To a you side 外伝M 魔法少女と孤独の剣士
※この物語はリクエストによる架空未来の一つです。
To a you side本編の可能性の一つとしてお楽しみ下さい。
俺は自分の祖国を心から愛している。
我が国の風習は独特だが、他国の追随を許さぬ深き伝統がある。
大陸から切り離された小国ゆえの、特別な文化――
諸外国から寄せられる祖国の関心は様々で、形態こそ異なれど興味を寄せられている。
一国民の一人として俺も日本人の誇りを抱き、成熟された伝統に深い愛着を寄せている。
生涯懸けて極めんとする剣も、またその一つだろう。
こよなく愛する日本の文化だが――
――今日ばかりは、呪った。
「見て下さい、これは間違いなくおにーちゃんの字です!」
「……何でそんなもん取ってたんだ、お前……」
満面の笑顔で手の中の物を差し出すチビッ娘に、俺は頭を抱える。
――いや、もうチビとは呼べないか……
高町なのは、中学生。
子供には些か重過ぎる人生経験を経て、小さな蕾が花開きつつある。
短い手足は伸び、小柄だった身体も柔和なラインを描いていた。
服越しでもハッキリ分かる発育の良さは、間違いなく親譲りだろう。
その瞳に純粋さを損なう事は無く、親に似た優しい光を放っている。
成長期を迎えた少女は、あの頃と変わらない笑顔を浮かべていた。
――それが腹が立つ。
差し出された物を忌々しく掴んで、目の前で広げる。
『一日相手をしてやろう券』
――我が身を代償としたプレゼント。
誕生日等の特別な日、親しい人間への贈り物に困った時に使用する日本の伝統。
肩叩き券や御手伝い券等、子供から年寄りまで幅広く活用可能。
古来より家庭円満の手助けをして来た、日本の知恵――というのは、昔の話。
物品豊富な昨今この伝統は廃れつつあり、俺は憤慨していた。
そして今日――廃れた理由を、心から思い知った。
「お前ね……
何年も前に贈ったこんな紙切れ、ずっと大事に持ってたのか?」
年月を物語るように、紙質が黄ばんでいる。
油性ペンで適当に書いた字は、確実に存在感を薄れつつあった。
何時贈ったか、正確に覚えていない程の過去の話――
御祝いの品を探すのが面倒になり、適当に書いて渡した。
アリサやチビは心がこもっていないと憤慨した紙一枚を、なのはは大切にしていたらしい。
「はい! おにーちゃんがなのはにくれた、大切な贈り物ですから。
本当は使うのをずっと迷っていたのですが……
今日思い切って使う事にしちゃいました」
少し大人になった顔を照れ臭そうにして、なのはは小さく舌を出す。
頼むから永久封印して欲しかった。
思い出は心の中で輝かせてくれ。
「実はそれ、有効期限が――」
「期限はないので適当に使えって、おにーちゃんが言ってました」
……なのはを舐めてたな、過去の俺。
愚か者め、このガキのしぶとさを侮るとは。
数年前喧嘩別れした時も、ずっと家の外で待っていたチビッ娘だぞ。
舌打ちしつつも、突破口を探す。
「お前、今日仕事は?」
「お休みです。
たまには有給休暇を使って下さいと、担当の方から強く言われまして――」
仕事の鬼だからな、中学生の分際で。
学校と管理局の往復は恐ろしくハードな道程なのだが、なのはは積極的に毎日励んでいる。
自分の仕事に生き甲斐を感じているのだろう。
労働管理担当者にはいい迷惑だが。
「折角貰った休暇なら俺にかまわず、家族サービスでもしろ労働者。
巷の夜遊びする小娘共より、家に居ないぞお前」
「うう……心苦しいのですが、今日は皆留守でして――」
現在高町の家に居るのは、なのはと俺の二人っきり。
皆それぞれ所用で出かけており、今では巣立った家族も居る。
……年頃の娘を平気で大の男と一緒に置き去りにする親の神経を疑うぞ。
俺がここでなのはを襲ったらどうするんだ、全く。
「誰かと遊んで来いよ。アリサ――は、今居ないか」
「アリサちゃん、また海外旅行ですか?」
「さくらと海外へ行ったぞ。
有名な王立図書館があるんだとさ」
従順な幽霊メイドは、今俺の傍に居ない。
生きていれば人類の宝になっていた天才的頭脳を生かして、日々勉強に励んでいる。
さくらもアリサをいたく気に入っており、パスポート等の諸手配は全部彼女がやってくれたらしい。
海の向こうの親友を思い、なのはは優しく微笑む。
「おにーちゃんが出来ない面で支えるんだって、アリサちゃん頑張ってるんですよ」
……何か言い返してやりたかったが、俺は結局何も言えずだった。
臨時住み家で発見した夜の廃屋で出逢った少女に、俺はノエルの役割を求めて共に居る事を求めた。
そして、アリサは今でも俺の傍に居る。
悲しい別れを経験して見出した答えは間違えていなかった、今では胸を張ってそう言える。
「アリサが居ないなら、フェイトでも誘っ――そうだ。
お前、友達ならアイツを何とかしろ」
「? フェイトちゃんがどうかしましたか?」
「……アレだよ、アレ」
お茶の間のテーブルの上に置かれている、大量のパンフレットと書類。
いい加減対処に困ったので整理整頓中だった紙の束を、ウンザリした気分で指差す。
なのはは不思議そうに書類を手に取り、ペラペラ捲って――目を見開く。
慌ててバタバタと俺の元へ戻り、書類片手に叫ぶ。
「あの、あの! おにーちゃんは、もしかしてフェイトちゃんの――!?」
「あー、言いたい事は分かるから落ち着け。
――断り続けてるよ、ちゃんと」
時空管理局執務官、それが今のフェイトの役職だ。
幾多の平行世界を管理する管理局における、法の執行の権利を有した管理職。
15%以下の合格率の執務官試験を幼い年齢で合格を果たし、フェイトは前線で頑張っている。
着実なエリートコースを歩む少女が、事あるごとに俺に熱心に説得する。
――執務官補佐への道を。
若いが優秀なフェイトに求められる仕事は多く、彼女を支える人間が必要らしい。
その補佐官に是非と推薦を受けており、休日二人で会うと熱心に誘われるので食傷気味だ。
時空管理局の組織構成から職場見学申請書、果ては広告パンフレットまで。
流石に機密に触れるものはないが、あらゆる視点から補佐官関連に繋がる書類を頂いている。
別の道だが、同じエリートコースを歩くなのはは気が気でない。
なのはの懸念は理解出来る。
「俺にこんな管理職が勤まる筈がないからな。
心配するお前の気持ちはよく分かる」
「い、いえ、その……なのはの心配は別にあると言うか……」
兄貴の適正不足を指摘し辛いのか、なのはは言葉を濁す。
立派に成長しても、こういう面だけはいつまでも変わらない。
見慣れた仕草に、苦笑してしまう。
「お前やフェイトほど、世渡り上手じゃないからな。
お偉いさん相手は出来そうにねえよ」
結局何処の世界でも不適格な男でしかないのだ、俺は。
一番の問題はそんな浮世な自分を心底気に入ってる事だけどな、ははは。
それに今の俺の職業は――
――我が身を振り返るのは止めよう。
俺の言葉を聞いたなのははホッとしたような残念なような、複雑な表情を見せる。
「フェイトちゃんの気持ちは、すごく分かるんです。
ですので、フェイトちゃんに強くは言えないかもです。
それになのはが言っても、諦めるかどうかは……」
「……一人前になって強気になってるからな、あいつ。
指で数えきれない程断ってるのに、落ち込む気配も見せねえし。
あの書類、悪いけどコッソリ管理局へ返品しておいてくれ」
「あはは、了解です」
なのはは慣れた手付きでお茶目に敬礼。
万が一フェイトに聞かれたら、読み終えたので丁重に返したと言っておこう。
縁側に腰掛けていた俺はゆっくりと起き上がる。
「じゃ、俺は出かけて来る。
お前はゆっくり休んでろよ、たまには」
「はい、それでは――って、待ってください!?
おにーちゃんは今日一日、なのはと一緒じゃなきゃ駄目です!」
俺の一日の権利を所有出来る券を片手に、なのはは出て行こうとする俺のシャツを掴む。
っち、もうちょっとで有耶無耶に出来たのに。
「べ、別に俺じゃなくてもいいだろ!?
はやてとか、守護騎士軍団とか、ユーノとか――」
「はやてちゃんやシグナムさん達は今日、お仕事です。
ユーノ君だって、半年前に会ったばかりなんですよ!」
……半年って、おい……
奴とは半年会わなくても平気で、ほぼ毎日顔を合わせる俺が釈放不可ってどういう理屈なんだ。
世の中の理不尽に涙する俺。
法を律する管理局の幹部候補が、そんな不平等でいいのか!?
「……おにーちゃん……お願い……」
上目遣いに見上げる瞳に、不安と懇願の色。
如何なる難関も強い意志と力で乗り越えたなのはの手は、シャツを掴んだまま震えている。
――中学生、大人への道を歩み始める時期。
それでもまだ、子供である事には違いない。
俺は嘆息して座り直した。
「……券があるなら仕方ねえ、今日一日だけ付き合ってやる」
そう――券があるからだ。
決して、俺の意思ではない。
日本の伝統後継者たる俺には、果たすべき義務がある。
「――っ! ありがとう、おにーちゃん!」
だ、だから別になのはに歓喜で抱きつかれても何も思わない。
思わないからな、本当に!?
なのはの甘い匂いに少し心をかき乱されながら、俺は平静を保った。
別に二人っきりとはいえ、特別な事は何もない。
なのはの手料理を食べながら食卓で団欒、近況を話す。
「聞いたぞ、お前告白されたそうだな」
「ど、どうしておにーちゃんがそれをご存知で……」
「俺様の情報網を甘く見るなよ、ふふふふふ。お前は常に監視されている」
「もー、やめてください!?」
「さあ、吐け。オッケーか、オッケーなのか!?」
「……。
おにーちゃんは、なのはが誰かと付き合っても平気ですか?」
「うん」
テーブルに突っ伏した、何でだ?
食休み後は体が鈍らないように運動後、イメージトレーニング。
レイジングハートを中継点に、仮想領域で戦闘を繰り広げる。
「あのー、おにーちゃん。
出来ればトレーニング中、死ねと叫んで攻撃するのはやめてほしいです」
「真剣勝負に手を抜けというのか、貴様!」
「笑いながら襲い掛かってくるので怖いんです!」
「初っ端から、鬼のようにアクセル撃ち続けるお前に言われたくない!」
そんな兄妹の仲の良さを発揮しつつ、小訓練。
終わればなのはの部屋でパソコン相手に、ゲームをプレイ。
「……なあ。
この恋愛ゲームとやらは、本当に人間の育成に役立つのか?」
「はい! 他人の心を知る良い勉強になるんですよ」
「主人公が普通の学生なのは気にしないとして――
ヒロインが主人公の義理の妹って問題なくないか?」
「どうしてですか? 義理ですよ、義理。血の繋がりなんてないです。
倫理的にも問題はありません」
「倫理的に問題はない……」
「義理の妹に交際を申し込んでも平気なんです」
「平気、平気……そうか、平気なのか――
――そんな訳あるかーーーー!!」
「わきゃー!?」
耳元で囁くなのはを掴んで、ベットに押し倒す。
ジタバタ暴れるが、俺の腕力には無意味。
強引に組み敷いて身動きを封じ、片方の手でなのはの柔らかな身体を包むシャツをめくる。
露わになった肌に手を伸ばして――
――くすぐった。
「あっ――あははははははは!
お、おにーちゃん、やめっ!?」
「さあ言え! お前にアホな事を吹き込んだのは誰だ!」
「へははは、きゃ、ははは、い、言え――言えません!
ふひゃ、ははははは!?」
「ええい、無駄に抵抗しやがって!
お前の弱点なんぞお見通しなんだよ。
ほれほれ、この辺とか弱いんだろ」
「ひゃあ!? ハァ、ハァ……ハァ……」
「あははは、ツルツルのお肌がヒクヒクしてるぞ。
相変わらず感度敏感だな、おい。
ここかー? ここがいいんかー?」
「はぅ!? アゥ、ア、ア……言います、言いますから!
し、忍さん、忍さんに渡されました!」
「……やっぱりあいつか、なのはに妙な事吹き込みやがって。
お前もいい加減、その素直な性格を改めろ。
どうせ、さっきみたいに言えば俺ともっと仲良く出来るみたいに言われたんだろ」
なのはの足を掴み、白い靴下を引き抜いて床に投げる。
恍惚に上気した表情のなのはが、その行為に顔色を変える。
慌てて逃げようとするが、俺は思いっきり引っ張って逃がさない。
「純情な兄をからかった罰は重い。
二度とこんな事をしないように、身体で教えてやろう」
食らえ、日本の伝統。
どれほどの強者でも――たとえS級クラスの魔導師でも耐え切れない恐怖の技。
やり過ぎれば死すら招く恐るべき必殺技を、可愛い妹の為に涙を呑んで発動させる。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい! おにーちゃん、許し――」
「問答無用!」
こうして――なのはと楽しい午後の一時を過ごした。
本人が喜びの余り、失神する程に。
――どんな一日であれ、必ず終わりは来る。
日々は常に移り変わり、人々の生活を時の最果てに押し流していく。
茜色に染まる空は目に優しく、穏やかに高町の家を照らし出していた。
「……たく、いい気なもんだな」
「すぅ……すぅ……」
俺の隣に座ったまま、静かに寝息を立てる少女。
喧騒の日々とは無縁であるかのように、寝顔は可愛げに緩んでいる。
先程まで二人でゲームに白熱していたのだが、夕方になった途端これだった。
俺の肩に頭を乗せて、甘えた仕草で眠っている。
振り放してやろうかと思ったが――寝顔を見たら、その気が失せた。
「これがあの高町なのは教官の素顔だと知ったら、皆驚くだろうな……」
着実に実績を積み重ね、大勢社会の中で頑張り続ける女の子。
芳醇な才能と努力の積み重ねで、なのはは多くの人達から慕われている。
自分の仕事に誇りと責任を持ち、胸を張って規律正しい組織に身を置く日々――
こいつもたまには――誰かに寄りかかりたい時もあるのだろうか?
俺はそっと、空いた手でなのはの髪を撫でる。
「俺はいつまで――こんな関係を続けるんだろうな……」
俺には弱さを見せても良いと、あの桜吹雪の中でなのはに告げたのが始まり。
なのはは俺を兄と呼び、無邪気に慕ってくれている。
どれほどの魔導師になっても、子供から大人になりつつあっても。
なのははいつも、俺には素顔を見せている。
そんなこいつを突き放せないのは俺の弱さか、それとも――
「――傍にいるのが当たり前になってるのかも、な……」
確かな温もりを隣に、俺は一日の終わりを見届ける。
明日からまた、お互いに頑張る為に。
今だけは、この安らかな休息に甘える事としよう……
<END>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
戻る
Powered by FormMailer.
|