を部下が信頼する筈が無い。
繰り返すが、俺は時空管理局では最低の階級しかない人間だ。
六課では一番下っ端、年齢なんぞ関係ない――拾われただけでありがたく思え。
そんな俺に相応しい役職は一つしかない。
雑用係である。
「本日、宮本良介四等陸士の勤務評価役を務めるミヤ空曹長です。宜しく御願いします!」
「……やる気満々だな、お前」
「あー、お前って言いましたね!? 減点です、減点!
ミヤは空曹長、リョウスケは四等陸士なんですよ! 言い直して下さいです」
「やる気満々ですね、チビッ娘曹長」
「は、はやてちゃん〜!」
『まあまあ、表向きの理由は勤務評価やけど、わたし個人の我侭なだけやから。
ミヤも肩の力を抜いて見といてくれたらええよ。
リョウスケと一緒の仕事も久しぶりで嬉しいやろ、ミヤも』
「え、そうなの……?」
「ば、馬鹿言わないで下さいです! リョウスケなんて全然気にしてないです。
ミヤははやてちゃんの補佐で忙しいので、貴方の面倒なんて見れません。
リョウスケに何かあればミヤにも伝わりますから、心配もしてませんです」
「それって普通、気にしてるって言うんじゃねえの?
鬱陶しいなら、切るか」
「だ、駄目です!? 貴方の行動が分からなくなるじゃないですか!」
「思いっきり見てるじゃねえか!!」
――空色の髪にリボン、陸士制服を着こなした神秘の妖精。
三十センチの可愛らしいチビ空曹長は、昔と同じ過保護であった。
対して今の俺は、更衣室で着替えた古臭い作業着。
隊舎に到着した後着替えて、隊舎の正面口にチビを連れて出ている。
他の部隊員が出勤する前に、ひろ〜い正面玄関を掃き掃除である。
ミッドチルダ製最新清掃装備――なんて便利なものは無く、普通の箒だ。
「……」
部隊員が踏み歩く道を――フェイトやはやて達が乗る車の跡を、綺麗に清掃していく――
「あ、あの……ミヤも手伝います!」
「俺の仕事だからいい。
……こう言う事しか、出来ないしな」
顔を向けずに言った俺の言葉に、ミヤは悲しそうな顔をして俯く。
同じ視点で見ていたはやては、反射的に叫んだ。
『――良介!』
「お前より十は下の階級だぞ、俺は。ピシっとしてろよ、部隊長」
二十代後半の成人男性が、汚い作業着を着て掃き掃除。
左遷され続けた男の末路。
清掃員がやるべき仕事でも――細々とした作業をこなさなければ、雑用係は務まらない。
俺の過去や目指していた目標を知っているはやてやミヤは、何を思って今語りかけようとしたのか――
同情や憐憫は――嫌になるほど、俺を孤独にさせる。
望んでいた事である筈なのに、今の俺の胸は痛かった。
俺の仕事を見たいと言ったのは、はやてだ。
俺は何も言わないし、現実を見せるしか出来ない。
「それに――」
――今の俺の現実を、な。
「仕事を手伝う奴は、間に合っている」
「ふぇ……?」
通信映像のはやてや、俺の肩に乗るミヤはきょとんとした顔。
俺は笑って、顎をしゃくる。
朝靄の中――危なっかしい足取りで駆けて来る、一人の少女を。
「おはようございます、良介さん。
今日も御手伝いに来まし――ミヤさんに八神部隊長!?
し、失礼しました! お、おはようございますであります!」
「落ち着け、頭の回路が狂ってるぞ」
清楚な蕾のような女の子が、訓練用の服装を着て必死な顔で敬礼している。
綺麗な桜色の髪の愛らしい少女――キャロ・ル・ルシエ三等陸士。
幼いが優れた召還術者で、俺と同じく小さな相棒を連れて御出勤だった。
「チビドラも朝から元気そうだな、おい。
頑張って手伝ってくれたら、後で美味しい御菓子をやるぞ」
「よかったね、フリード。一緒に頑張ろう」
「キュル〜」
御機嫌な顔で鳴いているのは、なんと世界の神秘ドラゴン様である。
正確に言えば竜で、ボストンバックに入るほどの大きさの白竜だ。
キャロが使役する相棒で、共に前線で戦っている。
人語も理解する賢い奴で、俺にさえ懐いてくれる可愛い奴だ。
六課の連中には概ね受け入れられているのに――俺の家来の久遠とは、非常に仲が悪い。
会う度にいつも睨み合っていて、久遠は対抗意識なのかその日は俺にしがみ付いて離れない。
難儀なペット達である。
清掃道具をキャロやフリードに取りに行かせた途端、ミヤが話しかけてくる。
「リョウスケ……まさか、毎朝キャロが手伝ってくれているんですか?」
「正確に言えば、新人達かな。
ほら、鬼教官の訓練メニューって日々の練習成果で変わってくるだろ?
連中、空いた時間に手伝ってくれるんだ。
大体あの小鳥やカミナリ小僧が多いかな……朝っぱらから元気なスバルも、たまに。
そうそう、気まぐれにティアナも来るんだぜ?
あいつ、ほんっとに嫌そうな顔で――時間が空いたので、だってよ」
「……小鳥ってリョウスケ、まだキャロをその呼び方なんですねぇ」
呆れた顔をしながらも、ミヤはどこか嬉しそうである。
キャロを見送ったはやても同様に、今までの陰鬱な感じが嘘のように晴れやかだった。
『皆、本当に良い子やね……良介も何時の間にか、慕われて』
「アホか、他に目当てはあるの。
俺様独占販売――桃子印の御菓子を求めて、群がって来るんだよ。
やっぱがきんちょだよな、まだまだ」
『……報酬に釣られる子達って、ほんまに思ってるのかな?』
「はやてちゃん、油断してはいけませんよ!
本当に分かってないから、駄目男なんです」
外野がひそひそ話してるのを無視して、俺はうんうん頷く。
「スバルも御機嫌な顔をしてよ――手作りアイスクリームを美味そうに食べるんだ。
『先輩の事、誤解してました』ってニコニコしやがって。
たく、最初はなのはがどうだの突っかかってばっかりだったのに」
「うわ、本当に報酬に釣られて餌付けされてますぅ……」
空中で頭を抱える妖精さん。
「ティアナなんて、二言目には『御菓子の為ですから』って公言しているぜ」
『――嘘に決まってるやん……そんなん』
ゲンナリした顔をして、映像の向こう側で突っ伏す恋人さん。
正直新人が手伝ってくれていて、非情に助かっている。
年下の上司が自分の仕事を手伝いに来る――昔の俺ならば、馬鹿にされていると思うだろう。
実は、本当に馬鹿にしているのかもしれない。
でも、俺は別に気にしない。
陰口叩く連中よりは数倍マシである、素直に好意を受け入れるべきだ。
外野が静かになったところで近況報告を止めて、掃除の続きに取り掛かる。
担当となっている隊舎前は結構広く、作業にも一苦労だ。
「あれ……?
ミヤ、はやてちゃんもどうしたの?
御仕事している宮本さんはともかく、二人まで揃って……」
早起きが大の得意である分隊隊長が、朝から優しい笑みを浮かべて出勤する。
高町なのは一等空尉、時空管理局のエース・オブ・エース。
戦技教導官の役職に就く、雲の上の存在――
おにーちゃんと懐いていた少女は面影も残さず消えて、今は立派な大人として社会に奉仕している。
ミヤやはやてと親しげに会話をしている間、俺は黙って掃除。
なのはは事情を聞いて楽しそうにクスクス笑って、俺を見る。
「聞きましたよ、兄さん。はやてちゃんに――」
「おはようございます、高町一等空尉」
箒をわざわざ置いて、俺は大仰に敬礼をする。
途端なのはの笑みが強張り、沈痛な表情で俯く。
何かを堪えるように唇を噛み締めて――
「み――宮本四等陸士、おはよう……ございます……」
「申し訳ありませんが、今仕事中です。
何か私に用事があるのでしたら、お聞きしますが?」
「……いえ、ごめんなさい。
仕事を……続けて、下さい……」
「ありがとうございます、失礼します」
箒を手に取って、俺は自分の仕事を続けた。
なのはが何か言いたそうにしているが、もう見ない。
仕事を続けろと、仰って下さったのだから――
玄関の階段への清掃に移ろうとすると、俺の眼前に小さな影が割り込む。
"リョウスケ……今の今まで我慢してました。でも、今度ばっかりは言わせて貰います!
昔の――昔のリョウスケは何処に行ったんですか!?
最近のリョウスケはおかしいです!"
"……別に普通だよ"
"何処がですか!?
なのはさんやフェイトさん、ヴィータちゃん達と距離を取ってます!
機動六課所属になって、なのはさん達が歓迎してくれた時も――リョウスケは敬礼しました。
敬語で、着任の挨拶をしました。
その時の皆さんのショックが、今の貴方に分かり――"
"ミヤ空曹長――それは上司としての、注意ですか?"
"――リョ、リョウス、ケ……?"
"私の態度に問題がありましたか? でしたら、謝ります。
申し訳ありませんでした。
以後改めたいと思いますので、御指摘頂けると嬉しいです。
時空管理局の局員として、問題のあった点を"
"あ……そ、それは……で、でも! 仲間の態度として――"
"八神部隊長"
ミヤの念話を遮って、俺は意見を求める。
機動六課部隊長・八神はやて二等陸佐に――
映像のはやては俺と視線を交えて、躊躇いがちに首を振る。
"上司・部下の関係やったら、別に問題は無いよ。叱責もせえへん"
"はやてちゃん!"
"ええよ、ミヤ。――リョウスケの気持ち、わたしには分かる。
本当に御免やけど、今はそっとしておいてやってくれる?
わたしは今日一日のリョウスケを見る――それが仕事や"
俺ははやてに感謝も何も言わず、背を向けて作業に戻る。
取り残されたなのはは俺に何か期待した視線を向けているが、肩を落として玄関を通っていった。
――これでいいんだ。
同じ組織で働く以上、分別ある立場として互いに接しなければいけない。
今の俺達には、分厚い壁が存在していた。
――いや、俺が一方的に作っていた。
血の繋がりが無くても兄妹以上に仲良くしていた関係は、もう消滅している。
フェイトとの友人関係も切った、守護騎士達とは会話も止めている。
なのはも、フェイトも、ヴィータも、シグナムも、シャマルも――
――俺の上官なんだから。
"はやてちゃん……でも、でも……ミヤは、ミヤは――
今の卑屈なリョウスケは、大嫌いです!!!"
<続く>
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小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
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