とらいあんぐるハート3 To a you side 第一楽章 流浪の剣士 第十四話




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 俺の食生活は基本的に恵まれていない。

栄養面を考えるなどナンセンスであり、俺にとっては腹を満たす事が第一優先とされる。

人間食べなければ動く事はできないし、水がなければ三日ももたずに死ぬ。

逆を言えば何か食べれば動くことはできるし、水だけでも三日は生きられる。

一人旅をするがてら、俺は金がなくなると犯罪まがいの事もやって来た。

強盗とか自分を落とす様な馬鹿な事はしないが、万引きの類は飯補給のためによくやったものだ。

ここ最近特に金の実入りが悪かった俺はろくな物を食べていない。

育ち盛りの麗しい美青年が生きていく上で、一日におにぎり一個とかカップ麺ってのはどうかと思う。

生活環境を改善したいが、今の所目処すら立たない。

なのに、だ。


「俺が久し振りに人間らしい食事が出来た事に感極まって泣きそうなのに、
お前らのその食欲の無さはどういうことだ?」


 綺堂との話もまとまり、全面的に俺の容疑を晴らす事に協力してくれるらしい。

お人好しな姪にしてお人よしな叔母もあったものだが、よく見るとこの二人は共通点がある。

顔立ちが整っているのは両者共通だが、背格好や容姿ではない。

全体的な雰囲気というのだろうか、独特な感じが二人共にするのだ。

変わり者だというのは俺に関わる時点で既に納得しているが、なんかこう一般人とは違う気がする。

月村との初対面時にも思ったが、綺堂を見てますますそう感じるようになった。

・・・・あ、そうか。

両方共に金持ちだから、それっぽい雰囲気を感じさせるのか。

むかついたのでそれは忘れて、二人に似ている部分はまだある。

こいつら、美味い食事に食い飽きているのかどうか知らんがさっきから全然食べない。


「侍君は見ていて気持ちがいいくらい、もぐもぐ食べているね」


 対面でフォークをはしたなく俺に指しながら、月村は不思議な光を発する瞳を向ける。

月村や綺堂は最初に用意された皿の料理をまだ食べ終えていないのに対して、

俺はというと既に四皿目に突入していたりする。

意地汚いと言うなかれ。腹が減っては戦ができないのだ。


「だって・・はぐじゅる・・・このスパゲティ・・じゅるにゅぐ・・・美味いからな。
たっぷり食って・・・じゅるごくごく・・・栄養つけておかないといけないだろう。
ぷは〜、ノエルお代わり頼む」

「はい、畏まりました。失礼致します」


 リビングの傍らより食べ終わったお皿を持って、ノエルはキッチンへと歩いていった。


「そういやあいつって飯食ったのか?」

「ん?ノエルは食べてないよ」


 落ち着いた表情で答える月村に、俺は今更ながら呆れたように言った。


「お前、飯も食わさずに働かせているのか?
他人の事をどうこう言うつもりはねえけど、せめて食わせてやってからにしろよ」


 俺だったら迷わず飯も食わさないような主人をぶん殴る。

俺が優しくも注意してやると、何故か月村の代わりに綺堂がじっとこちらを見る。


「あの娘を気にしてくれているの、宮本君?」


 あの娘って呼ぶ程の年齢には見えないのは、ノエルがしっかりしているからだろうか?

案外月村と似たり寄ったりの年頃なのかもしれない。

とりあえず馬鹿な勘違いをしている目の前の女を何とかしなければいけない。


「何で俺があんなメイドを心配しないといけないんだっての。
腹すかせて倒れられたりしたら、俺のお代わりはどうなるんだって事だよ」

「身も蓋もない正直者だね、侍君って・・・」


 苦笑気味にそうコメントする月村を無視して、俺はコップの水を飲む。


「うっさい。それよりそれいらなかったらくれ。俺が食べる」


 あまり手をつけようとしない月村の皿を見て、俺が親切に言った。

すると、どういう訳か月村が頬を桜色に染める。


「さ、侍君、私の食べさしだよ?!」

「なにい!?まさか捨てるつもりじゃないだろうな、こら!」

「そ、そうじゃなくて・・・・」


 珍しく顔を赤くして困惑したような表情で口を出す月村だが、俺は容赦しない。

月村は絶対エビフライの尻尾を捨てるタイプと見た。

こういう金持ちの満ち足りた食生活に、貧乏人代表の俺が克を入れなければいけない。


「お前な、エビの尻尾だって噛付いたらなかなかイケるんだぞ!
それなのに貴様という奴は、まだまだ食えそうな料理をあっさり捨てようとするとはけしからん。
父ちゃん・母ちゃんに手をついて謝れ!!」


 と激しい剣幕で詰め寄りつつ、俺は皿ごと掻っ攫ってやった。

ふっふっふ、勝利。


「あっ!?ほ、本当に食べるの!?」

「諦めの悪い奴だな・・・勿論食べるぞ。ほれ、ほれ」


 わざと美味しそうに音をたてて食べる俺。

月村め、今頃になって惜しくなってももはや手遅れだ。

食べ物を粗末にする奴は食べ物に泣くという仁義を、俺が教えてやる。

美味そうに平らげて、どうだと言わんばかりに月村を見やると・・・・おや?


「う、う〜ん・・・・・・侍君がいいならいいけど・・・」

「忍、宮本君にはそういうセンチメンタルな感情は分かり難いと思うわ」


 照れたように俺を見る月村と、優しく俺と月村を見守る綺堂。

なんだなんだ?センチメンタルってどういう意味だ?

俺はただ月村の食べ残しを食っただけじゃねーか。

試しに聞いてみると、綺堂に笑顔で黙殺された。

くそ、女の心理はよく分からん。


「さ、そろそろ話し合いに入りましょう。詳しい事情を聞かせてもらえないかしら?」


 一口飲み、コーヒーカップをかちゃりと置いて綺堂は俺をじっと見る。

先程のほのぼのとした様子のない真剣な表情だった。

俺は促されるように真面目な顔をして、昨晩の事を一から話す。

途中月村との初対面時の出会いも聞かれたが、その辺は月村に任せた。

流石にめんどくさいし、月村からの話のほうがリアリティがあるだろう。

携帯電話で綺堂に助けを求めたところまで話し終えると、綺堂はふうっと一息ついた。

無理もない。俺だっていまだに信じられないのだ。

殴り込みから始まった一日が、まさか通り魔事件の容疑者として疑われて一日が終わるとは。

まして事件の関連も何もない姪が巻き込まれたとなると、やはりショックはあるだろう。

綺堂はしばらく考え込むように思案げな顔をしていたが、やがて顔を上げて俺を見る。


「今朝、新聞やテレビで事件の事を調べてみたわ。
最近はインターネットの方が情報は早いけど、ここまで公になると変わらないわね」


 昨晩は派手にパトカーとの応酬をやったが、事はもしかして想像以上に大きくなっているのだろうか?


「被害者の傍に凶器を持って立っていたというのなら、まだ疑われるだけですんだかも知れない。
理由を説明すれば、事情聴取で終わっていたかもしれないわ。
問題は宮本君が逃げて、目撃者を傷つけた事にあるの」

「ちょっと待てよ!あの時はああしないと・・・・」

「・・・そうね、私が宮本君の立場でも動揺するわ。
取り乱すのは、むしろ当然よ。でも、警察はそうは思わないわ。
見られたから慌てて逃げたと考えた方が自然なのよ」


 うわ、素敵に勘違いされているのか俺って。


「それだけ俺の立場がやばいって事か?」


 俺がストレートに尋ねると、綺堂は慎重に頷いた。


「・・・報道規制にも限界はあるの。
これまでは正体不明だった通り魔がようやく尻尾を出したのよ?
大々的にニュースは扱っていないけれど、犯人の目星は掴んだとはなっているわ。
海鳴町も交通網は全て検問が付いていると見るべきでしょうね」


 つまり、この町から逃げられないって事か・・・・・

この町の名前が海鳴町っていうのも今初めて知った。

まったく皮肉な話である。

俺の天下の出発地点と決めたこの町の名前が分かった時に、俺は町の汚点とされているのだから。


「私達は本物の犯人に罪を着せられた哀れな逃走犯って訳ね。
隠れ家に困りながら、反撃のチャンスを待つしかない。
ああ、主人公とヒロインの愛の行方はいかに・・・・」

「ないないない。愛なんぞ欠片もない」


 どうしてそこまで月村がワクワクしているのか、俺には分からない。

やっぱりお嬢だから、刺激に飢えているとかいうやつだろうか?


「だいたいお前がヒロインって柄か。
ちょっと美人で胸が出ていて金持ちだからって、え〜とえ〜と・・・・」


 あれ、おかしいな?欠点がないぞ、こいつ。

続きが言い出せずに困っていると、月村が続きは?とばかりに俺を見ている。

どこか嬉しそうにしているのがちょっとむかつく。


「・・忍とノエルは車の行方を突き詰められると厄介ね。
車のナンバーから持ち主を割り出す事は簡単よ」


 警察の情報力は半端じゃないらしいからな。

伊達に市民の安全を保証していない。


「その辺はどうにか出来ないかな?
ノエルと月村は俺が巻き込んだだけなんだ」

「いいよ、侍君。昨日も言ったけど、私もノエルも一蓮托生だよ。ね?」

「・・・・はい」


 月村が視線を向ける先には、いつのまに入ってきたのかノエルの姿があった。

ノエルは平然とした顔で、俺の前に並々盛られたスパゲティの皿を置いた。


「お待たせして申し訳ありません。調理に手間取ってしまいました」

「いや、そんなことでいちいち怒ったりしねえって」

「・・・恐れ入ります」


 ノエルはそのまま俺の傍らに立ち、そっとテーブルを見る。

俺の隣には子狐が乗っていて、大人しく座っていた。


「でだな・・・
お前はそう簡単に言うけど、とっ捕まったらえらい事だぞ。
金持ちってそういう事にうるさいんじゃないのか?
身内関係とか学校とかよ」


 経緯はどうあれ俺が逃げた事は事実だし、事はかなり重大になっている。

もし捕まればすぐには帰してもらえないだろうし、色々影響はあるだろう。

見た所まだ高校生っぽいから、学校関係でも問題になるかもしれない。

俺の指摘に、月村ははっとした顔で綺堂を見る。


「さくら、あいつは・・・・?」
「・・・大丈夫。手はうっておいたわ。
でも、あまり話が広まると抑えきれなくなる・・・」

「・・・・・・・」


 おーい、お前ら。俺を置いて何訳の分からん話をしてるんだ?

月村は陽気さは消えて殺気立った表情をしているし、綺堂も表情を怖くしている。

ふとノエルを見ると、こいつもまた厳しい表情をしていた。


「何だ、お前ら。あいつって誰だよ?」

「え?う、ううん!何でもないよ、侍君!」


 こいつ、何かありますよって顔しやがってよく言えるな。


「別に言えないならそれでいいけどな。どうせ、俺は他人だし」

「あ・・・・ご、ごめん・・・・」


 おいおい、そんなにしょんぼりする事はないだろう。

本当に他人だからそう言っただけであって・・・・ああ、もうめんどくさい!

俺は目の前の料理を、テーブルに沿って月村の前に滑らせる。

月村はびっくりした顔をして、俺の方を見る。


「俺の目の前でそんなへこんだ顔すんなよ。俺とお前らは一蓮托生なんだろう?
それ食って、俺の容疑を晴らすべく頑張るように」


 早口でそう言って、俺は月村から視線を逸らした。

他人を慰めるなんて、俺の柄じゃないっての。

舌打ちしたいのを抑えていると、俺を見る目に気がつき斜めを見やる。


「・・・・・なんだ?」

「・・・いえ、何でもありません」


 いつも通りのおすまし顔のノエルだが、西欧風の美貌に優しい感情がよぎった気がする。

・・・気のせいだな。

月村はフォークを片手に、さっきより美味しそうに食べていた。

うむ、人間やはり食うのが一番。


「話は脱線してしまったわね。とにかく、現状では宮本君はいつ捕まってもおかしくないわ。
逃げれば逃げるほど、警察の心証を悪くしていく。
一番妥当なのは大人しく警察に事情を説明する事だと思うけど、宮本君にその気はないようね」

「当然。俺を散々追い掛け回すような連中相手に下手に出るのは真っ平だね」


 元はといえば、俺は何も悪くはないのである。

なのに、こちらから出て行って何で釈明なんぞしなければいけないのだろうか?

それに色々あって警察には近寄りたくはなかった。


「なら・・・ここにしばらく隠れておく?
この別荘は私有地だから警察も証拠確信がなければそうそう入ってこれない筈よ。
その間に真犯人が捕まるのを待つのも手だと思うわ」


 確かに厳重な警戒態勢をされているであろう街へむざむざ行くより、この場にいれば安全だろう。

警察だって、俺がこんな別荘を隠れ家にしているとは想像はつくまい。

じっと隠れている間に、警察が真犯人を捕まえてくれれば御の字だ。

そのまま何事もなく、平和に事が終わる。

元々は何の義理も縁もない事件に巻き込まれてしまったのだ。シカトすればいい。

・・・・・と、考えられないのが俺なんだよな。


「綺堂の申し出はありがたいし、協力してくれるのも助かる。
けど、やっぱり俺はじっとしてられねえよ」

「・・・さくらでいいわ。それで、どうするつもり?」


 神妙な表情で問うさくらに、俺はすくっと立ってびしっと言った。


「決まってる!真犯人見つけて、この剣でぶちのめす!」 


 俺の愛剣を高々と掲げて、俺は威風堂々と宣言した。

待つのも他人任せにするのも性には合わない。

自分の事は全て自分で最後までやるのが俺だ。


「・・・・ですが、今街中を行かれるのは危険だと思うのですが・・」


 あくまで控えめに、ノエルは指摘する。


「それに犯人が姿を表すとは限らないわ。警察の警戒にひるむ可能性がある」


 的確なポイントをついて、さくらは意見を述べた。

二人の言う事は一理ある。

状況が俺に不利なだけに、行動を取る事はイコールリスクが増すという事だ。

だけど、可能性はあくまで可能性である。


「じっとしているよりはましだ。それに、俺にいい考えがある」

「考え?」


 身を乗り出して尋ねる月村に、俺はにやりと笑った。


























<第十五話へ続く>

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