To a you side 外伝6 孤独の剣士の孤独な一日(挨拶回り編)
※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。
ヴォルケンリッターとは、闇の書の主を守る守護プログラムの総称である。
守護騎士達は鋼の精神と卓越した能力でマスターに認められた人物を守護、絶対の忠誠を誓う。
夜天の書が生み出した騎士達は、全員で四人――
生真面目で実直、騎士道精神を持つ武人シグナム。
勝気で自由奔放に振舞うが根は優しい少女、鉄槌の騎士ヴィータ。
金髪のおっとりした優しげな美人、湖の騎士シャマル。
筋骨隆々とした青年であり、青い毛皮の守護獣・ザフィーラ。
彼女達こそ一騎当千の戦士達であり――誓いの木を殺害した凶悪犯である。
「――障害に殺人、現行犯逮捕には充分過ぎるだろう。しょっ引いてくれ――痛つつ・・・・・・」
『朝から騒がしいな、君は。
危険魔法使用も適用されなくもないが――君にとってはいつもの事だろ。
騎士達に全力で攻められて、背中が引き攣る程度で済む君の頑丈さにいい加減呆れてきた』
「おいコラ、時空管理局執務官。無力な民間人が悲鳴を上げているのに、何をノンビリかまえてやがる」
『君を普通の民間人と扱うのは抵抗があってね・・・・・・それより、本日の午前12時からだ。忘れるな。
艦長も君の講義を楽しみにしているんだからな』
「それよりって簡単に言いやがっ――げっ、切りやがった。アースラに転送させようとしたのに」
エイミィに設定して貰ったアースラ直通回線を切断されて、俺は舌打ちする。
麗らかな初日の光が目に眩しい、輝かしい今年の門出――
宵の空は低く垂れ込めて、風の冷たさが身に泌みる。
日本の行事の中で最も古くから存在する正月を、此処八神家にて過ごす羽目になった。
――和やかな雰囲気は苦手なのでボイコットしたかったが、たった今執務感殿に簡単に見捨てられた。
時空管理局は民間人を守る正義の組織だったのに、世も末である。
「良介、おせちの準備出来たよ。具合はどうや?
ほんまにごめんな・・・・・・うちの子達がまたやんちゃな事して」
「全身を引き裂かれそうになった暴挙を、やんちゃで済ますお前も怖いが――
シャマルが回復魔法してくれたみたいだから、もう大丈夫だ。回復力は元から人三倍だからな」
星も凍るような寒い大晦日一人厳かに過ごしていたのに、八神家の新しい家族にぶち壊された。
他愛無いはやてとの口約束を生真面目に信じた四人が、俺を連れ戻しに来たのだ。
口で言えば済む話なのに、あれこれ揉めた挙句手足を引き裂きかねない勢いで引っ張る始末。
お陰様で、新しい年は盛大に痛みを伴って迎える事が出来ました。
ブザマに気絶した俺に流石に悪いと感じたのか、八神家まで運んで寝かせたらしい。
「ところで――シャマルが朝から泣き寝入りしてて困ってるんやけど」
「あいつも大袈裟な奴だな。次の除夜の鐘が鳴るまで、口を利かないだけなのに」
「今、正月やんか!? 今年の大晦日まで無視するつもりなんか!?」
俺様にとって人生の起点の証とも言うべき、誓いの木。
海鳴町に初めて足を踏み入れた時、俺は剣士としての人生を貫く事を一本の木に誓ったのだ。
樹木自体に特別性はないが、俺にとっては大事な原点。
破壊した犯人はヴィータ達だが、そもそも俺を発見したのは探索魔法の達人シャマルである。
普段から暑苦しい愛に熱心なので、元旦から灸を据えておいた。
言葉攻めは自分に都合の良い解釈で中和、殴る蹴るの暴力は愛の試練とかぬかすので無視地獄が一番いい。
そんなやり取りでさえ微笑ましいのか、はやてはクスクス笑っている。
「元気そうやったら、着替えて下りて来てな。八神家特製の美味しいおせちが待ってるよ。
餅を沢山入れたお雑煮もあるから、いっぱい食べてな」
「大したブランドでもなさそうだよな、八神家」
「うう、新年早々冷たいツッコミやね・・・・・・」
足が壊れた少女と、心が壊れた剣士――
昨年も本当に色々大変な事件はあったが、二人こうして無事に新年を迎えられただけで充分だろう。
可愛らしくしょげているはやてを見つめながら、俺は苦笑した。
先祖をお祀りする行事――正月は八神家でも伝統行事として行われている。
門松やしめ飾りは元より、歳神様のご神体であると考えられていた鏡餅も飾っている。
大小の丸い餅を重ねて出来ている飾餅は、家庭円満を象徴する縁起物だ。
奇跡的な巡り会いで新しい家族を迎えられたはやてにとって、鏡餅を飾る事は何より大切なのだろう。
「ん〜、柔らかくてうめえな・・・・・・餅ってのは!」
家族円満の象徴となる食べ物が、紅の美少女に食べられて消えていく。
小さな頬をもぐもぐ膨らませて食べる姿に、戦士の誇りなんぞ微塵も感じられない。
ご機嫌でお雑煮を食べていた小さな騎士は、ダイニングに来た俺を見るなり気まずい顔をする。
「お、おお、もう元気になったのか! 流石は、アタシが見込んだ子分だな。
親分として鼻が高いぜ」
「その親分に肋骨を折られかけたんですよねー」
「――うぐっ、だ、だから悪かったって・・・・・・ほらほら、アタシのお餅やるから機嫌直せよ」
古代ベルカ時代、沢山の強者を倒した戦士が俺相手に困り顔を見せている。
自分の食べていたお椀を掴んで、必死な顔で俺に差し出す姿が少し可愛らしい。
――というか、自分の食いかけを渡すな。
「朝から何杯食べているんだ、お前は」
「ガッツいているように言うな! まだ五杯目だぜ。
子分一人寂しくねえように待ってたんだ。優しい親分だろ?」
「じっと箸を置いていたなら感謝感激で許してたな、ボク」
「な、何だってー!? ちっ、畜生・・・・・・大人しく我慢していればよかった・・・・・・」
テーブルに突っ伏して、美しい紅の髪を悔しそうに掻き回すヴィータ。
威厳もクソもないが、去年と変わらず慣れ親しんだ態度に好感は持てる。
出逢った当時に比べれば、何億倍もマシだ。
隣で新聞を読んでいた長い髪の女性が、呆れた顔を少女に向ける。
「忠告しておいただろう。宮本は破天荒だが、道理を軽んじる男ではない。
反省の態度をきちんと見せれば、お前の罪は許されていた」
「うっ、ア、アキレス腱が痙攣する・・・・・・」
「――むぅ」
炎の魔剣を握る美剣士に掴まれた足首を擦ると、シグナムの秀麗な顔に汗が流れる。
血飛沫が飛ぶ戦場でも冷静沈着な騎士なのだが、俺やヴィータ達との喧嘩に巻き込まれると取り乱してしまう。
強者にあるまじき欠点だが、この日常に心許す彼女に嬉しさを覚えるのもまた事実だった。
八神家の御父さんは新聞を置いて、気まずげに咳払いする。
「さ、酒でも飲むか宮本・・・・・・? 実力はまだまだ未熟だが、お前も随分成長した。
特別に私がついでやろう」
「素直に謝ってくれればいいのに、何で抵抗するんだアンタら!?」
頬を若干赤らめて、徳利を傾ける彼女の素顔に頬が緩んでしまいそうだった。
本当はもう怒っていないのだが、意地悪したくなる。
自分にも他人にも厳しい女性、修行でも容赦しない人生の師匠――
彼女のこんな面を見られるのもまた、正月の特権かもしれないな。
「貴様に下げる頭はないということだろう。調子に乗るな」
飼い主が作ったおせち料理に舌鼓を打つ犬が、偉そうに口を挟む。
年の始めにその年の豊作を祈って食べる料理や武家の祝い膳混ざり合って出来た、伝統のおせち料理――
一の重には黒豆、数の子、ごまめなどの祝い肴。
二の重には伊達巻やきんとん等の甘いもの。
三の重には魚や海老の焼き物など海の幸。
そして、四の重には野菜類の煮物などの山の幸が並んでいる。
はやてが別に取り分けた祝い膳を前に、犬野郎がテーブルの横で静かに口に運んでいた。
言い分ごもっともだが、こいつの言い方に腹が立つ。
俺はシグナムから徳利を受け取って、
「それはどうもすいませんねえ・・・・・・ザフィーラさんにはいつも迷惑ばかりかけて。
お詫び代わりと言っては何ですが、守護獣さんもお一つどうぞ」
「なっ――き、貴様!?」
豪華な食事が盛られた膳に、俺は丁寧にお酒を注いでやる。
トクトクトク・・・・・・小気味良い音を立てて、熱い日本酒がおせち料理に濃厚な味付けを加えた。
徳利一本分注いでやると、膳に祝い酒が溢れ返った。
ザフィーラは茫然としていたが、我に返った瞬間殺意に牙を尖らせる。
「・・・・・・シグナム達の制裁は些か手緩かったようだ・・・・・・
心優しい主殿の手料理を台無しにした罪は重いぞ、宮本良介」
「そのお酒だってはやてが用意した物だぜ。味わって飲めよ」
「ほざけ! 二度と立てないように、足首を食い千切ってくれる!」
凶悪な顎を開いて、俊敏な動きで血に濡れた牙が迫る。
俺は即座に椅子に飛び乗って、直立不動の態勢で大声を上げた。
「俺の味方である事を証明すれば、許してやるぞーーー!」
「貴様、よもやそこまで――ガッ!?」
――ザフィーラの顎を掴む、白い手。
一時的に避難した俺に追撃をかけたその瞬間、空間より突如出現した手が狂犬の口を塞いだ。
廊下の向こう側から、ゆっくりした足取りで金髪の女性が姿を見せる。
歓喜に、美しき瞳を潤ませて――
「良介さん・・・・・・今の御言葉、本当ですか?
私が貴方への想いを証明すれば、また愛を囁いて下さるんですね!?」
「誰もそこまで言ってないが、その犬を排除すれば今まで通り喋ってやる」
「ありがとうございます! 私、頑張ります!」
猛然と食らいつこうとするが、口を限界以上に上下に開かれて悲鳴を上げる犬。
シャマルはご機嫌に正月のテーマを歌いながら、ザフィーラを翻弄する。
彼女が嵌めた指輪が燦然と輝くと、八神家の台所に四次元空間の入り口が開かれた。
「ウフフ・・・・・・ザフィーラ、良介さんが御邪魔だと言っています。
私と一緒に散歩へ行きましょうね」
「シャ、シャマル、騙されるな! その男は――ぐおおおおぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!?」
愛らしい笑みを浮かべて俺に手を振りながら、ザフィーラを連れて空間内へ歩いていく。
ザフィーラは恐怖の表情で必死に抵抗するが無意味、暗黒に引き摺りこまれていった。
あの空間が果たして何処へ繋がっているのか、誰もが怖くて聞けない。
――残されたのは、沈黙のみ。
「しっ――新年、あけましておめでとうございます」
「こ、今年もよろしくお願いします」
不気味なほど丁寧にお辞儀をして、残された俺達は正月の挨拶を行う。
誰もが皆笑顔だったが、目が全然笑っていなかった。
こうして狼の高らかな絶叫と共に、本年最初の朝を迎えた。
<宮本 良介・元旦スケジュール
午前0時:はやて家で御雑煮(ボイコット→"絶叫の初日の出"イベント発動)
午前8時:はやて家でおせち料理(ボイコット失敗→"狼達の賛歌"イベント発動)
午前9時:高町家に新年の挨拶
午前10時:フィアッセ・桃子と翠屋へ
午前11時:修行タイム
午前12時〜14時:管理局・日本の文化講座開催
午後14時:フェイト・アルフと初詣
午後15時:フィリス先生新年初の診療訪問
午後16時:月村家へ新年の挨拶
午後17時:御勉強タイム
午後18時〜20時:さざなみ寮へ新年の挨拶
午後20時〜午前0時:カルタ大会(優勝者:望みの品)
現在時刻:午前4時
元旦終了まで、残り後20時間
スケジュール管理:メイドさん。
ザフィーラ 死亡確認>
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