kanon 「ボーイ・ミーツ・ガールズ」




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男と女の関係の難しさは、人間という存在がこの世に現れてからの永遠のテーゼかもしれない。

俺は今日、痛烈にそう思った。


「相沢君、詳しいお話を聞かせてもらえるかしら?」

「あ、い、いや、その、だな・・・・・」


にっこりと笑顔で、俺に詰め寄る香里。

だけど、その目はちっとも笑ってなくて逆に恐怖すら感じた。


「私の聞いた話だと、今日は秋子さんから遊園地のチケットをいただいたから、
一緒に行かないかっていうお話だったと思うけど?」


昨日学校帰りに話した俺のセリフそのままを、香里はすらすら述べる。

いい訳がましい事は理解していたが、それでも俺は必死で言葉を口に出す。


「いや、だからその後、俺の家に栞から電話があったんだよ。
それで、いろいろな会話で盛り上がっている内にだね・・・・・・・」

「今日の事を話してしまった、と?」


フフ、と口元を緩めて、香里は俺に確認する。

普段冷静な香里のこんな可愛い表情は、いつもなら感激する所だが今日は違う。

迂闊につっこむと、俺の命はない。


「だ、だって栞が元気になってから、ずっと病院の通院やら学校の手続きやらで
ここの所ずっと遊んでやれなかったじゃないか。
香里だって、似たようなものだろ?」

「ま、まあそれはそうだけど・・・・」


俺の言葉に少し思う所があるのか、香里は不機嫌な顔をする。

端整な顔立ちをしている香里は、負の感情を表す表情でもどこか品があった。


「だろ?だからさ、今日は一日しっかり俺達と遊んで思い出作りというのはどうだ?
今までの栞との時間を取り戻すと思えば、な」


あの栞の誕生日より、今はもう一ヶ月が過ぎている。

不治の病に侵されていた栞が奇跡の回復を成し遂げた後、俺と香里はよく顔をあわせるようになった。

香里は栞を避けた事をひどく後悔しており、栞が再入院している間ずっと落ち込んだ顔をしていた。

そんな香里が痛々しくて、俺はよく話し掛けたり、様子を見たりしていた。

話を聞く所によると、栞は姉が避けていた事に関してはあまり気にしていないようで、

怒りや恨みより、姉と再び一緒に過ごせる事を素直に喜んでいた。

そんな栞と香里の関係を通じて近頃、俺は二人と親密に、そして身近に接している。

今日の遊園地の約束もその一つだ。

でなければ、香里がそう安々とデートの誘いにはのらないだろう。


「まあ、そういう事だったら仕方が無いわね。
今日のお昼は、祐一君の奢りという事で許してあげるわ」

「俺の奢りかよ!?うう、あんまり懐は潤ってないんだけどな〜」


そうぼやきつつも、今日出かける前に秋子さんが出資してくれた事に感謝した。

『楽しんできて下さいね♪』と、笑顔で見送ってくれた秋子さんを思い出す。

栞や香里の事でも、あの人にはいろいろとお世話になっている。

いつかは、きちんとした形で恩返しをしたいものだ。

「それで、栞はいつ来るのかしら?あの子、今日は病院の検査の日じゃ・・・」

「ああ、昼頃終わるって言ってたから、もうそろそろ来るだろう」

駅前の時計台の下、今日の俺達の待ち合わせ場所でもあるここで佇んでいる。

電車の発車時間のたびに、改札から駅前にかけての人通りは激しい。

香里は人通り自体に毛嫌いはしない性質のようで、平気な顔をしている。


「それじゃあお昼は向こうについてからにするか?早目に行った方がいいだろう」


秋子さんよりいただいたチケットの遊園地は、ここより電車で約一時間程である。

正午近い今の時間から行けば、遊園地のレストランもそれほど待たされずに入る事が出来るだろう。


「そうね、一度栞に聞いてからにしましょう」

「そうは当然だな。そういえば、栞はあれから具合とかはどうなんだ?
昨日の電話じゃ、結局聞きそびれてしまったんだが」

「祐一君って、しっかりしているようで肝心な所はぬけているわね」


くすくすと可笑しそうに、香里は人懐っこく笑う。

「相沢君」から「祐一君」と呼び方が変わってから、こういう表情をよく見られるようになった。

だが俺はあんまり成長が無く、照れてしまい意地を張ってしまう。


「べ、別にそれほどぬけてないぞ。ただ、聞き忘れただけだ。
俺は名雪と違って、常に鋭い感性を秘めている男だからな」

「名雪は名雪ですごい感性を持っていると思うけどね、私は・・・」


何となく頷ける部分があるので、俺は黙って了承する。

香里は一つ小さなため息を吐いて、話を続ける。


「栞ならもう大丈夫よ。今病院に行っているのも、あくまでも確認の為の検査だから。
まったく、今でも信じられないわ。こういう奇跡が起こるなんて」

「あいつも言ってたよ。『奇跡は起こらないから奇跡だって』、な」


栞が以前口にしたセリフ・・・・

今にして比べると、それは想いが重なった姉のセリフでもあったのかもしれない。


「あの子、そんな事を・・・・」

「ああ・・・・・・
決して起こることが無い、それゆえに奇跡なんだろうって思ってたんだろうな。
でも、本当に望んでいたのは俺達と、そして栞だったんだと思う。
それにお前も、だろ?」

「・・・・ええ・・・・・・」


香里は当時の事を思い出したのか、少し唇を震わす。

俺はそんな香里が痛々しくて、そっと香里の頭にぽんと手を乗せて撫でる。


「ゆ、祐一・・君?」

「そういう顔をするなよな。栞が見たら悲しむぞ」

「は、話を持ち出したのは祐一君でしょう!もう・・・」


香里は悲しみと後悔の表情を消して、いつもの顔に戻る。

うん、香里はこうでないとな。


「あーーー、何をしているんですか、二人とも!?」


少し拗ねたような声色を出して、こちらへ駆けてくるのは栞のようだ。

今日の栞はいつもの冬の私服とは違って、今日は春らしい可愛い姿をしていた。


「お、栞、やっと来たか。遅かったじゃないか」

「ごめんなさい、少し検査が遅れてしまって・・・・・て!
それどころじゃないです!何をしてたんですか、二人とも!」


栞は何故かご機嫌ななめで、ぷうと頬を膨らませている。

?何かおかしい事でもしたのだろうか?

香里をみると、何故か俺をみて頬を紅くしていた。


「何だよ、いきなり怒ってるな・・・・
は!?まさか!?
以前、栞のストールで洗った手を拭いたことがばれたか!?
栞、あれは誤解だ。つい目の前にあったから・・・・・」

「そんな事じゃありません!というか、そんな事をしたんですか、祐一さん!?」


しまった、どうやら激しく墓穴を掘ったらしい。

俺は内心の動揺を隠して、栞と対面する。


「ふ、キノセイサ」

「言葉が片言になっていますよ。ひどいです、祐一さん」

「拭き心地は最高だったぜ」

「親指を立てて、堂々と言わないでください!
そんな事をする人は嫌いです」

「まあまあ、ここは一つ俺の顔で許してやってくれよ」

「祐一さんが悪いんでしょう!?」

「ところで何でいきなり来て怒ってるんだ、栞?」

「は、話の展開は早すぎますよ、祐一さん・・・・」


栞は目を白黒させて、息を荒げる。

さすがにこれ以上からかうと、隣のお姉さんが怒りそうだからやめておこう。


「ごめんごめん、それでなんで怒ってるんだ?」

「さっきお姉ちゃんと何をしていたんですか、祐一さん?」

「香里と?特に何もしてないぞ」


やましい事は何も無いので、俺は堂々と答える。


「そうよ、栞。祐一君とそんな・・・如何こうなる訳が無いじゃない」

「でも、さっき祐一さんがお姉ちゃんの頭に手を乗せて話してました。
お姉ちゃんもちょっと嬉しそうだったし・・・」


う、あの光景をすべて見ていたのか、栞!?

ちょっと形勢がピンチな気がするので、俺は香里に助けを求める。


「そ、そんな事はないって、なあ?香里」

「そ、そうね。じゃ、じゃあ私、先に電車の切符を買ってくるわね。
祐一君と栞の分も買ってくるわ、それじゃあ」


香里はそう言って、普段の倍は速いスピードで改札口の方へ向かう。

ああ、逃げやがった!?

それでも栞の保護者か、香里!?


「祐一さん、答えて下さい!答えてくれるまで、私は行かせませんよ」

「あぅー」

「何ですか、それは?」

「うぐぅ・・・」

「あゆちゃんの真似をしても駄目です」

「そんな事を言う人は嫌いです」

「私の真似をしないでください!」


はあ〜、これで今日の栞のアイスクリーム奢りは決定だな。

ため息を吐きながらも、心はとても温かかった。

美坂 香里、そして栞。

この二人に巡り合えた今の現実が、とても眩しく、何よりもとてもうきうきしていた。


「・・・です!祐一さん、聞いてますか?」

「ああ、聞いてる聞いてる。さて、香里を追いかけようぜ。
お姉ちゃんにもやはり話を聞いておかないといけないだろう」

「そうでした!?お姉ちゃん、ちょっと!」


まあ、これからもまだまだいろいろとあるだろうけど大丈夫だよな、俺達は。

俺は苦笑して、香里と栞がもめている所へ走っていった。











<終>

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