AIR 「ある晴れた日に」
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何気ない日常にでも、一つ一つ時が過ぎ行く度に新しい発見がある。
この街に辿り着いてからの俺は、まさに全てが目新しい発見ばかりだったかもしれない。
例えば・・・・
「いつになっても、ここは人通りが少ないとかかな・・・・」
自分で言って、さらに気分が落ち込んだ。
気候も過ごしやすくさらに快晴な天候でもあるのに、ここ霧島診療所前はまったく人が通らない。
これでも二時間以上座っているのだが。
「ぴこ〜〜〜」
そんな俺の隣ですっかり人形芸の常連客となったポテトが寝そべっている。
ぽかぽかと陽気が満ちているこの季節の雰囲気にまどろんでいるのか、先程からずっと寝そべったままだ。
「お前はいいよな・・・・遊んでいるだけで飯が食えるんだから」
「ぴこっ?」
自分の事を言ったのかとばかりに、小さな瞳をこちらへむける。
「そうそう、すっかりくつろぎモードに入っているお前を言ってるんだ」
「ぴこっぴこっ」
「誘いは嬉しいが、生憎お前と違って俺は働かないと食っていけない身分でな。
お前のように寝そべっている訳にもいかない」
とは言っても、お客さんがいないのでは何もしてないのと変わりはないが。
数時間座り込んでいる自分の姿を客観的に捕らえてみて、俺は小さくため息を吐いた。
何が悲しくて診療所前で延々と客を待たなければいけないのだろうか・・・・・
「今、気がついたのだが」
「ぴこ?」
特に話し相手もいないので、俺は寝そべっているポテトに話しかける。
特に近頃は、この妖怪生物は何故か俺の傍にいる頻度が高くなってきているような気がする。
主人の佳乃の傍にいなくてもいいのだろうかと時折思う事があるのだが。
まあ、それはそれとして。
「ひょっとして・・・・この場所が悪いのじゃないだろうか」
「ぴこ〜〜〜」
俺と同じような悩める仕草をして、ポテトは首を傾げる。
どうすれば犬にそんなアドリブが利かせられるのか理解不明だったが、ポテトに関しては今更である。
「大体ここは万年閉口鳥が鳴いている診療所だぞ。
ここでお客さんを見つけようと頑張っても意味がないのではないだろうか」
「ぴこぴこ!」
ポテトは俺の意見に感極まったように拍手をする。
所詮肉球なのでぽてぽてと鳴るだけだったが。
「そうかそうか、お前も分かってくれるか。お前が人間だったら親友になれたかもしれないな」
「ぴこ〜」
柔らかい日差しが照らされる場所で、熱く見つめあう人間と犬。
その光景が美しいかどうか微妙な所である。
「いい加減場所を変えてみるか。ここにいても診療所同様腐っていくだけだろうし」
ぼかっ!
俺が立ち上がろうとした瞬間に、稲妻のような閃光が目の前を閃いた。
同時に、頭のてっぺんに凄まじいまでの苦痛が走る。
「・・・どの診療所が腐っていくんだ?」
「お、お前な・・・・・・」
じんわりと涙が浮かぶのをこらえつつ背後を振り向くと、白衣を着た髪の長い女性が立っていた。
歳は食っているが、まだ衰えを見せない肌と整った容姿を持つ医者。
俺が一応商売をさせてもらってる診療所の主の霧島 聖だった。
「・・・誰が歳を食っている?」
「お願いですから、さらっと私の心を読むのはやめて下さい」
殴られたであろう自分の頭をさすりながら、俺は言った。
隣にいるポテトはというと、自分には関わりはないとばかりにまた寝そべっている。
この野郎・・・・後で川に流してやる。
「それでどうだ、首尾の方は」
「首尾って何がだ?」
「確認しなくても分かるだろう。人形芸だ」
聖は腕を組み、俺を上から見下ろしている。
「見れば分かるだろう、最悪だ」
ひょっとするとこの街は呪われているのではないだろうか。
俺が知っている限り、この商店街が賑わっている様子を見た事がないのだが・・・・・・
「ふむ、お客もどうやらさっきからポテト一人のようだな」
「ぴこぴこ!」
一人という単位の呼称はおかしい気もするが、あえてつっこまないでおく。
「いい加減何とかしたいのだが、いかんせん考えが思いつかん」
「君の芸には華がないからな。見ていて不思議だとは思うのだが」
人間正論を突かれると何故か腹が立つものである。
だが言い返してもどうせ負けるのはこちらなので、あえて何も言わないでおく事にする。
「何か工夫をしたいものだけどな・・・・客寄せになるようなものがあればいいのだが」
俺が思案げに眉をひそめると、隣に寝そべるポテトが立ちあがる。
そして二本足で立ちあがると、例の気味悪い踊りを始める。
「な、何だポテト、その踊りは・・・・」
「公共の電波に流すと逮捕されそうな光景だろう?」
初めて見るのか、聖は汗混じりにポテトの踊りを凝視している。
見慣れている俺でさえ、いまだにインパクトが強いのだ。
聖にとってはたまらない光景なのだろう。
「もしかするとお前、それを客寄せにしようとか考えてないか?」
「ぴこ、ぴこ!」
そうだと言わんばかりに、ポテトの踊りは苛烈さを増す。
なるほど、いつも一人でしている芸も仲間が増えるとレパートリーが増すかもしれない。
発想はいいと思うが、あくまでもそれは芸人として一人前である事が条件となる。
「悪いが、お前は不採用だ。そんな芸じゃお客さんがいなくなる」
「ぴ、ぴこ〜〜〜〜!?」
ガガーンとショックをうけて、ポテトはふらふらと倒れる。
グッバイ、ポテト。君の勇姿は忘れない。
「さすがにフォローしようがない踊りだったな」
「その点は俺も同感だ。それよりそっちの方はどうだ?」
「ああ、うちか。生憎だが、今日も患者は少ないな」
その内に潰れるんじゃないか、ここは。
俺が心配するのもおかしいかもしれないが、少し不安になった。
「まあそれだけこの街が平和だという事だな」
「まったくだ、はは・・・・・」
乾いた笑いを発して、後に聖は小さくため息を吐く。
どうやら少し虚しくなったようだ。
「俺もいい加減まとまったお金を作りたいものなのだが」
この街に辿り着いてもう半年以上になる。
劇的な出会いと出来事があったあの暑い夏から季節は過ぎていった・・・・・
それまで街から街へ渡り鳥のように流れてきた俺にとって、一個所に留まる事は今までなかった。
「一つ聞くが、国崎君は今でもこの町を出ていこうと考えているのか?」
「うーん・・・・・・・」
もし辿り着いた街がここでなかったら、そして・・・・・・
観鈴、美凪、佳乃。
彼女達の誰か一人でも出会わなかったら、俺はためらう事もなく頷いていたかもしれない。
「その疑問はとりあえず保留にしておいてくれ」
いずれ出会わなければいけない空にいる一人の少女。
俺の旅の目的でもあるその出会いは、いまだに達成できてはいない。
だがしかし、目の前の新しい現実は決して目を逸らせる事は出来ない。
彼女達とのふれあいに、俺は新しい発見を次々と出来たのだから・・・・・・・
「そうか、それを聞いて安心した」
聖は優しい瞳の色を宿して、小さく微笑んだ。
「安心?」
「ああ、君がいなくなると佳乃が寂しがるのでな。勿論私もポテトもだぞ」
「ぴこっ!」
聖の言葉に反応して、ポテトは白い小さな胸板をぽむぽむ叩く。
ポテトなりの一生懸命な意思表示なのであろう。
俺はその姿に思わず口元が緩み、ポテトの毛並みに手をのばす。
「どうだ、そろそろ佳乃が帰ってくる。昼は弁当でも持って山へ花見でもいかないか?」
神社に連なる道が続く山には、季節特有の華を咲かせている。
今の時期ではもう既に奇麗な桜の華を咲かせているだろう。
「いい考えだが、俺も商売があるからな・・・」
とりあえず見栄を張っておく事にする。
「どうせこれ以上待っていても日光浴にしかならないと思うが」
速攻で痛い所を突かれて、俺はのけぞる。
「お、お前な・・・・・さらっと肺腑をえぐる台詞を・・・・」
「さて話も決まった事だし、早速弁当でも作るか。
暇そうだし、君にも手伝ってもらおう」
「い、いや、俺にはまだ人形芸を見せるという使命が」
「無駄な事に時間を費やすのは人生の浪費だぞ。ほら、早く」
襟首を掴まれて、ものすごい力でぐいぐいと診療所内に引っ張られる俺。
・・・・・ひょっとすると、この街に来た時点で俺の人生は決まってたのかもしれないな・・・・
俺はその事を改めて実感して、苦笑混じりのため息を吐いた。
<終>
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