kanon 「月明かりにてらされて」




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「うぐぅ・・・・怖いよ・・・」

「言うな、あゆ。余計に怖くなる」

「それにしても、本当に何かでそうですね・・・・」

「だから言うなって、栞!こういう雰囲気で出そうとか言ったら、

本当に出るっていうのが昔からのしきたりなんだぞ」

「は、はあ・・・・」

俺はとつとつと栞に語った。

その俺の声も静かなせいか、周りによく響いた。

うう、何かいやだぞ、この雰囲気。

「祐一、静かにしないと誰かに見つかるよ」

名雪がそっと俺の耳元に呟く。

「相沢は見かけによらず怖がりなんだな・・・・」

「・・・そういうお前は平然としてるな、北川」

「まあ、俺とお前の鍛え方の違いだな」

「・・・どういう鍛え方よ」

「あ、そこでつっこんじゃだめだぞ,香里。こいつはつっこむと、

調子に乗りまくるからな」

「あ,そうだったわね・・・ごめんなさい,相沢君」

「謝る相手が違うだろ,美坂!」

「あー,やかましい奴だな・・・・・

先生に見つかったらどうするんだ,まったく」

「・・・それは大丈夫」

それまで会話に入らず,俺の隣を歩いていた舞がポツリと呟いた。

「・・・これぐらいの騒音なら気づかれない」

「お,俺の声は騒音か・・・・」

「騒音じゃない。それにしても・・・・自身たっぷりですね,川澄先輩」

きっぱりといった舞に、香里はやや不信げに見ている。

まあ舞は最近までここで戦っていたからな・・・・・

だがここでその事情を香里に説明するわけにはいかないので、

俺は話をさりげなく変えることにした。

「それにしても、やっぱり昼と夜とじゃずいぶん雰囲気が変わるもんなんだな・・・」

「そうですねー、佐祐理も夜の学校がこんなに違うとは思いませんでした」

舞の後ろを歩いている佐祐理さんが珍しいものを見るように,

辺りをきょろきょろ見ていた。

いつも毎日俺たちが通うここ学校の校舎は、昼のにぎやかさとはうって変わって、

厳粛で静寂感があふれているようだった。

そんな中を、俺,あゆ,真琴、栞,名雪,舞、佐祐理さん、天野,香里・・・・
計九人が屋上へと向かって歩いていた。

あるひとつの目的のために・・・・

「おい!俺がさりげにとばされてるぞ!」

「そういやお前もいたっけ?」

「さっき会話をしただろうが!」

「どうでもいいが,地文を読むなよ・・・・・」

そんな風に俺と北川が言い合いをしていると、

「少し静かにしてください。この娘がおきてしまいますから」

相変わらず冷静に天野が俺達に注意した。

そっか・・・・たしか・・・・

「真琴,まだぐっすり寝てるのか?」

「はい・・・・お昼からはりきり過ぎて疲れたんでしょうね・・・」

天野におぶられて,真琴は気持ちよく寝ていた。

それにしても真琴を家からずっと背中に背負っているのに、

天野は疲れた様子は全然なく,とつとつと歩いている。

ひょっとしたら天野って見かけによらず体力があるのかもしれない・・・・

「夕ご飯の時も真琴、「まだ行かないの?」ってずっと私に聞いてたよ」

くすくすと笑いながら,名雪は言った。

「よっぽど楽しみだったんでしょうね。今夜の十五夜が・・・・」

香里が優しい表情をして、寝ている真琴の頬をなでる。

十五夜・・・・それはここにみんなで集まった一番の理由でもある。

普段の日本の習慣では、自宅や仕事先などで,

ススキを飾ったり、団子を食べながら月を見たり、

あるいはお祈りをするといった感じだろう。

実際、俺も今まではあんまり関心がある行事でもなかった。

でも今年は・・・・・そうはしたくなかった。





この学校で・・・・



・・・・・この町で出会った人たちと・・・・・



・・・・・・・・・・・そしてみんなで一緒に・・・・・・・



そのために卒業した佐祐理さんと舞も誘ったのだ。

真琴は待ちくたびれて寝てしまったようだが・・・・・

俺は香里のように,真琴の頬をなでながら小さく笑った。

「ボクも今日は楽しみだったんだ,祐一君!」

あゆもどうやらうきうきしているようだ。

背中のリュックの羽をピコピコ揺らして歩いている。

「楽しみにしてろよ。本当に綺麗なんだぜ」

「・・・いやに自信たっぷりだが,相沢のその自信の根拠って何だ?」

「今日のお月見も祐一さんの計画ですよね?

ひょっとして,一度学校で見たことあるんですか?」

北川と栞がもっともな疑問を口にする。

でも,うーん・・・・なんていえばいいのか・・・・

「別に見たことがあるわけじゃないよ。俺だってこの町に来て一年未満だしな。

ただ・・・・・」

「ただ・・・・なんですか,祐一さん?」

「この屋上からみんなで見る十五夜は綺麗なんじゃないかなって思っただけだよ」

俺の今日のこの計画のきっかけはそれだけだった。

ただ・・・みんなで見てみたかっただけという想いだけ・・・・

「それでいいんじゃないですか?佐祐理もこうして皆さんと一緒に,

お月様が見れるって言うだけでうきうきしますよー、ね,舞?」



コク



佐祐理さんの言葉に、舞は小さくうなづいた。

おそらく佐祐理さんは俺の想いをくんでくれてそう言ってくれたのだろう。

本当に優しくて,聡明な人である。

「まあここでどうこういってもはじまりませんから、

屋上に行って見てみましょう」

そう言って、天野はすたすたと階段を上がっていった。

「そうね・・・・・じゃあ行きましょうか?」

そして,俺達は屋上に上がっていった・・・・





「わあー,すごく綺麗・・・・・」

「雲ひとつないこともあって,くっきり見えるな・・・・・」

「・・・・・・・・・はあ・・・」

夜空に浮かぶ,ひときわ輝く新円・・・・・・・・・・

それは夜空に、より一層その存在を強調しつつも、

すぐにでも壊れそうなくらいのはかなげな雰囲気が・・・

今日この場所で俺に深く印象づけた。

それは皆も同じなのか,じっと月を見つめていた・・・・

「・・・相沢さん・・・」

「・・・・何だ,天野?」

月の光にてらされた彼女の顔が,俺のほうに向けられる。

「・・・今日,誘っていただいてありがとうございました」

「・・・珍しく素直だな,今日は・・・」

「私はいつも素直ですよ。相沢さんとは違って」

そう言って、彼女は小さく笑った。

天野の笑顔を見るのは久しぶりだな・・・・・

なんとなく俺が感慨に浸っていると、

「祐一!団子,食べようよ!」

横から見事に真琴が雰囲気をぶち壊してくれた。

やっと起きたと思ったらこいつは・・・・・

「お前な・・・・・・ちょっと月を見て浸ろうとかそういう気持ちにはなれないのか?」

「もう十分見たわよ。それより,団子,団子!」

あいも変わらず風情もくそもない奴である。

まあでも、こいつはそれでいいのかな・・・・・・

「おーい荷物係、団子用意してくれ」

「・・・荷物係とは俺のことか,相沢!」

とか何とかぶつくさ言いながらも,てばやく北川は準備をはじめている。

・・・・なかなか律儀な奴である。

「ボクもお腹がすいたな・・・・」

「あ,私もすきましたよ,あゆさん」

・・・・・こいつら・・・・・・・・

「あんまり食べると太るぞ,あゆ,栞」

「そんなこと言う人,嫌いです!」

「そうだよ!ボクだって食べてばかりじゃないもん!」

「まあ,あゆは走りながら食べているから、カロリーを消費できているけどな・・・」

「うぐぅ・・・・・それって食い逃げしてるからってこと,祐一君?」

「・・・別ににそんなことは言ってないぞ,あゆ」

「間があったよ,祐一君・・・」

いつもながら変なところで鋭い奴である。

「あゆちゃんをいじめちゃだめだよ,祐一」

いつの間にやら名雪が傍に来ていて,俺に言った。

「別にいじめてるわけじゃないぞ。からかっているだけだ」

「それって同じ気がする」

くすっと笑って,名雪は空を仰ぎ見る。

「祐一・・・・・・・・」

「うん?」

「今日は・・・・綺麗な月だね」

「・・・まあな」

「やっぱりこうして祐一やみんなと一緒に・・・・・・・

同じ夜空を見ているっていいよね・・・・」

名雪はそう言ってにっこり笑い,俺に同意を求める。

俺もにっと笑って言ってやった。

「当たり前だろ!」

「うん!」

「おーい、相沢、水瀬!早く食べないと,なくなるぞー」

少し離れたところで、北川達は秋子さん手作りの団子を食べていた。

「あ,こら,俺の分,残しとけよ!」

「・・・早いもの勝ち」

「舞、そんなバクバク食べるんじゃない!」

「はははー、いっぱい食べましょうねー」

「ああ、佐祐理まで・・・・・よーし、負けるか!」





こうして俺達は、大切な一夜を過ごした。

ほのかな光にてらされながら・・・・・・・









<終>

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