とらいあんぐるハート3 To a you side 第一楽章 流浪の剣士 第十五話




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「恭也、今晩も出かけるの?」

「ああ。戸締りはしっかりとしておくように。俺は鍵を持っていくから」

「それは分かっているけど、十分に注意してね」


 日が沈み午後九時、恭也は玄関先で靴に履き替える。

見送りに来たフィアッセは、きびきび出て行こうとする恭也を不安そうに見ていた。

彼女なりに、不穏な夜の町へほぼ毎日繰り出している恭也を心配しているである。

恭也が並み居る強豪達にも引けを取らない剣腕の持ち主である事は、彼女は承知済みだ。

だが、姉弟のように共に成長してきた恭也を思いやる気持ちは何年経とうと衰える事はない。

恭也もフィアッセの気持ちは十分に理解しており、滅多に見せない優しい笑みを向ける。


「大丈夫。見回り組の人は他にもいるし、リスティさんも同行してくれている。
フィアッセが心配してくれるのは嬉しいけど、俺は無理をするつもりはないから」

「うん、リスティが一緒なら大丈夫とは思うけど・・・・・」


 事件後の朝高町家に訪れたリスティは、恭也の夜の見回りに同行する形で現在動いている。

ここ数日間警察は懸命に操作を行ったが、重要参考人たる男の手がかりは掴めずじまいであった。

事件には恭也自身責任も感じており、事件後は毎夜のように見回りを続けている。

友人であるフィアッセより恭也の事を聞かされたリスティは、その晩より彼と行動を共にしていた。

事件があった夜に目撃された男の容姿を知っている人間という事もあるが、

民間人である恭也が事件に積極的に介入する気配を見せているので、護衛役を兼ねているのである。

もっとも恭也は男で、リスティは女。

立場的に言えば恭也の方が守るべき立場であり、恭也自身もいざとなればリスティを守る気でいた。

何にせよ連日の見回りをもってしても犯人は姿を見せず、事件も起きてはいない。

逃走した男はその後行方不明だった――


「前先先生もいまだ重傷のお弟子さんの事で心労が重なって、近頃は道場にも姿を見せていないらしい。
一刻も早く事件は解決しないといけない」


 これは恭也の勘にすぎないが、事件の第一容疑者である男は町から出ていない気がした。

ならば、取り押さえる事が出来る可能性は零ではない事になる。


「でも、恭也がそこまで頑張らなくてもいいと思う。
私は事件の事はよく分からないけど、恭也は頑張ったんでしょう?」


 いつになく必死なフィアッセだが、頑として恭也は譲らなかった。


「あの男を逃がしたのはまぎれもなく俺の責任だ。
だからこそ、こんな不幸な事件は続かないように未然に防がなければいけない」


 性格的に落ち着いた感じの恭也だが、こと決断力は人並み以上に高い。

決めた事は決して曲げず、何が何でもやり通す気性なのだ。

長年の付き合いでその事を知り尽くしているフィアッセは、それ以上は何も言えなかった。

踵をトントン鳴らして靴を履き替えた恭也が立ち上がったその時、廊下よりドタドタと音が聞こえてくる。

玄関に慌てた様子で走ってくる美由希の姿を一目見て、恭也はため息を吐いた。


「恭ちゃん!あの・・・」

「駄目だ」

「あうぅ〜、私まだ何も言ってないよ〜」

「その姿を見れば容易に想像がつく」


 白のシャツにジャージ、手に愛刀と荷物。

実戦主体である御神流の出で立ちであり、完全武装だった。

美由希の姿に、フィアッセは顔色を変えて止めようとする。


「駄目だよ、美由希!今の夜はすごく危険なんだから」

「ごめんね、フィアッセ。私もじっとしてられないんだよ」


 弱腰ではあるがそれでもフィアッセの静止を振り切る言葉に、恭也は目を見据えて言った。


「遊びじゃないんだ。多くの犠牲者が出ている」

「・・・うん、リスティさんに話は聞いたよ。
でも私はどうしても行かないといけないの」

「・・・理由を聞こう」


 血は繋がっていないが、美由希は恭也に劣らず頑固者である。

日頃は押しの弱い年頃の少女なのだが、こうと決めたらなかなか引こうとはしない体質なのだ。


「今回の事件、宮本さんが関わっているかもしれないんだよね?」

「・・・ああ。恐らくは」

「恭ちゃん、私は宮本さんがどうしても犯人とは思えないの。
きっと犯人は別にいて、宮本さんは無実で追われている。
だから私・・・・」

「真犯人を捕まえたい、と?」


 恭也の問いに、美由希はしっかりと頷いた。

美由希の表情には悲壮感はなく、むしろこれから出ようとする事に決意すら感じられる。

恭也はしばし考え、美由希に問うた。


「なぜそこまでその男を信用するんだ?一度会話を交わしただけだろう」


 前先師範より男の特徴と殴りこみの経緯は既に聞いている。

男の取った行動は確かに短絡的だが、恭也自身は好感の持てる話だった。

恭也とて修行時代は父親と全国を旅して回り、名のある道場の門を叩いた事は数知れずだったからである。

しかもその男は剣に関しては素人でありながら、単身堂々と立ち向かったらしいのだ。

もしも事件で関わらなかったら、友好関係を結べたかもしれない。

真剣な表情の恭也の問いに、美由希もまた真剣に答えた。


「あの人は剣に対してすごく真剣だった。
やり方はちょっと乱暴だけど、真正面から勝負を挑んできたんだよ?
そんな剣士が逆恨みして人を襲うなんて、私はとても思えない」

「美由希・・・・・・」


 また会おうな、といった時の男の顔は今でも美由希ははっきり覚えている。

夕焼け空に背にした、とても清々しい笑顔だった。

真っ直ぐに美由希の言葉を受け止めた恭也はしばし視線を絡ませて、再びため息を吐いて背を向ける。

一瞬拒絶されたと思った美由希だったが、恭也はそのまま顔を向けずに言った。


「自分の身は自分で守る。いいな?」

「あ・・・・・・はい!」


 ぱあっと表情を輝かせて、美由希は靴を履くべく恭也の隣に座った。

最後に恭也がフィアッセを一瞥すると、彼女は何も言わずに諦めたような微笑みを向ける。

恭也と美由希を信じるという全面的な信頼がその笑顔にこもっていた。

恭也もまたそれ以上は何も言わず、ただ一つ頷く。

二人が意思疎通していた時、台所より桃子がやって来る。


「あれ・・・?恭也は分かるけど、美由希までどうしたの?」

「お母さん、私も恭ちゃんと一緒に見回りに行く事にしたの」


 恭也と同様の説明を母である桃子に話すと、困ったような顔をした。

その表情に疑問を覚えたのか、美由希は怪訝な顔をして尋ねる。


「や、やっぱり駄目かな?でも、どうしても行きたいんだ」

「う〜ん・・・美由希の気持ちは分かるけど・・・・」

「どうかしたの、桃子?」


 フィアッセが代表して尋ねると、桃子は苦笑して答える。


「なのはから電話があって、塾で補習があるから遅くなるみたいなのよ。
最近夜は物騒だから、美由希に行ってもらおうと思ったんだけど・・・」


 なのはとは恭也と美由希の妹で、恭也と血の繋がりのある娘である。

小学生にしては利発で明るい女の子であり、皆に可愛がられていた。

桃子の言葉に、美由希は流石に選択に困ってしまう。

見回りに行きたいのは山々なのだが、さりとて妹を一人で帰らせるわけにはいかない。

街中は警察が警戒を強めてはいるものの、どこで何が起こるかは誰にも分からないのだ。

悩みに悩んでいると、フィアッセが可愛らしく手を上げる。


「桃子、私がなのはを迎えに行くよ!」

「フィアッセが?!う〜ん・・・・」

「あ、恭也〜!その顔は何?」


 恭也が考え込むのも無理はない。

年齢的にも精神的にも大人の女性であるフィアッセだが、その思考はとても平和的だった。

仮に包丁を向けられたら十中八九怯えてしまう女性である。

通り魔になのはが襲われたら身を呈して助けようとはするだろうが、それでは意味がない。

何よりフィアッセは外見は気品ある美しい女性である。

別の意味でも夜を歩く事は危険と言えた。

その事実を本人に傷付けずにどう伝えるべきか、恭也は悩みに悩んでいた。

兄の苦悩を感じ取ってたか、美由希は頬に汗を流して口を開いた。


「フィ、フィアッセも女性だし、夜道は危ないと思うよ・・・」

「大丈夫!恭也も美由希も頑張っているんだもん。
私も少しはお手伝いしないと♪」


 心遣いは本当に嬉しいのだが、フィアッセの身を思いやる二人には困りの種だった。

発端である桃子は状況が面白いのか、完全に見物気分である。

迷った末にはっきり言おうと恭也が身を乗り出した時、階段から二人の少女が歩み寄ってきた。


「あ、師匠!今から見回りですか?」

「おししょー、夜間は冷えますから暖かくして行ってくださいね」


 笑顔でそう言ってきたのは居候であるレンと、それにもう一人「城島 晶」。

見た目の男の子のような容姿と口調とは裏腹に、元気印100%の体育会系の女の子であった。

空手で鍛えた身体は引き締まってはいるが、服の上からでも女の子らしい柔らかさが見え隠れしている。

恭也と美由希はそんな二人を見て、互いに見つめあって頷いた。


「・・・恭ちゃん!」

「うむ」


 なにやら頷き合う高町兄妹に、レンと晶もまた顔を合わせて首を傾げあった。

























<第十六話へ続く>

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