To a you side 外伝6 孤独の剣士の孤独な一日(初日の出編)



※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。




 年始年末、俺にはロクな思い出が無い。















 意外に思われるかもしれないが、俺は日本の伝統にそれなりの敬意を払っている。

生まれ育った祖国に愛着もあり、日本の古き時代に思いを馳せる時間もある。

日本人に生まれたゆえに剣の道を選べた、心からそう確信している。

大晦日や正月、古い年から新しい年への生まれ変わりに心が浮き立つ自分が確実に存在していた。



それらを差し引いて、本当に良い思い出が無かった。



家の灯りを横目に、寝床を探した夜。

酔っ払いと揉めて、警察で過ごした夜。

絡まれたチンピラ共と喧嘩して、ゴミ溜めに放り込まれた一年。

除夜の鐘で眠れず、橋の下で朝を待ち続けた夜――



温かさなんて、無かった。

幸せなんて、必要はなかった。

薄汚れた我が身に恥も無く、新しい年を迎える――

身体の寒さと心の孤独が、俺の友達だった。





海鳴町山中・大木の頂――





今年の大晦日はこの大木で独り、俺は過ごしている。

俺の始まりの場所。

天下人になると強く誓ったあの頃の気持ちのまま、自然に愛されたこの町を見下ろしていた。

新冬の凍てついた空気が肌を凍らせ、神経を尖らせる。

独りだったあの頃を思い出させ、俺の心を鋭く研ぎ澄ませる。

生温い感情が薄皮を剥ぐように一枚一枚剥がれて、本来の自分を取り戻していくようだった。



独りだけの新年、孤独な正月。



時刻は午前四時。

俺は太い枝に腰掛けて、自由な初心を抱いたまま――



「――綺麗に見れそうですね、初日の出」

「ああ、全くだ――って、どおおおお!?」



 反射的に戦闘体勢に入り、足場の悪い枝の上で滑りそうになる。

俺の動揺を余所に、俺の一人世界に侵入した狼藉者は手の指輪に囁いた。


「良介さん、発見。早く来ないと私が食べちゃうわよ、ヴィータちゃん」

『て、てめえぇぇぇ!? リョウスケに手出したら、殺す!』


 平穏な夜に、不穏な会話をする馬鹿達。

研ぎ澄まされた孤高の精神が、生温い空気に萎え始めている。

俺は不屈の精神力で耐えながら、極めて穏やかに突如訪れた赤の他人に話しかける。


「――何しに来たのかな、お嬢さん」

「もう……良介さんったら。
今晩は私と一緒に朝まで過ごしてくれる約束でしょ、ふふ」


 ……個人の意思を無視する騎士さんに、足払い。


「わっ……ひゃあ〜〜〜〜〜〜!!!」



 ガス、ドカ、バサバサ、ズサササ、ドシシシーーーンッッッッ!!



 枯葉に擦れ、人間の腕ほどある枝にぶつかり、圧し折れて、下の茂みに落下する音が耳元に木霊。

心地良い衝突音に満足しながら、頂からそっとにこやかに声を投げかける。


「あ、ごめーん。足滑っちゃった、てへ」

「へ……平然と木の上から落としておいて、そこまで言いますか……」


 湿り気を帯びた茂みから、泣き顔で出てくる金髪の御嬢さん。

温かな白の上着が泥に濡れて、柔和な美貌に擦り傷。

手入れが行き届いた柔らかな金髪に枯葉や細い枝が、こびり付いている。

湖の騎士シャマル――新年早々大変有様だった。


「良介さんに逢いたくて、一生懸命探したんですよ!?

健気な私に優しさと労わりと、愛情を向けてくださいよ」

「全部嫌だが、特に最後は断固として断る」


 折角誰にも何も言わずに出てきたのに、一夜も満足に持たんとは。

白い息を吐いて、枝の上から麗しき騎士を見下ろす。

シャマルはクラールヴィントを起動して、回復を行っていた。


優しき光が彼女を照らし、暗い山中に華やかな舞台を演出する――


何度も見る光景だが、目を奪われてしまう自分が憎い。

光に包まれるシャマルは神々しく、凛々しき騎士としての面影に惹き寄せられる。


――俺に惚れたのが運のツキだな、こいつも。


「何で俺の居場所が分かった。誰にも教えてないぞ」


 探査魔法には気を配ったし、魔力の欠片も放出していない。

周囲の気配も皆無だったが、こいつの場合四次元があるので警戒はあまり意味がなかったけど。


……本当、いちいち何で警戒する必要があるんだろうな。


個人主義者が増加の一途を辿る昨今の世の中で、一人になるのが困難な人間って珍しいと思う。

この世の理不尽を呪っていると、回復と服の修繕を終えたシャマルは浮遊し、再度俺の隣に立つ。

日本人なら木登りしろと言いたいが、ベルカの騎士には釈迦に説法だろう。


ちなみに俺はちゃんと長い手足を駆使して上ったぞ、ふふふ。


シャマルは得意げな笑顔で、白い人差し指を俺の鼻にそっと乗せる。


「貴方の匂いを辿って追ってきました」

「生々しい事を言うな!?」


 思わず自分の体臭を嗅いでしまうのが、悲しい性よ。

我が家のメイドが口煩いので、毎日ちゃんと洗っているぞ俺。

常人には嗅げない匂いとか追えるのか、こいつは。


「ヴィータちゃんやはやてちゃんも、怒ってましたよ。
年末一緒にって約束したのに来なかったって」

「チビとアリサが勝手に承諾したんだよ。

あいつら、最近すっかり俺の世話女房になってやがる……

チビとクラールヴィントと交換してくれ」

「――え……?


それって、あの――私との指輪交換を望んでおられるんですか!?」


 うがああああ、しまった!?


新年早々に地雷を踏むとは、迂闊だぞ俺!

シャマルは頬を染めて、俺の手をしっかりと握り締める。


「嬉しい……新しい年の幕開けに、プロポーズだなんて……」

「違うわ!? ただデバイスの交換を――」

「良介さんったら、散々焦らして実はこの日を待ってたんですね。
初日の出を前に、私に愛を誓う為に――

ロマンティック……素敵です、ますます好きになりました」

「お前が勝手に追っかけて来たんだろ、此処に!?

ええい、愛が絡むと握力が強いな貴様!」


 両手を握られて、突き飛ばす事も出来ない。

足払いは経験積みで、足技が出さない近距離に迫られている。


"ク、クラールヴィント。主の暴走を止めろ!"

"今日から宜しく御願いします、旦那様・・・"

"主人扱い!?"


 ベルカ式の分際で、小粋なジョークを飛ばすクラールヴィント。

主人の意思を尊重し、俺個人の意思を無視する辺り、湖の騎士の道具と言うべきか。

シャマルは澄んだ瞳に桃色のハートマークを浮かべて、愛溢れる御言葉を俺に贈る。


「私、良いお嫁さんになります。良介さんをずっと支えられるように」

「主を支えろよ、お前」

「良介さんは和食が御好みでしたね。桃子さんに御願いして、花嫁修業しないと……うふふ」

「なのはがうるさいからやめろ!?」

「さ、良介さん。婚前の契りを結びましょう。


誓いのキス――を!?」


 流石は伝説に名を残すベルカの騎士、愛に狂っても感覚は正常。


――頭上から一直線に急降下する殺意の槌、真横から斬り結ぶ冷たき殺意の刃。


秒単位に繰り出された二つの攻撃から、シャマルは四次元殺法で逃れる。

刃は大樹を両断、槌は問答無用で木片に至るまで吹き飛ばした。


お、俺の誓いの木がーーーー!?


「リョウスケ、もう大丈夫だぞ! アタシが守ってやるから!」


木から宙へ放り出された俺を、飛来したチビッ娘が掴んで上空へ。


燃えるような深紅の髪と、躍動感溢れる瞳が印象的な美少女――ヴィータ。


子供仕様の白のモコモコダウンケットを羽織って、俺を心配げに覗き込んでいた。

間近で見つめられて、ヴィータは慌てて付け加える。


「ま、守ってやるって言ったのは――お前はアタシの子分だからだぞ!?」

「はいはい……頼り甲斐のある親分のせいで死にかけましたよ、ええ」


 派手な登場しか出来ないのか、こいつは。

可愛らしい服装とアンバランスなグラーフアイゼンが、嫌だ。

瞬間、桃色の風が俺の髪を撫でる――


「無事か、宮本」


 こっちは大人仕様の黒のロングコート。

寒気を微塵も感じさせない凛々しい横顔と、厳しい眼差しに優しさを浮かべて俺を見つめる。


大木を簡単に両断する実力を秘めた美剣士――シグナム。


シャマルに気を取られまくっていたとはいえ、俺の警戒網を突破したのは流石としか言い様がない。


「ま、まあ、お蔭で助かったけど……

今日はまた一段と容赦ないな、シグナム」

「新年早々不埒な真似に及ぶ愚か者には、これくらいで丁度良い」

「そうそう、助けられたくせに文句言うな。
あれぐらいしないと引き下がらなかったぞ、アイツ」


 全くもってその通りなので、文句は言わないでおく。

普段は意見の相違で揉める二人だが、今日は嫌に仲が良い。

二人して頷き、自身の行動になんら恥じていない様子だった。

戦果を称え合う二人の前に、黒い穴から婚約解消した若奥さんが出てくる。


「随分早かったのね、二人とも。折角良介さんと婚前交渉してたのに」

「結婚詐欺で訴えてやろうか、お前」


 不満顔のシャマルに、同じく不満バリバリで唸る俺。

他の二人も黙っていなかった。

特にヴィータは頭から湯気が立ち昇りそうなほど、怒る。


「リョウスケはやらねえぞ、シャマル!」

「残念でした。

さっき良介さんから私、プロポーズを受けたのよ」

「……どういう意味だ、宮本」


 長剣を震わせるシグナムに、死の匂いを感じて首を振りまくる。

迂闊な事を言えば死ぬ。

烈火の将シグナムは、俺には特に死ぬほど厳しい。

特に恋愛沙汰の話を持ち込んだら、一刀両断される。


「この馬鹿が勝手に勘違いしただけだ」

「そうですよ、シグナム。そういう話になってるんです」

「事実だろうが!?」


 話を巧みに自分本位に誘導するな。

日常は結構ドジやポカが多いのに、シャマルは恋愛話に発展すると脅威の参謀能力を発揮する。


これだから、こいつは苦手だ……


「リョウスケは嘘だって言ってるんだ。てめえの意見は関係ねえよ」


 おお、ナイスだヴィータ。

俺の言葉を第一に考えてくれるこいつが、俺は大好きだ。


「そうね。ヴィータちゃんの意見も、良介さんには全然関係ないもの」

「てめえ、リョウスケ!? アタシをシカトするとはいい度胸だな!」


 ……他人の言う事を簡単に信じるこの馬鹿が、俺は嫌いだ。


小柄な体格に無類の腕力をこめて、俺の肋骨を締め上げる。


「シグナム、助けてくれー!」

「真偽が判明するまで、断る。
良い機会だ、不自由なその状態を自力で突破してみろ」


 嫌な師匠だな、おい!?

御機嫌斜めな毎日の稽古相手に、内心悲鳴を上げた。

ヴィータに抱き上げられたまま、俺はジタバタ暴れるしかなかった。


「良介さんが嫌がってるでしょう、離しなさい」


 シャマルは暴れる俺の空いた手を掴んで、力一杯引っ張る。

痛い、痛いから! 


「ぜってーやだ。リョウスケは誰にも渡さねえ」


 ヴィータは俺の胴体に両手を回して、不敵な笑顔で抱き締める。

メキメキと嫌な音を立てて、ヴィータの抱擁が容赦なく肋骨さんをイカレさせる。

アイダダダダダ!?


「無益な争いは止めろ。宮本が困っているだろう」


 そう思うなら足を掴まず、二人を引き離してくれよ!?

細い腕にアキレス腱が引き千切れそうな力を加えて、シグナムは足を引っ張る。


「ヴィータちゃん! シグナムも、離して!」

「テメエらが離れればいいだろ!」

「冷静になれ、二人とも!」





の〜〜〜〜〜!!















ブチッ















――年始年末には、俺にはロクな思い出が無い。

ああ、全然ないとも。














































































<宮本 良介・元旦スケジュール

午前0時:はやて家で御雑煮(ボイコット→"絶叫の初日の出"イベント発動)
午前8時:はやて家でおせち料理(ボイコット計画中)
午前9時:高町家に新年の挨拶
午前10時:フィアッセ・桃子と翠屋へ
午前11時:修行タイム

午前12時〜14時:管理局・日本の文化講座開催

午後14時:フェイト・アルフと初詣
午後15時:フィリス先生新年初の診療訪問
午後16時:月村家へ新年の挨拶
午後17時:御勉強タイム

午後18時〜20時:さざなみ寮へ新年の挨拶

午後20時〜午前0時:カルタ大会(優勝者:望みの品)

現在時刻:午前4時
元旦終了まで、残り後20時間
スケジュール管理:メイドさん>








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