月姫「エナジー・マイ・エース」 −見つめるその先に−
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「慌てなくていいから、ゆっくり食べてくれ」
俺は苦笑して、休み時間に過ごすお供を見つめる。
緩やかな風が中庭を流れ、木々の葉を揺らす。
中庭での比較的大きな木の木陰で、俺はレンと共に過ごしていた。
横目で見やると、レンは先ほど買っていたケーキを小さな口でモソモソと食べている。
以前レンが見せてくれた夢の中でケーキを御馳走した事があったのだが、彼女はとても美味しそうに食べた。
その時の経緯を思い出してこうして罠を張ったのだが、まさかこんなあっさり引っかかるとは・・・・
当の本人はというと、あまり気にしてはいないようだ。
てっきり逃げられるかと思ったのだが、今もこうしてケーキを食べている。
目の前優先とはレンらしいかもしれない。
「う〜、何かのんびりするな・・・・」
レンは元々寡黙なので、表情も動作もいつも平然とした態度を崩さない。
この場に俺がいてもいなくても彼女は普通に過ごすだろう。
いつも賑やかなアルクェイド達と最近行動をよく共にしている事もあり、賑やかさが日常となっていたが、
こうして静かに時を過ごすのも悪くはない。
俺は木にもたれかかって、足元のレンを見つめる。
「美味いか、そのケーキ?」
「・・・・・・・・・・」
レンは黒猫なのだが、基本的に鳴く事は少ない。
こうして今尋ねても、小さく頷いた様な仕草を見せるだけだ。
だがそれでも反応が返ってくる事に、俺は嬉しさを感じていた。
「そうか。お代わりがほしいなら言ってくれ。買ってくるから」
にこやかに呼びかけるとレンは俺を見上げて、また手元のケーキに没頭する。
俺はレンのザワリとした触覚のする背中を撫でて、後頭部に腕を組んでもたれかかる。
瞳を閉じると学校からの喧騒も止んで、辺りは一層静かになった。
「休み時間の過ごし方には最適かな」
どちらかと言えば、静かな空間を遠野 志貴は好む。
精神的に不安定な時もそうだが、一人でいたい時があった。
昔はそんな時間のほうが多かった気がする・・・・・・
幼い頃遠野家より縁が遠くなった時、それまでの全てを失った喪失感は大きかった。
琥珀や翡翠には辛い思いをさせたし、秋葉にも悲しい別れを強制させてしまった。
だがその後平凡な暮らしへと移った時は、不満そのものはなかったとは思う。
記憶云々もあったが友人も出来たし、周りの環境も自分には辛くはなかった。
だけど、何故か一人で過ごす時間を一日の内で望んだりもしていた・・・・・・・
「この目のせいでもあったかもな・・・」
直死の魔眼。
万物の死を見据え、世界の根幹を揺るがす発動した能力。
二度と手放す事ができない呪いであり、俺にとっては力ともなった。
数奇な運命を呼び寄せた事もあり、今の現実を俺に与えてくれたりもした。
ひらひら舞い落ちる葉っぱを一つ手に掴む。
キザキザ模様の輪郭に、握ればたやすく潰れる感触と脆さ。
昔の生活はひょっとすると木の葉のように容易く壊れやすい時間だったのかもしれない。
少なくとも、昔と今はまったく変わってしまっている。
結局、全ての因縁から逃れる事は不可能だったという事だろう。
「遠野家での生活からもう始まっていたのかもしれないな・・・」
秋葉との再会から一連の騒動が始まった。
始まったと言うより、昔の時間が追いついてきたとも言える。
遠野家の宿命より誘われる家族の影、そしてアルクェイドとの出会いから生まれた世界の影。
両者どちらも俺には逃れられない宿命であり、この瞳が闇を吸い込んできた。
いや、それは違うか・・・・・・・
「選んだのは俺だ。導かれたのは宿命であれ、歩いたのは俺に他ならない」
逃げようと思えば、いつだって逃げられた。
選択肢は必ずしも一つではなく、いつだって安全な道は存在した。
道を作ってくれたのはまぎれもないアルクェイドであり、シエル先輩であり、秋葉だった。
自分の運命に翻弄されながらも、琥珀さんは俺を気にかけてくれていた。
翡翠が献身的に支えてくれてなかったら、俺はどうなっていただろうか。
この瞳は死を呼び寄せたが、死を切り裂く事もできた。
薄氷のごとき不安定な経過をもってして、今俺はこうしている。
「勿論、おまえもそうだぞ」
「・・・・・・・・・・・?」
「はは、何でもない何でもない」
きょとんと俺を見上げるレンに、俺は笑って首を振った。
俺が事故にひょんな事で事故にあった時も助けてくれたのはレンだった。
夢の中でも自分の身を削ってまで、頑張って支えてくれたのだ。
無論ここまでに至るまで人間関係の絡みはたくさんあったが、今はこうして仲良くできている。
考えてみると、本当に不思議なものだ。
「当たり前のように、俺は日常に戻れているんだよな・・・」
透き通るように、見上げる空は晴れ晴れとしていた。
俺は眩しさと空の美しさに目を細めてじっと見つめる。
日常も、非日常も変わらずに包み込んでくれている空。
自然の営みは人間や超常に左右される事なく崇高で、変わらぬ威厳をたたえている。
こうして思いやむ遠野志貴も小さくすら感じられる程だった。
「考えても仕方がないか!」
むっくり起き上がって、俺は座りなおした。
昔の事を考えても何も変わらないし、何も与えはしない。
アルクェイド、シエル先輩、秋葉、琥珀、翡翠、レン。
いつか別れがあるであろうその時まで、彼女達との絆は消える事はない。
「むしろこれからが本番かもな・・・・」
食べ終わり満足そうにしているレンをそっと抱いて、俺は口元を緩める。
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン♪
「おっと、時間だ。じゃあまたな、レン。付き合ってくれてありがとう」
地面にそっと降ろして俺を言うと、レンはヒョコリと首を竦めてそのまま歩いていった。
今去り際に微笑んでいたように見えたのは、俺の気のせいだろうか?
いやひょっとすると、今日ここへ来たのもまさか・・・・・・・・・
「そうだよな、アルクェイド達と同じようにあいつも大切な人だ」
また今度会った時は一緒にケーキでも食べような、レン。
もう既に姿が見えないレンに心の中でそう告げて、俺は校舎へと歩き始める・・・・・・・・・
「あ、志貴だ!志貴〜、迎えにきたよぉ〜!」
「早!?あいつ、もう来たのか!?」
ニコニコ明るい笑顔でこちらへ駆けて来るアルクェイドとその後ろを見て、俺は表情が強張る。
「何をやっているんですか、あなたは!」
教室移動なのか教科書類を手にもったまま、シエル先輩は顔色を変えてこちらへとやってくる。
これで六時間目の授業へはいけそうにない・・・・・・・
俺はげんなりとして、やれやれとため息をついた。
昼休みの騒動は、結局ばたばたの内に終わってしまった。
皆それぞれを優先したあまり、結局誰がともなく終わってしまった。
これからもこんな事はまだまだ続くだろう。
彼女達の放つエネルギーはとても強く、俺には眩しい。
でもそれは全て自分が選んだ道であり、彼女達が望んだ道でもある。
先は見据える事はできないが、きっと俺はこの道を歩き続けるだろう。
彼女達が傍にいる限り・・・・・・自分がそれを望む限り・・・・・
<FIN>
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