To a you side 外伝6 孤独の剣士の孤独な一日(鏡開き編)



※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。




 フェイト・テスタロッサとの初詣では行わなかった、直会という儀式がある。

神様にお供えしたお酒――お神酒を授かり、お下がりを食べて、神様の力をお腹に入れて帰るという日本の伝統。

心身を清め、お祓いを受けて、特別な状態にあった参拝者が最後に、この儀式を行う。


自分自身の、日常の世界に帰る為に。


「侍君、御猪口空になってるよ。注いであげる」

「……美味い酒なのに、苦い気分だぜ」


 新しい一年の始まりの日、寒々しい夜空でも冷たくとも新鮮な空気が感じられる。

元旦の夜、自然に恵まれた優しい町の下で、美人と飲む酒は本当に美味いのだろう。普通の男ならば。

隣りに座る女性が、月村忍でなければ。


「優勝者の特権。朝までゆっくり付き合ってもらうからね」

「何が悲しくて、正月からお前と二人っきりで過ごさねばならんのだ」


 月が見える夜に、お屋敷の屋根の上で一晩。ミッドチルダのカルタ大会を制した女性が願った、今年最初の我侭。

主催者である以上叶えなければならず、敗者であるが故に従わなければならない。

金持ちのくせに安い日本酒と、何処にでも売っているツマミを美味しそうに口にしている。

御気軽というべきか、本人はいたって幸せそうだった。


「皆、悔しがってたね。逆転勝利は気分がいいよ」

「お前なんぞに負けるなんて悔しくて仕方ないが、日本人が勝ったからまだマシか。主催者の面目は立った」

「ふふん、感謝しなさい」

「調子に乗るな、馬鹿」


 飲み終えた御銚子で叩くと、いたーいとはしゃいだ様子で忍が額を撫でる。

叩いた箇所は多少赤くなっているが、ほろ酔い加減に染まる頬が艶っぽく見えて。

月の光に照らされた忍がやはり綺麗だと、馬鹿馬鹿しくも実感してしまった。


「それより、お前に策を与えたのは誰だ。お前が考えたものじゃないだろう」

「むー、侍君バカにしてる。私だって、作戦くらいは立てられるんだよ」


 嘘だ、絶対に嘘だ。月村忍の頭の良さは認めるが、あの作戦は月村の知識の本質とは異なっている。

戦略とは多少なりとも個性が出る。過去の偉大な策を真似ても、同様の結果が必ずしも生まれるとは限らない。

忍が作戦の主軸なのは確かだが、作戦を立てた人間は絶対にこいつではない。その根拠は、ただ一つ。


「あの作戦はカルタ大会に勝つ為の、戦術じゃない。俺を倒す為の、戦略だ。

優勝候補となっていたはやてやリンディは勝利こそ出来なかったが、満足出来る結果になっていた。
他の参加者も然りだ。俺への妨害は大事な人間への貢献に繋がり、本人達の実績となっている。

主催者である俺だけが、徒労に終わった結果になっていた」

「それで、どうして私じゃないと言い切れるの? 侍君の事を理解していないと、出来ない作戦だと気づいでいるでしょう」

「お前は俺を理解していても、俺に害する行為はしない」


「……その心は?」

「……俺に言わせるのか?」


「ふふ、言わなくていい」


 嬉しげに微笑んで、俺の肩にコツンと自分の額を乗せる。長い髪が緩やかに流れ、絡み合う。

文句を言う気が何故か失せて、黙って御猪口を傾けた。時間は静かに、ゆっくりと流れて行く。

これほど近くにいても、適切に保たれている。本人達が納得出来る、心の距離を。


「途中で参加したリザーバー、いたでしょう? その娘が考えた策」

「結局、最後まで姿を見せなかったな。誰だったんだよ」

「それは秘密。侍君には絶対に教えないように、本人から言われてるの。
ハラオウンのママさんや息子君に聞いても、無駄だよ。侍君の事教えたのは、あの二人だから」


 異世界の理解者を殴りたくなった。全くもって、奇妙な縁が生まれたものだ。

世界の違う住民、本来ならば絶対に交差しない縁。海鳴町だからこそ繋がった、関係。

この町は不思議な縁に巡り会える。時には優しく、時には残酷な関係で。


「ミッドチルダの知り合いは大体大会に参加していたから、俺の知らない奴……とか限らないか。
管理局にも、俺の私生活にまで干渉する奴等がいやがるからな」

「案外、一人増えるかもよ……? 今度は自分の力で正々堂々と勝つと、張り切ってたから。
クロノ君に色々教わっていたから。管理局員を目指しているのかも」


 管理局員を志す、俺への対抗心を持つ人間? 年下だろうけど、そんな奴いたかな。

忍は面白がって、俺の頬を人差し指で撫でる。オレンジ髪の少女に昼間書かれた墨が、まだ色濃く残っているのだ。

これも敗者の烙印。日本の伝統で二度も不覚を取るとは、俺もまだまだ精進せねば。


「侍君の、明日のご予定は?」

「予定とか、もう聞きたくもない」


 正月元旦の日は自由気ままに動いていたつもりだが、気がつけば他人とばかり会っていた。

既に約束していた分は別にして、自分の時間は自分独りでゆっくりと過ごそう。

本日不甲斐なかった分も込めて、山で剣の修行でもしていよう。

そう話すと、侍君らしいと忍はからかう。反対も賛成もせず、積極的な干渉は避けて。


「お前こそ正月から寝てばかりいないで、神社にお参りでも行ったらどうだ?」

「願いは今日叶ったから、もういいもーん」


 境内でおみくじを引いたり、お守りを買い求めたりはしないらしい。何ともこいつらしい。

雪が積もる境内を必死で進む参拝者をテレビで眺めて、家でダラダラするようだ。オッサンみたいな女だが、容姿は抜群なのが腹立つ。

各地の寺社や行楽地にも行こうともせず、画面の中の世界で冒険でも楽しむのだろう。

新春のイベントも俺が誘わなければ来なかっただろうからな、付き合いが悪い訳ではないのだが。


「侍君は今日、寺社に参拝しに行ったんだよね。ちゃんと、一年の無事と平安を祈ってきた?
初参りくらいはしておかないと、今年もまた大変な目に合うよ」

「俺の騒動の一因を担っているのは、間違いなくお前だ」

「あはは、今年も手厳しいね。侍君は」


 さい銭の代わりに、こいつを投げ入れてくればよかったかもしれない。反省のない女だ。

神様へのお供え物として生贄にすれば、身についた厄を払えたかもしれない。

正月一番から忍に負けて、俺もちょっと落ち込んでいる。今日は、本当に疲れた。


「侍君」

「何だよ」



「今年も、よろしくね」



 不意打ちのように――月村忍は、このような事を言ってくる。恐らくこいつにとって、世界でただ一人に伝える言葉を。

関係を決して迫らず、想いも伝えず、手も差し出さない。意味のない繋がりだけが、緩やかに続いていく。

あらゆる次元世界の、どんな言葉でも表現出来ない、俺達の関係。男と女でありながら、とても良く似た存在。


「お前もな」


 だからこそ、俺もこいつに直接何も言わない。

ただ願うだけだ、出来損ないの魔法使いとして。他人達の為に、投げやりに祈ってやる。こんな風に。



よい年に、なりますように――。












































<宮本 良介・元旦スケジュール

午前0時:はやて家で御雑煮(ボイコット→"絶叫の初日の出"イベント発動)
午前8時:はやて家でおせち料理(ボイコット失敗→"狼達の賛歌"イベント発動)
午前9時:高町家に新年の挨拶(ボイコット成功→"永遠の親友"イベント発動)
午前10時:フィアッセ・桃子と翠屋へ(緊急呼び出し→"翠屋の看板男"イベント発動)
午前11時:修行タイム("翠屋の看板男"イベント発動の為、強制中止)

午前12時〜14時:管理局・日本の文化講座開催→("あこがれのヒト"イベント発動)

午後14時:フェイト・アルフと初詣→("愛と恐怖の守護霊様"イベント発動)
午後15時:フィリス先生新年初の診療訪問→(遅刻→"皆殺しの天使"イベント発動)
午後16時:月村家へ新年の挨拶→(イベント無。今も昔も変わらぬ、二人)
午後17時:御勉強タイム→(失敗。知力は下がりましたが、好感度は上がりました)

午後18時〜20時:さざなみ寮へ新年の挨拶→("夜霧の幻影殺人鬼"イベント発動)

午後20時〜午前0時:カルタ大会(優勝者:望みの品)→("ミッドチルダ式バトルロワイアル"イベント発動)



元旦、終了。

























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